表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪盗は警部で探偵  作者: 仙葉康大
プロローグ
2/37

警部マイケルのプロローグ

 取り調べ室の隣室は休憩所と呼ばれていた。正式名称は第五小会議室。五、六人でミーティングをするのにちょうどよい広さだ。


 マイケルはキンリエと向かい合っていた。顔の前で十指を組み、真剣な顔を作る。足はがに股のままだった。一方、キンリエは広いおでこを光らせている。前髪を止めるヘアピンは黒色で、髪の毛と同化している。シャツのボタンは首元に一番近いものまですべて止められている。


「あれはまずかったかもな」

「すみませんでした。失態です」

「何か飲まないか? 今はビールの気分だ。キンリエもビールでいいか? 実はここの冷蔵庫の裏に」


 キンリエが目元を引き締めた。


「ふざけないでください。あなたはまだ十九歳です。未成年です。飲んでみなさい。現行犯で逮捕します」


 二人の関係はねじれている。十九歳のマイケルが警部、二十二歳のキンリエが警部補。数々の実績からマイケルの地位は妥当だった。逮捕した人数は三桁に上る。


「お前は真面目過ぎる。肩の力を抜いて、テキトーにやりゃいい」

「ザルザは殺人鬼です。何名もの犠牲者が出たんです。テキトーになんてできるわけがない。何を考えてるんですか」


 キンリエが机へ向かって拳を振り下ろした。鈍い音と共に机が凹んだ。


「考えてないんだなあ。今が楽しければいい。刹那主義ってやつだ」

「つけは未来に溜まります」

「未来は幻想だ。明日を過ごしたことがあるか? ないだろう。今日を過ごすしかないんだ。今を生きるしかない。今の連続が時間だ。今を楽しむことができれば――」


「私は哲学科の学生ではありません。いい加減にしてください。あなたは部下を叱ることもできないんですか。私はザルザに手を出したんですよ。机と同じようにザルザの顔面も凹みました。犯人にも人権があります。したがって私のした行為は重大な違法行為です。懲戒処分ものです。どうするおつもりですか」


 キンリエは机を叩きながら早口に言った。目には力がこもっている。


 マイケルは両手を挙げ、頭の上で重ねる。隅の観葉植物に視線をずらす。感情的になった女性と目を合わせてはいけない。


「どうもしないさ。懲戒処分が下るようなら、俺も退職願を出す。上は俺を手放したくない。キンリエの処分は取り消さざるを得ない。万事解決」

「卑怯なやり方です。許されません」

「誰に許される必要がある?」

「自分自身に」


 マイケルは視線を戻す。キンリエの瞳は、楕円ではなく、狂いのない丸である。マイケルの持っていない正しさがそこにはあった。


「分かってるじゃないか。自分を許してやれ。ザルザは被害者を侮辱する暴言を吐いた。キンリエは自分の気持ちに従って拳をふるった。だから俺は殴らずに済んだ。どうせ誰かが殴ってたさ」


 キンリエの肩が下がった。

 ビールではなくカフェオレを飲んでから、取り調べを再開した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ