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腕ー。

作者: 緋くん

神様と呼ばれる少女はいつも見ている。祈ればいいってもんじゃない。

「天喜~。 どこだ~?」

 父が自分を呼ぶ声が聞えた。

「何?」

「お前、バイトしたいって言ってたろ?」

 確かに言ったような記憶がある、だが自分の通う高校はバイト禁止なので、あたりまえだが出来ないのである。

「確かに言ったね」

「じゃあ、明日から私の神社の仕事手伝え」

「え!?」

「イエスかノーがで答えるんだ。男なら白黒はっきりしな」

「いや、でも俺の高校バイト禁止だし…」

「だれもバイト代を出すとは言ってないぞ? だがお小遣いという名目でなら…」

 自分はそれを聞いた瞬間首を縦に振った。

「じゃあ、明日朝な。寝坊するなよ」

 お金に釣られたような気もしたが、後悔は無かった。

 …

 …

 次の日。

「おはよう」

 父へ挨拶をした。

「よし、早速そこの箒でその辺を掃いてくれ。落ち葉とか砂利とかがあるから、きれいにして」

「へいへい」と返事をして掃除を始めた、なんか思ったのと違うなと感じつつも自分は掃き掃除をした。

 …

 …

 今日は土曜日、日が昇ってかなり時間がたった。腕時計を見ると針は十時を指していた。

 参拝客はまだ一人も見ていない。

「なぁ、父さん」

 自分はすぐ近くで作業をしている父に声をかけた。

「客が来ない日ってあるの?」

「まぁ、そういう日もあるけど…。今日は多分夕方に数人来る」

「何で?」

「もうすぐ祭りがあるからな、スタッフの人とかが来るんだよ」

 祭りというのはうちの神社(天隻神社)の年一回の地元では結構大きな祭りのことである。屋台も結構でるし、客もかなりの数が来る。

 …

 …

 数時間後。

 太陽は少し傾いて、自分の腕時計は午後の四時を指していた。

 すると数人の男が鳥居をくぐって父のほうに向かった。

「いやぁ、お久しぶりです。水上由秀さん」

「今回の祭りもよろしくお願いしますね」

 数人の男と父が笑顔でそんなやり取りをする。

「あれがさっき言ってた、役員の人たちか…」

 と独り言をつぶやき、その人たちに頭を下げて自分は掃除を続けた。

 …

 …

「天喜。おつかれ。今日はもう帰っていいぞ」

 と父に告げられたので、自分は家に帰宅することにした。

 …

 …

「こんなものなのかな…」

 帰宅中につぶやいた。今日自分がやってたのは掃き掃除だけ。しかも一日中…

「もっとこう、やりがい的のを感じるものだと思ったんだけどなぁ」

 正直、一日中掃き掃除だけは身体的にはなにも辛いことはないが、精神的にキツイ。

「だるいわ」

 苦笑しながら自分は独り言を言った。

 ♢

 バイトを初めて数週間が経った。とは言っても毎日どこかの掃除ばかりだった。

 でもある日。

「天喜、天隻神社の事どのくらい知ってる?」

 まったく知らない。

「まったく知らない」

「だよなぁ、じゃあこの神社について教えてやろう」

 …

 …

「というわけだ」

 時計を見ると、短い方の針は話し始める前より一つ次の数字を指していた。簡単に言うと一時間話を聞かされた。

「父さん…」

「どうした?」

「ク〇なげえよ」

「はっはっは」

 父の話を短く説明すると、この神社は戦前に建てられて、代々自分の家系が守り続けてきたらしい。祭っている神様は学問の神様とか健康の神様とかじゃなくて、幸運の神様を祭っているらしい。父の話ではその神様は女の子で頑張ってる人には頑張った分だけの幸運を与えてくれる…らしい。だが最近はお参りに来ても幸運を与えてくれないと、

参拝客は減りつつある。だが祭りの日は毎年大勢の人が参拝に来てくれるらしい。父は

『祭りの日が儲けるチャンスなんだよ!』

 と言ってた。

「まったく、頑張ったら頑張った分だけ幸運をくれる神様か…そんなのが居るんだったら話してみたいよな」

 だれも居ない神社の部屋で自分はつぶやいた。

 …

 …

 その話を聞いて、ベッドに入った夜。

「は!」

 自分は目を開けたが、ただ白い空間が広がっているだけ。

「ここは君の夢の中だよ」

 自分の背後から声が聞えた。

「あぁ、困惑するだろうけど落ち着いて。悪い夢にはしないから…多分」

 自分は声のする方向に目線を向けた。そこには自分くらいの年の少女が立っていた。

「お前はだれだ?」

 今自分の中にある疑問をそのままぶつけた。

「誰だって…君が神社で話してみたいっていうからこうやって話す場を設けてあげたんですけど。」

 は?行ってる意味が分からない。

「は?言ってる意味がわか…」

「ああ! もう! 私は天隻神社の神様だよ!」

「あぁ、なるほど…はい?」

 確かに神様と話してみたいとは思ったと思う。だが目の前の少女がほんとに父の話してた神様なのか…

「信じてないな? まぁ、仕方ないよね。そういうオカルト的なのは信じてくれる人少ないもんね。まぁいいよ! 君がどう思っても、私は神様ですし」

 自称神様はそう言った。でもそのセリフはその少女を神様だと信じさせるきっかけともなった。なぜなら自信満々に「えっへん」というようなポーズをとって見せたからだ。そこまで自信満々に言うってことはきっと神様なんだろう。

「じゃあ、神様。神様って何でもわかるっていうけど、ほんとに何でもわかるなら俺の名前わかるよね」

 自分は相手を試すよな事言ってみた。

「もちろん、水上天喜…だよね」

「ほんとに知ってるんだ」

「当たり前じゃん、お父さんが神社で大声で君の事呼んでたもの」

 そりゃそうだ、父が自分の事を大声で呼んでた、誰でもわか…

「待てよ?」

 そうだおかしい、神社で父は確かに俺の事を呼んだことが何回もある。だがそれは二人きりの時だけだった。そうう、あの場で父に名前を呼んだとしても誰も聞こえるはずがない。ていうことは目の前の女の子は本当に…

「うん、そうだよ。本当に神様」

 とうとう口にもしてない、頭の中だけで考えてたことを読まれてしまった。

「もう、信じ…」

「…るしかない!」

 また先読みされた。

「神様、質問していいですか」

 相手は神様、自然とタメ口が喋れなくなる。

「いいけど、その様付けやめてくれない? あとその敬語。なんかウザい。」

「じゃあ、何て呼べば…」

「うーん、神様感は無くしたくないから…神奈ってことでよろしく。」

「わかった、じゃあ神奈質問していいか。」

「なんだね天喜くん」

「最近、神社来る人が減ってきてる。幸運が来ないとかなんとかで。幸運与えるのやめちゃったのか?」

 すると神奈はにっこりと笑って答えた。

「いいや? 頑張ってる人には、その分の幸福を送ってる。だけどさ、頑張ってない人にもポンポン幸福送るわけじゃないよ。頑張りもせずに幸福だけは欲しいって、そんなずるい奴には何もあげないよ。私は」

「確かに。じゃあ次の質…」

「はぁ、おなかすいたなあ。」

 次の質問をしようとした瞬間、神奈はそういった。

「毎日お供え物してるじゃん、それ食べないの?」

「はぁ? 毎日和菓子とかお酒じゃん、あんなの二十年も食べたら嫌になるわ。とはいっても、私は神様だから何も食べなくても生きてられるけど」

「じゃあ、いいんじゃないの?」

「は? そういうのじゃなくて、何だっけ…そうだケーキ! あとカフェとかにも行ってみたいわ!」

「女子か」

 見た目は女子だ。

「でもね? 祭りの日はみんなが色々変わったものを供えてくれるから、私、お祭りだけは好きだなぁ。何十年も前から色々なお供え物を見たけど、毎年違うものが供えられるから、毎年楽しみなんだ」

 …

 …

「結構話したね。結構仲良くなれたかな?」

「そう? じゃあお近づきのしるしに…」

 と自分は右手をさしだして、握手を求めた。だが…

「…」

 神奈は黙り込んで、うつむいていた。だがその理由がすぐにわかった。

「お前、なんで右腕無いの…?」

 神奈はうつむいたまま…

「わかんないけど、三十年前くらいに病気とかとは無縁のはずの私の体に突然引き裂かれるような激痛が走ったのよね。んで気づいたらこっち側の肘から先の部分が無くなっちゃってた」

 と笑顔を作って言った。

「あ、神様だよ? 私。痛かったのその時だけだし、全然大丈夫だから」

「そっか…」

 あまり、気にしないでおこう。どうせ夢だし、気にしたとこでどうこうなる話でもない。

「君の部屋では今頃時計がなってるよ、じゃあまたね」

「お、おう」

 突然『またね』と言われたので、驚いた。でもやっとこの変な夢ともおさらばだ。

 ♢

 ジリリリリリ

「は!」

 あたりを見渡す…いつもの天井、いつものカーテン、いつもの外の景色。

「変わった夢だ…」

 起きて考えてみれば全部嘘で、夢だったのではないのかと思えてくる。

「学校行こ…」

 とつぶやいて自分は身支度を整えることにした。

 …

 …

「おお、天喜。おはよう」

「おっす」

 朝登校すると友人が挨拶してきたので、自分も挨拶を返した。

「なぁ、一つ質問していいか?」

「どうしたんだよ、朝から…」

「お前さ、神様がいるとしたら…信じる?」

 別に深い理由はないが質問してしまった。

「うーん、ご利益ちゃんとあるなら信じてみようとか思うな」

「ご利益? 例えば?」

「彼女出来るとか?」

 友人はとても気持ちの悪い笑顔を浮かべながらそう答えた。自分は昨日の夢を思い出した。

『頑張りもせずに幸福だけは欲しいって、そんなずるい奴には何もあげないよ。』

 そして自分は友人のほうに身体を向けて

「無理じゃ」

 と自分は歯を見せるような笑顔を作って言った。

 …

 …

 学校が終わり、放課後。

 友人たちに『また明日な。』と言って神社に向かった。その頃には昨日見た夢の事など忘れてしまっていたが…

「今日は何をするんだろう…」

 と下を向いて鳥居をくぐって神社に入ると…

「やぁやぁ、天喜くん」

 頭の上から、夢の中で聞いた声が聞こえた。

「わ!」

 自分は叫んでその場に座り込んでしまった。

「おいおい、そんなに驚くことかな?」

「か、神奈…だよな」

「昨日会ったばかりでしょ? もう忘れたの?」

 別に忘れてて確認をとったわけではない。何が何なのかわからなくておもわず聞いてしまった。

「おーい、天喜! 来たんなら掃除してくれー」

「あ、お父さん呼んでるよ?」

「今やるよー」

 と返答して、いつも通り掃除を始めた。

 

 …

 …

「ねぇねぇ、ケーキ買ってきてくれた?」

 と言って、神奈は顔を覗き込んできた。

「何でケーキ…?」

「昨日、夢の中で『ケーキ食べたい』って言ったはずなんですけど…」

 記憶をたどってみる…

「確かに言ったかもしれんな」

「楽しみにしてたのになぁ…ほんとになあ…食べてみたかったなぁ…」

 と言いながら神奈は地面をゴロゴロと転がり始めた。

「あーー、そんなだから女の子から好かれないんだぞー」

 と地面を這いながら言って、足をコツコツと殴ってくる。

「もう! 分かったよ! 明日買ってきてやるから、それ以上うだうだ言うな」

 と言うと、神奈は目の色を変えて…

「ほんと!? やった!」

 と無邪気にガッツポーズをとった、なんでこんなに無邪気な奴が神様なんだろうか。

「おい、天喜…」

「は、はい!?」

 急に父に呼ばれたので変な返答をしてしまった。

「お前、今誰と話してたんだ?」

「え? そりゃあ、かん…」

 と喋ろうとした瞬間、神奈は自分にしか見えてないんじゃないかと思ってしまった。

 それと同時に…

「ごめんね、私の事は天喜くんにしか見えないようになってるんだよ」

 と神奈が耳打ちしてきた。そして父に…

「ああ、今度なんか英語の暗唱テストがあるんだよ…その練習かな」

 とひきつった笑顔を浮かべながらそう答えた。

「そうなのか? その割には日本語っぽかったが」

 だよなぁ、そりゃあ日本語ですもん。

「そ、そうかなぁ…まぁ発音がよくないからじゃない?」

 と結構涼しい次期のはずなのに額に汗をかきながら言った。

「ふーん…ならいいが。とりあえず、荷物運ぶの手伝ってくれ」

「分かった。」

 と父について行った。その後ろで神奈は左手で『ナイス言い訳!』って感じのサインをだしていた。

 …

 …

「ふう」

「お疲れさん、今日は帰っていいぞ」

「はーい」

 と父に言われたので、帰ることにした。すると…

「ねぇ、明日はケーキ忘れないでよ」

 後ろから神奈に言われた。

「はいはいはい、分かったから…」

「もし買って来なかったら…」

「来なかったら? 何?」

 何されるんだろう、何だかんだこいつは神様…本気を出されたらやばい…と思う。

「殺しはしないけど…一生女の子に嫌われ続ける呪いでもかけてやる」

 とこちらに人差し指を向けて、無邪気に笑いながら言ってくる。

「絶対だぞー」

「分かった分かった」

 と言いながら鳥居をくぐった。すると…

「え?」

 と言って、自分は振り返った、何かが聞こえたわけじゃない、さっきまで聞こえてたものが急に聞こえなくなったからだ。

「もしかして…」

 と自分はあることを思いつき、自分はもう一度鳥居をくぐって神社に入った。

「あれ…もう帰ってきたの? 忘れ物?」

 鳥居をくぐった瞬間に神奈の姿が見えた。すると神奈はこちらをじっと見つめて、何かを理解したように数回うなづいて…

「言ってなかったね、私はこの神社の中でしか見えないし、話せないんだよ」

「なるほど、でもじゃあ何で夢の中では話せたんだ?」

 神社の中でしか話せないと言ったが、夢の中では大丈夫って言うのはちょっと引っ掛かった。

「ああ、それは…何て説明すればいいかな…周波数? がたまたま君とマッチングしてたからかな」

「そっか、ここか夢の中じゃないと話せないんだな」

「そうそう」

 と頷きながら言うのを見て、自分はまた鳥居をくぐって帰ることにした。

 帰宅した瞬間自分は寝ることにした。

「あ、ケーキ買わねえと…」

 とつぶやいて、布団の中に潜った。

 ♢

 数日後、割と神奈とも仲良くなった。

「なぁ、父さん。これはどこに持ってけばいい?」

「ああ、それはその辺において大丈夫だ。次はそこの段ボール運んでくれ」

 今、自分たちは来週にある天隻神社の年に一回の祭りの準備をしている。屋台の骨組みも続々と運び込まれている。

 いつもとは違う、割と賑やかな雰囲気だ。だが他にも違うところがあった。

「どこに行ったんだよ…あいつ」

 そう、神奈の姿が見えない。いつもなら鳥居をくぐった瞬間に話しかけてきたりするんだが。

「父さん、ちょっと休憩していい?」

 別に疲れたわけではない、神奈を少し探してみようと思っただけだ。

「お? いいぞ。お昼時だしな、その辺で飯食ってこい」

 許可も出た、ちょっと探しに行くことにした。

 …

 …

 建物の外を探したがどこにも居なかった。おそらく建物の中だろう。

 そして、ご神体のある部屋に行った。

 建物内は無人だ。だがここも何かいつもと違う。

「なんだ? この感じ」

 なんというか、神奈は居ないけど神奈の気配はする。

「?」

 よくわからないが、何かを感じてその方向に顔を向けた、そこには小さな扉があった。だがその中身が何かは分かっていた。

「ご神体…」

 自分は中身が気になったのでその扉に手をかけたが、後ろから声をかけられた。


「そこ鍵かかってるよ」

 それは聞きなれた声だった。

「か、神奈!? お前、どうしたんだよ。」

 神奈は一目みてわかるくらい体調が悪そうだった。そして右腕をさするような動きをしていた。

「おっかしいなぁ、神様だから、痛みなんて感じないはずなのに…」

「何がどうなってるんだ?」

 と深刻そうに自分が聞くと…

「わかんない、けど多分私の片方の腕に何かあったんじゃない?」

 と変な作り笑いを浮かべ、そう言ってきた。

「お前の腕って、まだどこかにあるのか? ただ無くなっただけじゃないのか?」

 自分は今の今まで腕はどこかに行ったと思っていた。

「なわけないでしょ? あと私は神様よ? 自分の片腕くらいどこにあるかわかるよ」

 俺は目の前の神奈が神様でもなんでもなく、ただの同級生の女の子にしか見えなかった。

「なぁ、俺に何かできることないかな」

 別に特別な理由はない。ただ無視はできなかった。

「そうだなぁ、じゃあまたケーキ買ってきて?」

「は? 今そういう状況かよ」

「ごめんごめん、冗談だよ」

 と無理やり笑顔を作ってるのがわかるような下手な笑顔を浮かべた。

「んで、真剣に何すればいい?」

「私の腕…取ってきて」

「それで、どうにかなるのか?」

「わからない…でもわかるの。この無いはずの腕から力が吸われていくのが…」

「取ってくればいいんだな?」

「お願い…」

 聞かないわけがない…でもどこにあるんだろうか。

「お前、自分の腕の場所くらいわかるって言ったよな? じゃあ今どこにあるかわかるよな!」

「それはわかんない、途中で自分の腕じゃなくなったからだと思う」

「自分のじゃなくなる?」

 言ってる意味がまったくわからなかった。

「じゃあ、鍵はそこの下に置いてある木箱に入ってるから、その扉開けてもいいよ」

 神奈に言われた通り木箱の中の鍵を取り出して、その扉をあけた。中には注連縄をくくりつけられた木片のようなものが入ってた。だが三分の一が不自然に斬られたように見える。

「そう、天喜くんも思ったよね、不自然だなって」

「じゃあ、ここに無い三分の一が、お前の…」

「そうだよ、私の腕だった部分」

 いろんな事があって気にならなかったが、一つの疑問があった。

「私のだったって…どうやってお前のじゃ無くなったんだよ、普通ならお前の物のままじゃないのか?」

「多分だけど、私の腕だった部分のご神体に新しく神様を宿らせたんだと思う。私もこの板に宿らされたようなもんだし」

「それなら、その腕はお前とはまったく関係の無いものになるんじゃないのか?」

「うん、ちゃんと手順踏んでご神体を二つに分けるのならいいんだけど、何もせずに切って、そのままもう一つの方に、無理やり神様宿らせようとしたから、中途半端になってるんだよ」

「つまり、もう一つの方はお前のであってお前のじゃない?」

「そうとらえてもらえれば…」

「でも、例えそのお前のもう一つの方を取って来たとしても、そのあとお前が大丈夫になるはずがないだろ?」

「その辺は大丈夫、ちゃんと私の腕の上に宿らされた子を祓ってくれれば…大丈夫」

 とまた、神奈はこちらを向いて無理に笑って、また続けた。

「あと、多分だけど…私の腕に宿らされた神様は、きっとかなり怒ってる。説得もせずに無理やり持って帰ろうとしないでね…」

「何で? 早くしないとダメだろ?」

 当然だ、急がないと神奈が危ない。

「私の右腕から、すっごいピリピリするような痛みがずっと私に流れ込んできてる。それも何年も前から。これはきっと恨みの念…だから…気を付けて?」

 自分はこくりと頷くと、「よかった」とだけ言って、神奈は姿を消した。

 …

 …

「父さん!」

「ん? どうした天喜、そんな急いで」

 父はとても不思議そうな顔をした。だがうかうかしてられない。

「この神社でさ、三十年くらい前かな…うちの神社のご神体二つに分けられたと思うんだけど、もう片方ってどこにあるの?」

 それを聞いて父は…

「誰に、聞いたんだ…?」

 と、とても驚いた顔をしていた。

「まぁいい、教えて悪い訳じゃない。ちょっと来なさい」

 と父につれられ事務所に連れて行かれた。

 …

 …

 自分は事務所の椅子に腰をかけた。そして父はある写真を見せてくれた。

「これは父さんの、父さん…まぁ天喜のおじいちゃんだな、おじいちゃんがこの神社で宮司をやってた時の写真だ」

 その写真は白黒で色あせていたが、見慣れた景色が写っていた。だが違う部分があった。

「天身神社…?」

 そう、今は天隻神社と書かれている看板にそう書かれていた。

「天身神社…この神社がそう呼ばれていたのは、お前がさっき言った出来事がある前の事だ」

「そうだ、もう一つのご神体はどこにあるんだよ」

「私は分からない、おじいちゃんに聞ければわかるんだが…」

 自分のおじいちゃんはもうすでに亡くなっている。聞きようがない。

「その、もう一つのご神体が祭られている神社の名前も分からないの?」

 何か手がかりはないか、自分は必至だった。

 父は『少し待て』と言ってまたアルバムや棚を漁って、一枚の写真を出してくれた。

「この写真がその神社だ…名前は写真の裏に書いてある」

「天腕神社…」

 『腕』という文字に驚いてしまった。きっとわかっていたのだ。ご神体に神奈の腕が残ったままだったことに。

「ところで、天喜…急になんでそんなこと言い出したんだ?」

「いや…その…」

 神奈の為だとか言っても通じないだろうし…どうすればいいのだろうか、と考えてると…

「お前も見たのかもな…神様を」

「え?」

「私のおじいちゃん…お前は会ったことないが、お前の曾おじいちゃんは生きてる頃、私に変な話ばっかしてきた…『神様が夢で毎年お供え物が一緒で飽きたらしい』とかほんと何言ってるんだか、って感じだよ。でも曾おじいちゃんは嘘ついてるような人じゃなかったし、そんな目をしていなかった…からお前も見たのかなって」

「…」

 見たことも話したこともない曾おじいちゃんが初めて身近に感じた。

「天喜…行くんだろ? その天腕神社に」

「うん…」

「よし、じゃあお前は今週バイト来なくていい、その代り祭りの日は来い…じゃあ頑張れよ」

 と言った父は今までで一番無責任で、一番かっこよかった。

 …

 …

 自分は祭りの準備をやめて事務所内を探した。だが…

「なんだこりゃ…」

 どう見ても関係ない雑誌とかがゴロゴロでてきた。

「年期入ってるなあ、BGってなんだよ…今で言うOLの事か?」

 とまったく天腕神社につながる情報は全くなかった。

「これホントにあるのか? 一時間は探したぞ」

 と自分は疲れて事務所の椅子に座って天井を仰いだ。

 時計は十五時を指していた。

「次はどこ探すかね…」

 すると頭の中で声が聞こえた…

『天喜くん、天井の裏に色々おいてあるよ』

 と今にも消え入りそうながら力強い神奈の声がした。自分は驚いたが何も言わずに天井を見まわした。

 すると明らかに無理やり釘で止めたような場所が一ヵ所あった。

「そこか…」

 とつぶやき、バールを持ってきて、そこに刺さっていた釘を抜いた。そして手を中に伸ばしてみると木箱手に当たったので、それを引っ張り出した。

「ふぅ、これまた年期入ってるなあ」

 木箱を開けると、すごい量の埃が舞った。そして中身には天腕神社の写真と所在地が書いてあった。

「県北か…」

 天腕神社は同じ県内、で県北にあるとある町にあることが分かった。自分はスマホでその町を調べた…ちなみに天腕神社で調べてもヒットはしなかった。

「電車で行ける…」

 明日は今日まで試験で早帰りだったが、明日からは丁度冬休みだ。泊まりで県北に行くのも可能だろう。

 …

 …

 その日の夜、夢の中に神奈は出てこなかった。

 それは神奈に余裕が無いと言う事を物語っているようだった。

 ♢

「おはよう、今日はちょっと出かけてくる。もしかしたら泊まりになるかも」

 とリビングの父に告げた。

「ああ」

 とだけ父は言った。

 …

 …

 天腕神社のある町までの切符を買って、電車に乗り込んだ。その町に近づくにつれて電車内の人は減っていった。最終的に貸切状態になった。

「そんなに有名じゃないのか…」

 小学校のころに数回聞いたくらいで何があるのかよくわからない。景色をみてると家は少なく、緑が目立ち始めた。

 …

 …

「すいません、降りないんですか?」

「は、はえ!?」

 目を開けると見知らぬ老婆が自分の肩をゆすって起こしてくれた。どうやら寝てしまっていたようだ。

「ああ、どうも。助かりました」

「いえいえ、それよりもあなた…何をしにこの町へ?」

 そういえば神社のある町は分かったが正確な場所は分からなかった。ここで聞き込みをするのも悪くないだろう。

「あの、天腕神社…ってどこにあるか知ってませんか?」

「天腕神社…」

 神社の名前を聞いた瞬間、老婆の顔色が変わった。

「知りませんかね?」

 再度聞いてみた…

「すいません、知りません、知りませんから。はい」

 と言って老婆は逃げるように電車のドアから出て行った。

 …

 …

「はぁあ」

 とてつもなく大きなため息をついた。

「お客さん、はるばるこんな何もない町に来てくださって…お疲れでしょう」

 今、自分はこの町唯一の宿泊施設に来てる。今そこで働くおばさんに話しかけられているところだ。

「そういえば今日は何をしにこの町へ?」

 とおばさんに聞かれたので答えた。

「いえいえ、自然豊かな場所でリフレッシュしたかったんで、疲れるってことはないですよ」

 と満面の作り笑顔で聞いた。

 今日一日、町に出会う人全員に『天腕神社はどこにありますか。』と聞いて回ったが、みんな…

「なんで無視して逃げるんだよ」

 とつぶやいた。

 そう、最初に電車で会った老婆と同じような対応をされた。一日中それをされ続けたもんだから、色々と疲れてしまった。

 きっと、ここで天腕神社とはNGワードなのだろう。

 まぁいい、ちょっと喉が渇いた。部屋の外に自動販売機があったはずだ。ジュースでも買おうと、部屋の外に出たら自販機の前に、同じ宿泊客だろうか、老翁が立っていた。

「あ、どうも」

 会釈だけしておいたが、老翁はこちらをジッと睨み付けた。

「な、なにか?」

 老翁があまりに見て来るので、何が言いたいのか聞いてしまった。

「お前さんか、例の神社の場所を嗅ぎまわっとる若者というのは…」

「へ?」

「ついてきなさい」

 例の神社というのは天腕神社…?

「はい!」

 自分はその老翁についていくことにした。何か手がかりを持ってるかもしれない。 

 …

 …

 老翁の部屋に入った。老翁は部屋の床に座って、新聞をこちらに差し出してきた。

「その新聞をみればわかるじゃろ、なんで今日この町のみんなが何も教えてくれなかったか」

 その新聞には…

『三十年前、この町に建てられた天腕神社にとある噂がたっている。それはこの神社に関わると突然失踪してしまうというものだ。この神社は建設後、すぐに取り壊そうという計画が立てられたが、その計画に関わったもの全員が一夜で姿を消しているのだ。これは神社の呪いなのか?』

 と書かれていた。

「こ、これは…?」

「お前さんの用がある神社に関する記事だよ、何年も前のものだけどね。みんな怖いんだよ、失踪してしまうかもしれないからね」

「でも、だれか霊的な力を持ってる人たちが対処するっていうのは無かったのですか?」

「そんな人たちもいた…が神社の鳥居の前に立った瞬間、悲鳴をあげながら逃げ帰ったんだよ」

 と老翁は部屋の窓の外を見るようにして言った。

「でも、自分は行きたいんです」

 それを聞くと老翁は、鞄から色あせた一枚の紙を差し出した。

「それは、神社の計画段階で宣伝用に作られたチラシだ。これはお前にやる。そうとう前の物だがな」

「ありがとうございます」

 そのチラシには天腕神社への地図が載っていた。

「ああ、受け取ったらさっさと失せてくれ、こっちまで呪われちゃ敵わねえ」

 と老翁は口ではそう言いつつ、笑っていた。

 …

 …

「山奥にあるのか…」

 と自分の部屋にもどって、チラシを眺めながらそうつぶやいた。

 ♢

 翌朝…

「さぁ、行くか」

 顔を洗い、身支度を整えて宿泊施設を後にしようとする。

「おい!」

「は、はい!?」

 昨夜の老翁に呼び止められた。

「あの神社に行くなら、これを持っていけ」

 と言うと、老翁は自分に鉈と軍手を手渡してきた。

「こ、これ…いいんですか?」

「あの神社のある山は、しばらく誰も手を付けていない。だから草が生い茂っている。それが無いとケガするし、神社にはたどり着けないぞ」

「ありがとうございます」

 と自分は頭を深く下げて、礼を言った。

 自分は老翁からもらった物を手に神社に向かうことにした。

 …

 …

「この上か…」

 地図に記された山に着いた。階段があるはずの場所には草が生えているが草の間からチラチラと石段が見える。一応道にはなってるのだろう。

「行くか…」

 自分は草むらと化した階段を、鉈で切り開きながら登っていった。

「にしても…」

 気味が悪い、周りは山の中なので木々が生い茂っている。だが鳥の声も物音ひとつ聞えてこない

 聞こえるのは自分が鉈で草を叩き切る音だけ。でも帰ろうとはまったく思わなかった。

 …

 …

 階段を進むこと20分。

「これか…」

 目の前に鳥居が見えてきた。まったく手入れされてないので、今にも崩れそうだ。崩れてないのが奇跡とも思えてくる。少し小突けば倒れてきそうだ。

「行くしかねえな」

 とつぶやいて、自分は引き続き階段を登っていった。

 …

 …

「あんた、だれ」

 鳥居をくぐった瞬間、聞いたことあるような声が聞えた。だがその声は記憶にあるそれとは比べ物にならないくらい、邪気を孕んでいた。

「あら、見たところ、ここを取り壊しに来た奴にも見えないし、遊び半分でここに来たわけにも見えないわね」

 声のする方に視線を向けたら、そこには神奈と瓜二つの背格好をした少女が鳥居の上に座っていた。

「お前は誰だ?」

 別に聞きたかったわけじゃないが、何を言えばいいのか分からなったので、そんなことを言ってしまった。

「それ聞いてどうすんの、それよりあんた何しに来たのよ。こんな荒れたところに…」

「俺は君を…」

「私を…?」

 ここで言葉が詰まってしまった「回収しに来た。」なんて物みたいな扱いをしたら殺されそうだ。

「か…解放しにきた」

「あんたに出来っこないじゃん。そんなこと」

 自分はそれを聞いて喋れなくなってしまった。自分は確かに特殊な力はない。

「でも…君は今の状況が嫌なはずだ、俺がお前がいるべきところに帰してやる」

「私は嫌じゃない。私がしたい事はね、この私を無理やりこんなところに縛りつけた奴らに復讐すること」

「そんな復讐何も意味がない。君がだれを殺そうと何も解決しない」

「じゃあ、私をどうやって解放するの?」

「君は元は一つのご神体だったんだ。ここにあるご神体を元のご神体に戻す」

「だろうね、私がこの体に宿らされた時、すでに何かがこの体に宿ってた…まぁただの腕だったんだけど」

 そういうと彼女は鳥居から降りて本殿のほうに向かった。


「やり方も雑だし、神社でこの町を活気づけるとかいう理由で建てられたんだけど。信仰心もないのに神社建てたらそりゃ祟るわよ」

 と言いながら彼女は、荒れた本殿の木の扉を開けてご神体を取り出した。

「じゃあ、君はどうして欲しいんだ」

「言ったら、その願い事かなえてくれるの?」

 自信はまったくない…けど…

「もちろん」

 と彼女の目を見て答えた。

「じゃあ私のこと、信じてよ」

「…ん?」

「この町の人間は私を物としてしか見てなかった、誰一人として私を信じようとはしなかった。」

 何を頼むかと思えば…

 そして自分は笑って言った。

「お前かわいいな」

「はぁ!?」

 彼女は顔を赤らめながらそう言った。

「まぁいい、俺はお前の事を信じる。だってこうやって話してるんだから」

「じゃあ…その私が元にあった場所に連れってって」

 と彼女はこちらに指をさしつつ言った。

「もちろん」

 と自分は笑顔で答えた。すると彼女もさっきまであった邪気が嘘かのように笑って。

「じゃあ、よろしく」

 と彼女はご神体を自分に渡してきた。

 ♢

 その日の夜、自分はご神体を持って昨日も泊まっていた宿泊施設に帰った。

「なんでこんな古臭いとこ泊まってるの」

「ここしか泊まれる場所は、この町にはないの」

「あっそ」

 どうやらご神体を持ってると、神社から出ても話すことができるらしい。

 …

 …

 自分は自動販売機でジュースを買おうと部屋を出て、自動販売機を眺めていた。

「お前さん、やりたい事は出来たのか」

 声の方向を向くと、鉈と軍手を渡してくれた老翁が立っていた。

「はい、できました…そうだ! お返ししないと!」

 と自分は部屋に飛び帰って鉈と軍手を持ってきて、老翁に手渡した。

「これは、役に立ったか?」

「そりゃ、もちろん」

「ならいいんだ」

 自分は自動販売機の方向に向いて、ボタンを押した。

「そうだ、お礼と言ってはなんですが、何か飲み物要ります?」

 と高校生ノリでそう言って、老翁が居た方向に視線を向けると…

「え…?」

 そこには老翁の姿は無かった。自分は仕方なく、自分の部屋にもどった。

「ねぇ、おじいさんと話した?」

 部屋に入った瞬間、例の彼女に話かけられた。

「え? うん。」

「そっか、そのおじいさん。私が殺した一人なのよね」

 意味がが分からない。

「どゆこと」

「なんか知ってる気配だなって思った。多分私の神社のことどうにかして欲しくて、この世に姿を現したんじゃない?」

 と軽いノリで言ってくる。実際結構怖い事だ。

「まぁ、悪い事は無いでしょう。そのおじいさんは、もうこの世に残る理由がないから、多分あの世に帰ったんだよ」

「そっか…」

 とだけ言って、自分は布団に入った。

 ♢

 電車に乗って、天腕神社に帰ってきた。

「よし」

 とつぶやいて、鳥居をくぐった。

「やぁ、お帰り」

 そこには神奈が立っていた。

「お前、もう大丈夫なのか!?」

「うん。まぁそっちの彼女の邪念が消えたからじゃない?」

 すると神奈はもう一人の神奈二号? に近づいて行った。

「なによ」

 神奈二号は睨むように言った。

「ご神体を元にもどしたら、あなたは消えてしまう」

「それくらい…知ってるわよ」

「それでも良い?」

「良いわよ…もう疲れたし」

 神奈は笑顔で神奈二号の手を握った。

「そして、じゃあ天喜。ご神体同士をかけた部分でくっつけて、注連縄でくくりなおして」

「そんな雑な方法でいいのか?」

「いいの。神様公認。」

 自分は『分かった』と言って、本殿のご神体と持って帰ったご神体をくっつけた。

 すると神奈二号の体が光って、光の粒になって消えていった。

「最後に、ありがとう」

 とだけ言って彼女は光の粒になって消えていった。

「私も、ありがとう。おかげでほら」

 と言って神奈は今までなかったはずの腕をこっちに振って見せた。

「私もそろそろ、行かないとダメだね」

「そうなのか?」

「まぁ、姿は見えなくなっても、祭りの日にはここに居るし、見えなくてもずっと見てるよ。それと」

「それと?」

「祭りの日にはさ、ケーキ買ってきてよ」

「なんだ、そんなことか。お安い御用」

 すると彼女の体も光の粒になっていきだした。

「じゃあ、最後にさ…握手してよ」

「え?」

「初めて話した日、結局握手しなかったから…」

「うん」

 と言って自分は彼女が伸ばした手を握って握手をした。

「またね」

「うん、またな」

 そして神奈も光の粒になって消えた。






「おーい、天喜!」

「今行くよ、父さん」

 今日は年に一度の祭りの日だ、屋台は準備を完了し、あとはお供え物をするだけだ。

「このケーキだれが置いたんだ?」

 と父が言ったので…

「神様だって、毎年同じものばっかじゃ、飽きるからね」

 そう言った瞬間。

「今年は去年とちがって、チョコケーキだね」

 と後ろから少女の声が聞えた。

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