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8 魔法花火は天井に咲く

 お?

 おお?

 おおおおおお!

 や、やった。やったよ!


 軽い破裂音が響いて、天井近くに光の花が咲いた。

 内側から、赤、白、黄色の順に。三層に花びらが重なった、大きな光の花。

 あたしが咲かせた、魔法花火。

 夜ならもっと綺麗なのに。

 ちょっと残念だけど、でも仕方ない。

 これは、魔法の練習であって、観賞用の花火じゃないからね。


「せ、先生! あた、あたし! やりました! 成功しました!」

「ふむ。疑っていたわけではないんですが、構成だけは完璧というのは、本当だったんですね。見事な魔法花火です」

 感極まったあたしに答えてくれたのは、先生じゃなくてトーリ君だった。

 ちょっと、引っかかるとところもあったけど、今は細かいことはどうでもいい。

 だって、だって。

 初めてなのだ。

 授業で魔法を成功させたのは、これが初めてなのだ。

 快挙!



 一番最初の実技授業で、爆発を大爆発させた後、あたしは一度も魔法を使わせてもらえなかった。

 中庭で実習をしたのはあの時だけで、その後の実技事業は実習室で行われた。

 星組の校舎は三階建てなんだけど、三つある実習室は全部一階に固まっていて、学年ごとに使える部屋は決まっている。一年生と二年生、三年生と四年生は、それぞれ共同の実習室を使っていて、最上級生である五年生は残りの一つを独占しているのだ。

 自習室には、少々の爆発が起こってもいいように、魔法でプロテクトがかけてある。

 だから、あたしが少しぐらい魔法を爆発させても問題ないと思うんだけど、念のためとか言ってラーラ先生は魔法を使わせてくれなかったのだ。

 爆発を大爆発と言っても、それは魔法を悉く失敗したという意味で、本当の大爆発を起こしたわけじゃないのに。

 みんなが楽しく魔法を使っている中、あたしは一人、構成を編んでは解き編んでは解きって作業を繰り返していた。

 これじゃ、村にいた頃と変わらないよ。

 半分、追い出されたみたいなものとはいえ、学園では思い切り魔法が使えると思って少し楽しみにしてたのに。

 こんなんで、本当に魔法使いになれるの?

 って、やさぐれていたら、突然ラーラ先生が宣言した。

「よーし、みんな喜べ! 今日の実技は、本当なら五年生しか使えないはずの特別実習室でやるぞー!」

「特別実習室?」

 先生が何をそんなに張り切っているのか分からなくて首を傾げていると、先生じゃなくてトーリ君が説明してくれた。

「五年生ともなると、より高度な魔法を使うようになりますからね。複数人で一つの大きな魔法を織り上げる共同魔法の実習もありますし。高度で規模が大きな魔法は、失敗した時のリスクも大きいですから。五年生が使用する実習室には、かなりの大爆発にも耐えられるように特別なプロテクトがかけられているんですよ」

「つまり、爆発させ放題?」

「……どうして、爆発させることが前提なんですか?」

「あ、つい」

 うっかり目を輝かせたら、トーリ君に呆れられてしまった。

「まあ、そんなわけだ。今日はミアにも魔法を発動させるところまでやってもらうからな。他のみんなにも、いつもよりちょっと難しい魔法に挑戦してもらう。それから、今日の字授業には五年生も参加する。ミア以外については、五年生の担任のモーリ先生と五年生たちが指導に当たってくれるから、ちゃんと先輩たちの言うことを聞くんだぞー」

 教卓に両手をつきながら、ラーラ先生はニッカリ笑った。

 教卓がミシリと音を立てる。先生、体格いいんだから、あんまり体重かけない方がいいんじゃないかな。いつか、教卓が壊れるよ?

「それは、つまり。先生はミア・サンダーレインに付きっきりで指導を行うということかしら? それって、不公平じゃありません? 一人だけ教師を独占するなんて」

 豪奢な金の巻き毛を掻き揚げながら、スクッと立ち上がったのはロザリアだ。

 あー。始まったー。

「ん? そんなことないぞ。最上級生だけあって、実力は折り紙付きだ。一年生の授業の面倒を見るくらいなら、教師にも引けを取らない。実質、他のみんなも一対一で授業を受けるようなもんだ。モーリ先生もいるしな。……それに、ミアの実験にはトーマス先生が立ち会うからな。オレは、その見張り役だ」

「…………トーマス先生が? そう、そういうことでしたら、仕方がありませんわね」

 え? 何? ロザリアにしては随分、あっさりと引き下がったような?

 それに。

 実験って、何? 見張りって、何?

 混乱しながら教室を移動するあたしに、トーリ君が近づいてきてそっと耳打ちしてくれた。

「安心してください、ミア。記録係として、僕も実験に立ち会います。トーマス先生がおかしなことをしないように、僕もちゃんと見張ってますから」

 お心遣いは嬉しいんだけど。

 何一つ安心できないよ、それ!

 何かあるって、言ってるようなもんじゃん!


 特別実習室は、ぱっと見は一年生が使っている実習室と変わらなかった。部屋の前側には机も椅子もない空間があって、後ろ側には六人掛けの机と椅子が六つ。前と後ろの両方の壁に、マジックボードっていう魔法で文字を書いたり消したりできる板が埋め込まれている。

 壁や床が白っぽくて光沢のある石でできているのも一緒。

 ただし。

 うん。確かに、特別実習室だね。

 壁や床を守るための、プロテクト効果のある魔法の膜。もちろん、一年生用の実習室にも膜は貼られているんだけど、ここのプロテクトとは比べ物にならない。特別実習室には、種類の違うプロテクト膜が何重にも張り巡らされていた。

 一体、どういう爆発を想定しているんだろう?

 でも、これなら。どんなにあたしが魔法を爆発させても、ビクともしなさそう!

 さすが、魔法学園。

 来て、よかった!


 ――なんて気持ちは、トーマス先生の顔を見た途端、バラバラに砕け散って掃き清められて焼却炉で燃やされて灰になった。

 食い入るようにあたしを見つめているトーマス先生は、森の奥深くに潜んでいる化け物のようで、とても恐ろしかった。走って寮まで逃げ帰りたいくらいに。

 鼻息は荒く、目は爛々と輝き、くぐもった不気味な笑い声が時折洩れ聞こえてくる。こういうの、都会では変質者っていうんじゃないんだっけ? 教室に入れたらいけないんじゃないの?

「まあ、そんな顔をするな。トーマス先生は、魔力について研究をしているんだ。オレには分からないことも、トーマス先生なら気づけるかもしれないからな。まあ、いろいろ問題はある先生なんだが、研究熱心で常識をどこかに落としてきちまっただけで、悪気はないんだ」

 鼻の横を掻きながらそっぽを向いて言われても、説得力ないよ! ラーラ先生!

「いいから、早く始めないか。時間がもったいない」

「分かったから、大人しくしてろ。じゃあ、始めるぞ、ミア」

「大丈夫です、ミア。僕もトーマス先生いますし、後ろにはモーリ先生と先輩たちもいますから。トーマス先生の研究室に連れ込まれるよりも、ずっと安全なはずです」

「………………」

 もはや、何て答えていいのか分からないよ。

 実習室の後ろ、机の周りに散らばって、五年生たちと楽しそうにしているみんなが羨ましい。出来ることなら、あたしもそっちに混ざりたい。

 あたしたち四人は、実習室の真ん中あたりで前方のマジックボードに向かって立っている。この配置が、みんなに怪我をさせないための、あたしの爆発対策だってことは分かっている。分かってはいるけど、背後から楽し気な声が聞こえてくるとさあ。

 ちょっぴり疎外感。


 どうやら、あたしは根が単純にできているらしく、いざ実験? が始まったら、みんなのことはあっさり忘れてしまった。

 まず、ラーラ先生がお手本の魔法を見せる。

 光と音の共演、魔法花火だ。

 光と音の魔法は、それ自体は割と簡単な構成なんだよね。一色だけの小さな花を咲かせるだけなら、初心者でも簡単に出来る。

 なんだけど。

 いろんな色をたくさん使って、大きくて形もきれいな花を作るとなると、かなりの技術を要求されるのだ。花火の美しさと魔法の腕前は、ほぼ比例するので、魔法試験の時なんかによく使われる魔法なのだ。

 ラーラ先生が咲かせた花は、赤、白、黄の花びらが三重になった、結構大きめの花だった。頭の上で両手を思いきり広げたくらいかなぁ。

 今まで習っていた基礎中の基礎と比べると、格段にレベルが上がっている。

「覚えたか?」

「バッチリ!」

 ラーラ先生の確認に、あたしは自信満々の笑顔で答える。

 覚えたかっていうのは、魔法の構成のことだ。

 ふっふっふー。

 あたしは、魔法の構成を見て覚えるのは得意なんだよねー。これくらいは、余裕ですよ。

 ただし、構成を図案化したり、教科書に載ってる構成図案を元に魔法を使ったりっていう、勉強的なことは苦手なんだけど。おばあちゃんは、これが大の得意なのになー。


 魔法の構成は、宣言通りバッチリだった。

 綻び一つない。

 うん。我ながら、美しい構成。

 でも、問題はここからだ。

 爆発してもいいように、なるべく壁に近いところに作り上げた構成を見上げて、深呼吸。

 実を言うと、このサイズの魔法を発動させるのは、これが初めてなのだ。理由は説明するまでもないと思うけど、このサイズの魔法を暴走させたら、とんでもないことになりそうだからだ。故郷にいた頃にやってたら、下手したら山火事? 


 ああ。ドキドキする。

 それは、ワクワクに近いドキドキだった。

 だって。

 この部屋の中なら、爆発させても大丈夫なのだ。

 大きな魔法を失敗しても、この部屋がすべてを受け止めてくれる。

 高鳴る胸を押さえつつ、織り上げた魔法花火の構成に、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。

 あれ? なんだろ? サイズが大きいせいかな。いつもみたいに、一気にドバっと流れ込んじゃったりしないっていうか。なんか、いい感じかも。

 なんて、油断したせいか、一回目は案の定の大失敗だった。もうちょっとだったんだけどな。最後の最後で、手元がというか、魔力が狂った。

 びっくりするくらいの大爆発だったけど、こうなることを予想済みの先生たちが、プロテクト効果のある魔法の壁で守ってくれたので、物も人も壊さずに済んだ。

 先生たちはやっぱり先生なんだなあと、ちょっと感心した。

「失敗したけど、コツは掴んだって顔だな。いいぞ、上手くいくまで続けてみろ。爆発のことは心配しなくていい」

「は、はい!」

 ラーラ先生が頼もしく請け負う。

 今度こそ成功させようと、あたしは再び、魔法花火の構成を編んでいく。


 そして、三回目にしてついに!

 あたしは、見事に魔法の花火を咲かせることに成功したのだ。


 うう。初めて授業で魔法が上手くいったよ。

 しかも、こんなに大きいの。

 感激のあまり涙ぐんじゃったけど、先生たちはなんだか冷静だった。

 思わず、涙が引っ込んじゃうくらいに。

「どう思う?」

「そうだね。まあ、今日のところは、魔力の流し方の感覚を掴むまで、このサイズの魔法で練習を続けるのがいいんじゃないかな。このサイズが彼女には合っているみたいだしね。詳しい話は、また今度、僕の研究室でしようか」

「当然、オレも立ち会うからな」

「君は別にいらないんだが」

「ミアの担任はオレだ。でなけりゃ、許可できん」

「チッ。仕方ないな、分かったよ」

 二人とも腕組みをして、当のあたしを余所に話を進めていく。

 えーと、今、立ち会うとか聞こえた気がするんだけど。

「もしかして、あたし。トーマス先生の研究室に連れ込まれちゃうの?」

 恐る恐る、ラーラ先生に聞いてみる。

 そこは危険地帯みたいなことを、さっきトーリ君も言っていたような気がするんだけど。

「そうだよ。そこで、君からも話を聞かせてもらって、いくつか実験をして、それから今後の実験の方針を定めていく予定だ」

「教育! 教育の方針な! あー、ミア。トーマス先生はいろいろと言動に問題はあるが、魔力の研究については第一人者だ。きっと、おまえの役に立つ。それに、安心しろ。お前ひとりで行かせるつもりはない。研究室に行く時は、当然オレも立ち会……オレとエリス先生も立ち会うからな!」

「どうして、外野が増えるんだ」

「やかましい!」

 ああ。勝手に話が進んでいくよ。

 安心できる要素が、何一つないんだけど。

 救いを求めてトーリ君を見ると、トーリ君は人差し指で眼鏡を直しながら目を逸らした。

「トーマス先生は、その、研究熱心が行き過ぎているだけとは聞いていますし。エリス先生も同席されるようなら、何があっても止めてくれるでしょう。きっと、大丈夫ですよ」

 そういうことは、ちゃんとあたしの目を見ながら言ってよー!



 練習の甲斐あって、授業が終わる頃には、魔法の成功率も大分上がっていた。今までは、使う魔法サイズが小さすぎて、かえって調整が上手くいかなかったんじゃないかって、トーマス先生は言っていた。

 そういうものなのかー。

 魔法使いになれる見込みが出てきたことは素直に嬉しいんだけど、あたしの心は晴れなかった。

 日程はまだ決まっていないんだけど、トーマス先生の研究室に行かなきゃいけないのは、もう確定みたいなのだ。

 大丈夫だとか、安心しろとか言われると、かえって不安になるんだけど。

 一体、どんな危険が待ち構えているのか。

 おまけに、教室への帰り道でまたロザリアに絡まれるし。

「少しくらい成功したからって、いい気にならないことですわ!」

 足早にあたしを追い越して、振り向きざまに言い捨てたロザリアは、なぜか涙目だった。

 それは、気になったけれど。


 今のあたしの一体どこに、いい気になっている要素があるというのか!


 言い返したかったけど、その暇も与えずに、ロザリアは肩を怒らせてずんずん遠ざかって行ってしまった。


 もー。

 そういうことは、本当にいい気になっている時に言って欲しい。


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