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飽くなき悪魔とヒキニート  作者: ハンズ
第一歩
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猫とニートのリスタート

目の前が真っ赤に染まる。まるで絵の具で染めたようにただひたすらに真っ赤だ。そんな風景を見ながら自分が死んでいくのをゆっくりと感じる。

全身の感覚がない。息ができない。声にならない音を口から絞り出す。

「あ…が……」

死ねない。まだ死ねない。死にたくない。

さっきまでとは正反対の願いを脳内で復唱する。だがそれは叶わない。叶うはずもない。目の前に転がっているのは自分の腕だ。右腕が横たわっている。

「クソ…が…」

死にゆく自分にか、それとも自分を見放した神に向かってか。どちらかも分からない暴言を吐き捨て、


朝霧陽斗は死んだ。



「!!」

ふと目が覚める。

「どこだ…?天国…にしては殺風景だよなぁ」

目の前には何も無い。さっきまでの真っ赤な風景とは真逆のただひたすらの白。

「俺って…死んだんだよな…?」

2時間前を思い出す。普段自宅警備に忙しい自分が約半年ぶりに外出。その目的はもちろんゲーム。オンラインRPGの初回限定盤を入手すべく自室を飛び出した俺は無事に購入に成功。片道四十分の道を帰りながらスキップしているところに緊急イベント。

目の前でタンクローリーがいきなり爆発。何もわからぬまま右腕がちぎれ、体が吹き飛び死亡。今に至るとゆうわけだ。

「死因は事故死…か…。まあやることもなかった人生だったしなぁ。思い残すことなんて…」

そうだ。日々つまらない人生を送るなら死んだ方がましだと自殺志願していた俺だ。思い残すことなんてない。爆発に巻き込まれる前だって、頭の片隅では死にたいと思っていた。毎日送る怠惰な生活にもうんざりしていた頃だ。

「思ったより俺、落ち着いてんだなあ。もっと泣き叫んだりするもんかと思ってたわ。はは……」

「そうだね、うんうん。僕ももっと狂ったりしてくれると思ってたよ。」

「!!!」

声がした。自分以外の声が。しかし人の姿は見当たらない。

「ここだよ、ここここ」

声のする方に視線を向ける。自分の思ってたよりもずっと下だった。

「やあ」

そこにはだって黒猫の姿をした何かがいた。


「えっと……やっぱりこれ夢かな?」

そう一番のハッピーエンドは全てがゆめでした♪とゆうオチである。喋る猫を見てその可能性が一気に増した。

「残念。君は死んだんだよ、ついさっきね。君も自分でよく知ってるでしょ?」

喋る猫にその夢オチパターンを否定された。

「はい俺終了のお知らせ。てかお前何なんだよ、ここはどこなんだよ、色々聞きてぇことやまやまなんだけど?!ほんとに俺死んだの?!」

「はいはい、人間らしい回答だね。その反応を見て安心したよー。さて何から答えよーかな」

猫がふてぶてしくヒゲを撫で始める。確かに見た目は小さい猫で可愛い部類に入るがしかしその態度が気に食わない。

「さっさと答えてくれ、まずここはどこなんだ?」

「ここは死後の世界だよー、正確には死後の世界と生前の世界の狭間なんだけどねー」

「じゃあ俺はこれから天国か地獄にいくの?」

「本来はねー、でもそれを少し捻じ曲げて僕がここに連れてきたんだよー」

「それって、やばいんじゃね?」

「うん、下手すれば君の魂ごと消えちゃうからねー」

さらっとやばいこと言いやがるこの猫。

「それで、俺をここに連れてきて何する気なんだ?」

「その話をする前に自己紹介する方がいいんじゃないかなー」

「じゃあお言葉に甘えて聞くけどお前は何なんだ?」

「僕はモス。悪魔だよ。」

そのワードを聞いて一気に背筋が凍る。

「あ、悪魔!?テメェふざけんな?!今すぐ天国に送りやがれ!」

「待って待って、話を聞いて。別に君をとって食おうなんて思ってないからさ」

「じゃあ俺に何の用だよ?!」

「君、生き返りたくないかい?」

「は?」

「だから、生き返りたくはないかい?」

「それって悪魔の契約ってやつ?」

「話が早くて助かるよー」

「ふざけんな!絶対やだよ!何か裏があるに決まってるじゃん!」

「そりゃタダで生き返らせるのは無理な話だけど、君にとっても悪い話じゃないからさ。最後まで聞いてくれない?」

「……俺になにか得があるのかよ」

「まず生き返れることが得な話じゃないかー、それにプラスして僕の力を貸すことを約束しよう」

「その代償は?」

「君の寿命を少しだけいただきたいんだー」

「やだよ!お前にしか得ねぇじゃん!」

「悪魔の力を使えるんだよ?結構いい話だとは思うけどなー」

「ちなみにな、ちなみにだけどお前の力ってなんなの?」

「炎を操る威能だよ」

「イノウ?」

「悪魔の能力のことを威能ってゆうんだ。ほら炎を操れるなんて男心くすぐるだろう?」

「確かに惹かれるが……」

想像してみる。生き返って炎を操り悪党共を蹴散らす自分を。コミュ障の俺は悪党どころか一般人ともコミュニケーションも取れないが。

「確かに、悪い話じゃあないけど、ただ寿命取るんだろ?どんだけとるんだよ?」

「まずは前払いとして15年いただきないなー」

「そんなにとるの!?」

「悪魔は人の寿命で生きてるからねー、それくらいは欲しいんだよー、それに一度拾った命だ。それくらい払っても損はないだろう?」

さすが悪魔、的確に攻めてきやがる。

「前払いで15年なんだな、それ以上はとらないんだな?」

「ああ約束するよー、君が望まない限りそれ以上の寿命はとらないから。悪魔は約束は守るよ?」

「15年以上寿命とられるなんて望むわけない!どこのドMだよ!?」

「で、どうするの?ハッキリしてもらおうじゃないか。」

「……分かった」

「うん?なんて?」

「その話に乗ろう、生き返ってやる」

「やったね!僕も君を連れてきたかいがあったってもんだよー!それじゃあ早速準備しようか!」

黒猫改めモスがどこからともなく出した黒いチョークのようなもので地面に絵を書き出す。

「何してんの?」

「術式を書いてるの。君を生き返らせるためのね。」

スラスラと読めない字を猫が書いてゆく。

それは一つの大きな魔法陣となった。

「すっげーガチ感漂ってるけど大丈夫なんこれ?」

「大丈夫大丈夫ー、君は円の中心に立っててよ」

一瞬の静寂。

「じゃあいくよ」

モスが真面目な顔つきになる。

「汝、我とともに深淵を望む覚悟をせよ。我と汝共に生き共に死すことをここに誓え」

モスの詠唱は続く。

「再び現世に舞い戻ることを主よ、許したまえ。そして再び死すことを許したまえ。この悪魔モスに誓って」

そこまで来てモスは俺を見る。

「準備はいい?」

「ああ、大丈夫だ」

「じゃあいくよ」

魔法陣が白くきらめく。目の前がさらに真っ白に染まる。白が白で染まってゆく。そして白は全身を包み…


朝霧陽斗は二度目の人生に駆り出されたのであった。

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