プロローグ
ミカエルは新聞を読んでいた。マグカップを口元に近づけると、コーヒーの香りが鼻を刺激した。眠気覚ましのブラックだ。
ビッグニュースが重なる日がある。今日がそれだった。新聞の一面には、写真が三枚載っており、それぞれの写真には、痩せこけた男の顔、城主と握手を交わす探偵、空のガラスケースが映っている。
三つの大事件にはあるつながりがあり、そのことにミカエルだけが気づいていた。
大量殺人犯ザルザ・リックス逮捕
四月九日、二十二時二十三分、ザルザ・リックスが逮捕された。王都サラ、第九区でシロイ伯爵に襲いかかったザルザは、マイケル警部、キンリエ警部補に取り押さえられた。伯爵は軽傷を負ったが、命に別状はない。ザルザは三月下旬から犯行を繰り返しており、七名の人間、三名のエルフ、四名のドワーフを殺害していた。犯行に使用した凶器はまだ見つかっていない。凶器の捜索は警察と探偵ミゲルが協力して行う方針だ。(関連記事2、4、6面)
王城で例の埋蔵金 発見者は探偵ミゲルと助手エドナ
四月九日十五時頃、王城地下に眠る埋蔵金が発見された。埋蔵金の存在は旧世紀から示唆されており、これまでに何度も調査を行っていたが、発見には至っていなかった。今回、第三王女の気まぐれで探偵ミゲルに依頼したところ、十五分足らずで地下の迷宮を解き明かし、埋蔵金を発見した。マナ王は謝礼として埋蔵金の一部を贈与する予定。(関連記事5、9面)
怪盗ミッシェル 国宝センドラゴの万華鏡他数点を盗む
昨夜未明、王立博物館サラディアムに保管されていた万華鏡(センドラゴ=ユーリク作)が盗まれた。晩年の作品で特に評価の高い品だった。ミント=エコーの絵画やデッサンも数点盗まれた。警備の任に就いていたマイケル警部は「今回もやられちゃいました」とはにかんで答えた。ミッシェルは今年に入ってすでに五回、王立博物館で盗みを成功させている。(関連記事3,8面)
ミカエルは肩に手をやり、凝りをほぐす。記事の内容はすでに知っていることだった。間違いはないが、真実かというと微妙だった。
マイケルとしてのミカエルは思った。ザルザの取り調べはキンリエに任せてしまおう。
ミゲルとしてのミカエルは思った。謝礼で事務所の家具を新調しよう。
ミッシェルとしてのミカエルは思った。盗んで三か月以上経っている作品は、今月中に博物館に返却した方がいいだろう。
ミカエルとしてのミカエルは思った。今日も一人三役が始まる。
壁にかかったカレンダーを見る。四月だ。13という日付に赤いインクで丸がしてある。下には「ルシー命日」と、線の細い、頼りない字で書かれてあった。