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猫王子

作者: 猫山つつじ

 むかし、ある国のお城に、一匹の猫が暮らしていました。ふわふわの白い毛をした利口な女の子で、人間の言葉をしゃべることもできるし、文字を読むこともできました。

 それもそのはずで、実は魔法使いによって猫に変えられた、遠い海の向こうの国の王女だったのです。

 貿易船に乗せられてこの国の港に来たときに王様の目にとまって、お城で暮らすようになったのです。


 王様には二人の王子がいて、特に兄の王子は、猫をたいそうかわいがっていました。

 食事をしたり散歩をしたり、馬車に乗って出掛けたり、まるで恋人どうしのようにいつも一緒に過ごしていました。あまりに猫と一緒にいるので、猫王子とあだ名する人もいるくらいでした。

 王子はある日、王様に言いました。

「私は、彼女と結婚します」

 王様は、びっくりしてしまいました。

 猫が人間だったことは、王様も知っています。でも、人間に戻す方法は、誰にもわかりません。それに、隣の国の王様との約束で、互いの王子と王女を結婚させることになっているのです。

 王様は言いました。

「待ちなさい。猫と結婚なんて、聞いたことがない」

 王子は答えました。

「彼女は人間です。それに、父上も、母上のことが大好きで結婚したのでしょう?」

「それはそうだが、猫はだめだ。それにお前の場合、隣の国の王女との結婚の約束もある」

「彼女は人間ですよ。好きな相手と結婚するのが幸せと、父上も言っておられたではありませんか。それに隣の国の王女の話、父上が親同士で勝手に約束したのですから、ちゃんと断っておいて下さいね」


 隣の国とは、長い間戦争が続いていました。今の王様になってからは一応戦争はおさまっていますが、末長く平和にするために、互いの王子と王女を結婚させて両方の国を継がせる約束をしたのです。

 約束を破ることになると、また戦争になるかもしれません。

 王様は王子が猫のことを大好きなのはわかっていましたが、まさか人間の女性として好きだとは思いもしていませんでした。

 王様は猫に言いました。

「すまないが、王子のことは、あきらめてくれ」

 猫は、きょとんとして言いました。

「何をあきらめるのですか?」

 王様から話を聞くと、猫は困った顔をして言いました。

「結婚だなんて、冗談だと思っていました。私も王子様のことは大好きです。でも、私は猫ですし、猫としか結婚できません」

 王様はそれを聞いてほっとしました。

「そうか、それならいいんだ。王子にも、そう言っておこう」


 白い猫が猫としか結婚できないと聞いて、王子はたいへん悲しく思いました。こうなったら、猫を人間に戻してもらうために、魔法使いに会いに行くしかありません。

 王子は置き手紙をしてこっそり城を抜け出すと、身なりを変えて、遠い海の向こうの国に行く船に乗り込みました。

 途中で嵐にあったり海賊船に遭遇したり、危険な目に会いながらも、王子は目的の国にたどり着きました。


 王子は魔法使いが住んでいるという岩山のふもとまでやってきました。住人によると、魔法使いは一生に一度だけ、変身の願い事をきいてくれるとのことでした。

 王子の話を聞いた住人は言いました。

「ということは、王女様は、猫になりたいとお願いしたんでしょうね。病気で亡くなったという話だったが、まさかそんなふうにして生きておいでとは」

「猫になろうだなんて、どうしてそんなことを…」

 まさか、自分から進んで猫になっていたとは、王子は考えたこともなかったのです。

「さあ。でも、似たような人は結構いますよ。私のいとこは、鳥になってどこかへ飛んで行ってしまいました。ライオンになった人、魚になった人、貝になった人、木や花になった人や、石になった人もいましたよ」

「元には戻れないのですか?」

「さあ、人間に戻った話は聞いたことがないですね」


 岩山には、所々崩れかけた階段みたいな道がつけられていて、登っていくと、とんがり屋根の粗末な家が見えてきました。

「元にもどす方法は、無いのう」

 訪ねてきた王子に魔法使いは言いました。

 王子は言い返しました。

「そんなはずないでしょう。あなたが猫に変えたのだから」

「変えることはできても、元にすることはできないのじゃ。よく見なさい」

 魔法使いは水の入った盆を持ってきてその水を地面にこぼしました。水はすぐに地面に染み込みました。

「これと同じことじゃ。人間とは、いわば水の入った盆。元には戻せぬ」

「では、私も、水の入った盆ということですか」

「そういうことに、なるかの。わたしは、水をこぼす手伝いをするだけじゃ」

 しばらく沈黙がありました。それから、王子は意を決して言いました。

「私を、猫にして下さい」


 年月が流れ、王様は引退し、王子の弟が隣国の王女と結婚して、二つの国の共同の王様と女王様になっていました。ふわふわの白い猫は、だれとも結婚せずにお城にいました。

 ある日、お城に一匹の茶虎の猫がやってきました。

 人間の言葉を話すその猫が、兄の王子が姿を変えたものだと、新しい王様や白い猫にはすぐにわかりました。

 茶虎の猫は、魔法使いに猫にしてもらったこと、帰りの船が何度も難破して、なかなか帰りつけなかったことを話しました。

 茶虎の猫は白い猫に結婚を申し込みました。白い猫は最初とまどっていましたが、申し込みを受け入れてくれました。

 王様と女王様が、茶虎と白のふたりのために、家族だけの結婚式を開いてくれました。


 茶虎の猫は、王様と女王様の手助けをよくしました。おかげで二つの国は平和で豊かになって、みんな幸せに暮らしました。

 二つの国は今は合わさって一つの国になっていますが、その国では、猫は家族の一員としてとても大事にされているそうです。

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