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4 爆発だけが事件ではない

「爆発だけが事件じゃないんだよね」


 事件の後の、リョーコちゃんのその一言が、印象に残っていた。

 あたしにとっては、爆発はもはや、日常の一コマだったから。

 イノシシの一件は、流石にあたしにとっても大事件だったけどね。

 そっか。爆発は事件なのか。

 どこか他人事のように、あたしはそう思った。



 そもそもの発端である事件が起こったのは、入学二日目。初めての実技授業が終わった後のことだった。

 初めての実技授業は、爆発が大爆発していた。

 爆発が大爆発。

 授業は教室ではなくて、星組の教室のある校舎と寮の間にある、中庭みたいなところで行われた。もしかしたら、あたしの爆発対策なのかもしれない。

 まず先生が、これから行う魔法の説明をして、実演してくれる。

 その後、順番に一人ずつ、先生に指導を受けたりしながら、みんなの前で発表するみたいに、同じ魔法を使って見せる(トーリ君は除く)。

 人の魔法を見るのも勉強になるからなんだって。


 確かに、勉強になったよ。

 入学試験の時は、緊張していたからあんまり人の魔法は見てなかったからなー。改めて、人の魔法を見学してみて、気が付いた。

 魔法は、簡単なものから始まって、段々と難しいものになっていった。けれど、難しいから失敗するというわけでもなくて。難しいものは難なくこなせるのに、簡単な魔法がうまく出来なかったりとか、相性があるみたいだった。

 先生の指示を受けることなく、全部の魔法を成功させたのは一人だけで、他のみんなは何かしらどこかで引っかかっていた。

 構成が上手くいかなくて、歪んじゃったり。

 魔力の調整が上手くいかなくて、不発に終わったり、せっかく組んだ構成がバラバラになっちゃったり

 驚愕の事実だった。

 みんなは魔法を失敗しても、爆発させたりはしないのだ!

 あとで聞いたら、魔法には爆発しやすいのとそうでもないのとあって、授業のときは危険じゃない魔法を選んでいるから、そのせいもあるってことなんだけど。

 その、本来、危険じゃないはずの魔法すら、あたしは爆発させまくったわけなんだけど。

 一回も。

 一回も成功させられなかったー。

 入学試験の時は、少しは成功してたのに。

 あの時の方が、緊張してたのに。


「爆発の規模を調整できれば、鉱山で働けそうですね」

 なんて、トーリ君に言われてしまった。

 鉱山では、爆弾を使って岩を壊したりするんだって。

 そんな調整するくらいなら、普通に魔法を使えるようになりたいよ。構成だけならうまく出来るんだし、どうせなら、爆発魔じゃなくてちゃんと魔法使いになりたい。

 そう。

 構成だけなら、上手くいくのだ。

 それは、ラーラ先生も認めてくれた。

「構成だけなら、文句なくクラスで一番なんだけどな。読み取る力も、自分で構築するのも。生まれ持っての才能なんだろうな、クラス一どころか学園全体でもトップクラスの実力だぜ。ただ、魔力の方についてはなぁ。最悪、トーマス先生の力を借りることになるかもしれないな。あまり、気は進まないが」

 認めるだけじゃなくて、不穏なことも言われちゃったけど。

 トーマス先生って、水晶玉のテストのときの試験官だった先生のはず。ちょっと、性格に問題のありそうな、あまり関わり合いになりたくないタイプだったんだけど。しかも、ラーラ先生も気は進まないとか言ってるし。

 不安しかないんだけど。

 あたし、ちゃんと魔法使いになれるんだよね?


 随分と前置きが長くなってしまったけど、事件はこの後、起きるのだ。


 ラーラ先生の前であたしがしょぼくれていると、一人の生徒が声をかけてきた。

 お嬢様臭漂う豪奢な金髪巻き毛に、格子柄のローブの女の子。

 ロザリア・モンドだ。

 ロザリアは、頬をバラ色に染め、やたらと目を輝かせて、とんでもないことを言ってきた。

「ミアさん。あの、入学試験のときに、魔力水晶を爆発させたって、本当ですの!?」

「ど、どうして、それをー!? え、いや。確かにそうなんだけど、でも、水晶玉については、試験官が二人もついていながら暴走を許すなんて、試験官の監督不行き届きだから、弁償する必要はないって、おばあちゃんが!」

「落ち着け、ミア。試験のときにトーマス先生が不要に煽ったことについては、エリス先生から報告を受けている。おまえんとこに水晶玉代の請求が行くことはないから安心しろ。それよりも、ロザリオ。おまえ、その話をどこから聞いた?」

 ラーラ先生の言葉に、あたしはホーっと息をつき、ロザリアは不思議そうに首を傾げた。目をパチパチさせている。少し可愛い。

「え? その、トーマス先生から、ですけど? 水晶玉の話をした後、ミアさんは珍しい魔力の持ち主だから、よく見学して気が付いたことがあったら報告して欲しいって頼まれましたわ。私だけではなく、星組の他の生徒にも声をかけていたようでしたけど」

「あ、あの野郎……」

 ラーラ先生は額に手を当てて、唸り声を上げる。

 あたしも真似したい気分だ。

 やっぱり、トーマス先生のことは好きになれない。何てことをしてくれるんだろう。水晶玉のことは、みんなには知られたくなかったのに。

 あれ、実は結構、高価なモノだったらしいんだよね。

 水晶玉の爆発は、学園にとっては大事件だったらしいのだ。お金的な意味で。

 弁償しなくていいって聞いた時にはホッとしたけど、それはそれで、気まずかったりもするわけで。先生たちは兎も角、生徒には知られたくなかったのに。

「そんなに気にすることはありませんわ。それだけ、あなたの魔力が素晴らしいということですもの。水晶玉が爆発したのは、先生方があなたの実力を見誤ったからですわ」

「あ、ありがとう」

「それに、さっきの実技授業ですけど、爆発するのは、それだけ流れ込んだ魔力が大きかったということですわ。構成は文句のない出来なのですし、魔力のコントロールさえ覚えれば、直ぐに一流の魔法使いになれますわ」

「ロザリアさん……」

 てっきり、責められるのかと思っていたら、まさかの大肯定がきて、あたしは感激に瞳を潤ませた。別に一流じゃなくても、一人前になれれば、それでいいんだけど。でも、嬉しい。

「ロザリアで構いませんわ。その、それで、ミアさん。あなたは、サタニア様のお孫さんなのでしょう? 黒ではなくて黄緑色のローブを着ていることや、魔力を隠しているのは、そうと悟られて特別扱いされないようにという配慮なのでしょう? ああ、何と謙虚な、素晴らしいお心がけなのでしょう!」

「へ?」

「え!?」

 あたしのびっくり声は、他の女の子の驚愕の叫び声に掻き消された。

 声のした方に視線を向けると、黒いローブの女の子が、口元を両手で覆い隠してこっちを見ていた。目が合うと、気まずそうに視線を逸らす。

 あたしと寮が同部屋の、ルシエルだった。

 まっすぐな黒髪をポニーテールにした、真面目で大人しそうな女の子。そして、今日の実技を、ただ一人完璧にやり遂げた生徒でもある。

 どうしたんだろうと思っていると、ロザリアがつかつかとルシエルに歩み寄った。

 さっき、あたしに話しかけていた時の高揚はすっかりどこかへ消え去っていて、冷たく威圧するような眼差しをルシエルに注いでいる。

「ルシエル・トゥーハート。あなた、どういうつもりですの? ちゃっかりミアさんと同室になるなんて、きっと何か汚い手をお使いになったんでしょう?」

「おいおい。おまえが、それを言うかよ……」

 お嬢様が理不尽に使用人を叱りつけるみたいなロザリアの物言いも気になったけど、ぼそりと零したラーラ先生の一言も気になった。

 え? ええ?

 交互に二人を見ていると、何も言わないルシエルに、ロザリアはさらに言い募る。

「ミアさんに取り入ろうと黒のローブなんか着て、嫌らしいですわ。あの悪名高気アヴリル・ミンスの孫が神聖なる黒のローブを身に着けるなんて、私は許しませんわ!」

「ちょっと、ロザリア。別に校則に違反しているわけじゃないんだから。誰の孫が何色のローブを着ようが、そんなのは本人の勝手だと思うけど」

 何も言い返せずに口をハクハクさせているルシエルを庇うように、リョーコちゃんが間に入ってロザリアを嗜める。さすが、クラス副委員長。

 は、とりあえず置いといて。

 何、言ってるの、あの子?

 アヴリル・ミンスの孫は、あたしなんだけど。

 おばあちゃんには、あたしがアヴリル・ミンスの孫だってことは内緒にしておけって言われてるんだけど、ここはやっぱり名乗るべき?

 ど、どど、どうしよう?

「そうかも知れませんけれど、私が個人的に気に入らないんですわ! それから、そこそこ魔法は使えるようですけど、あまりいい気にならないでもらいたいですわ。アヴリル・ミンス同様、何かに特別に秀でているわけではない、小手先だけの……」

「ロザリア!」

 あたしは、ロザリアの言葉を遮った。

 さすがにこれは、我慢できない。

 おばあちゃんは小娘の暴言なんか気にも留めないだろうから、まあいいとして。

 ルシエルが、おばあちゃんのせいで酷いことを言われるのは、許せない。

 ルシエルは、文句なく星組で一番魔法がうまい。少なくとも、ロザリアよりは、ずっとずっと優秀な魔法使いになれるはずだ。

 それなのに、この言いよう。

 これが、おばあちゃんのせいだっていうんなら、さすがに黙っているわけにはいかない。

「アブリル・ミンスは、あたしのおばあちゃんだから!」

 胸を張って言い切った。

 なんで、おばあちゃんがあんなに嫌われてるのか分かんないけど。もし、おばあちゃんが何かしたのなら、それは、あたしが孫として受け止めねば!

 これ以上、ルシエルに迷惑をかけるわけにはいかない。

 ロザリアは目をまん丸にして、あたしとルシエルを見比べている。

 来るなら来ーい、という気持ちで反撃を待ち構えるあたしだったけど、先に口を開いたのは、ロザリアじゃなくてルシエルだった。

 今まで、ずっと黙っていたルシエルが、ギュッと目を閉じて胸に手を当てて、涙交じりで訴えてくる。

「わた、私は、おばあちゃんみたいに才能があるわけじゃないし、おばあちゃんみたいに美人じゃないけれど、でも、私は、サタニア・ウルドの孫です!」

「え?」

 ロザリアは、雷に打たれたような顔でよろめいた。出来れば、そのまま黒焦げになっていて欲しい。

 そんなあたしの願いもむなしく、ロザリアは意外と早く復活した。

 ハッと何かに気付いた顔をした後、一人でうんうんと頷き始める。

「そう。そうでしたのね。サタニア様ほどの才能と美貌をお持ちでないことに、コンプレックスを感じていらしたのね。申し訳ありません。そうとは知らずに、失礼なことを申し上げてしまいましたわ。でも、気にする必要はありませんわ! よく考えたら、あれほどの才能が、そうそう生まれてくるはずはありませんものね。たとえ、お孫さんだからと言って、必ずしもその才能を受け継いでくるわけでもありませんわよね。そうだわ、ルシエルさん。もし、そのことについて、何か因縁をつけてくる輩がいましたら、私にご相談くださいな。この私が、文句を言ってやりますわ!」

「止めてください!」

 手のひらを返したロザリアの申し出を、ルシエルは拒絶した。

 そりゃ、そうだ。

 さっきの今で、そんなこと言われても。

 よく言った! と、あたしは思ったんだけど、ルシエルは悲鳴みたいに叫んだあと、「ごめんなさい」と呟いて、逃げるように寮のある方へ向かって駆けだした。

 え? なんで、ルシエルが謝るの?

 誰も動けずにいる中、黒いローブの男の子と女の子が、ルシエルの後を追いかけて行く。確か、あの二人、ルシエルの幼馴染のはずだから、任せておけば大丈夫なのかな。

 でも、なんであの二人は、今まで黙って見てるだけだったんだろ?


 気まずい雰囲気を打ち払ったのは、そもそもの発端であるロザリアの金切り声だった。

「ミア・サンダーレイン。よくも、この私を騙してくれましたわね。この卑怯者。あなたのせいで、ルシエルさんに不快な思いをさせてしまったではありませんか! 私、あなたを絶対に許しませんわ。覚えていやがれ! ですわ!」

 そう言って、お嬢様にあるまじき大股で、教室のある校舎に向かっていく。

 いや、本当にお嬢様なのかは知らないんだけどさ。

 てゆーか。何なの、これ。

「こんなの、忘れたくても、忘れられないよ……」

「あー、なんだ。災難だとは思うが、まあ、あの性格からして、あんまり陰湿なことはしてこないと思うから、適当に相手をしてやってくれ。ライバルがいるっていうのも、悪くないもんだぞ」

 ため息をついていると、今まで傍観してただけだった先生が、役に立たないことを言ってきた。

「しかし、惚れた男を取り合ってとかなら、兎も角。なんつーか、不毛な争いだよな」

「先生……。確かにその通りですが、教師としてその発言はどうかと」

 ふ、不毛な争いってー!?

 先生もトーリ君も、二人とも酷いよ。


 で。この後に。

「はー、それにしても。爆発だけが事件じゃないんだよね」

 リョーコちゃんが、しみじみと呟いたのだ。



 ちなみに。

 あたしはこの一件を、最初の格子柄事件と呼んでいる。

 最初の。

 そう。

 面倒なことに。

 格子柄事件は、この後もまだまだ続くのだ。


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