第十三話 「またサボる」
底のない空が広がっていた。白雲が膨らんでいく。
いいサボり日和だとマイケルは思った。寝転んだベンチの硬さも気にならなかった。汽笛が鳴って、船が旅立つ。
女の顔が青空を遮った。知ってる顔だった。
「もう船は出ましたよ。乗らなくてよかったんですか?」
「今日はそういう気分じゃない。お前こそ、こんなところにいていいのか? 昇進したんだろ。警部補から警部に。あ、俺と同じでサボりか?」
「私はサボりません」
キンリエは水色のヘアピンの位置をずらした。
「昇進は断りました」
マイケルは嫌な予感がした。人差し指でほおをかく。
「あー、つまり?」
「つまり今後もマイケル警部を補佐させていただきます」
「補佐とは何だ? 具体的に述べよ」
「こういうことですっ」
拳が腹に食い込み、マイケルは絶叫した。キンリエはマイケルの襟首をつかみ、引きづっていく。
「暴力反対。さっさと昇進しやがれ」
「あなたのサボり癖が治るまでは昇進なんてできません」
「くそ。分かったよ。自分で歩く」
マイケルはため息と共に立ち上がる。背中と臀部の汚れをはらい、走り出す。どこに行くかは決めていないが、まっすぐ走った。
「待ちなさい」
声の方を振り返る。キンリエもまっすぐ追って来ていた。




