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運命に抗うその日まで  作者: 水素依音
第一章 届かぬ思い
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第一章 1 「思いを胸に」

その日の朝の目覚めは—―例えば何時間も猟師に追われ続け、ついに捕らえられた瞬間の絶望感のように、最悪なものであった。悪夢、というものだろう――次々と男、女が無残に殺されていく、そんな夢。それは生々しく、残虐で、夢とは思えないほどリアルなものであった。



♢ ♢ ♢



 彼、シャル・ヘカティールは——父は町の長、母は町で父の次に裕福な家の出であり、大きすぎる両親から生まれた存在である。町民からは畏敬の念を込められ、『ぼっちゃま』などど呼ばれちやほやされる生活を送っていた。

 

 しかし、シャル自身、そのような生活はもううんざりしていた。というよりも、このような生活自体もとから嫌いであった。ごく普通の家に生まれ、ごく普通の扱いを受け、だれからも注目されず、ただ両親とともに質素ながらも楽しく暮らしていく——そんな生活を送りたかった。

 父と母の命令は絶対であった。何かをするにしても絶対に逆らってはいけない。それにより、シャル自身の夢さえ語ることができなかった。シャルの夢、というのは——”他の種族との共存”である。シャルたち人間のほかに、魔法使い、精霊、魔物などといったモノがこの世界には存在している。”共存したい”と口で言うのは簡単であるが、人間には人間のやり方というものがあるように、種族によって生活の習慣が異なっている。互いが互いを認め合い、思いやっていかなければ”共存”という大きな夢は果たされないのである。

 そんな夢を町の下衆、二人の上衆に語ったところで、

「そんなこと二度と口にしてはいけませんよ、ぼっちゃま」

「共存なんて御免だよ、ぼっちゃま」

「まだそのような夢を抱いていらっしゃるのね、シャル。もうそのような夢は捨ててしまいなさい」

「親の言うことだけを聞いていればいいんだよ、シャル」

 などとほざき、人勝手に物事を決めつけられていく。まるで遺棄場所を失った哀れなペットのように——。


 町の者の考えは、シャルの”夢物語”とは真逆のものであった。

”同種族のみを労り、愛し、他種族を排除しろ”というものであった。”共存”の道を望む者はシャルただ一人であった。月日が経つにつれ、”排除活動”は徐々に高まっていき、町中に緊張がほとばしっていた。今シャルの偉大な夢を語ろうものなら、その鋭利な矛先はシャルへと向けられるだろう。



 ♢ ♢ ♢



 シャルの住んでいる町から一㎞離れた小さな村に、その種族は住んでいた。

 シャルが物心つき始めたころ、もとはいま彼の住んでいる町に住んでいたが、彼ら人間が侵略してきて、逃げるようにその小さな村に居座った。それらは百人ほどしかいない、小さな種族ではあるが、とてつもなく巨大な力を秘めている。その力はひと一人は簡単に殺すことさえ可能なものである。しかし、その力は血を吸わない限り発揮されることはまずなかった。人々はそれらを恐れ、忌み嫌い、畏怖し、”吸血鬼”と呼んでいる。

 

 ”吸血鬼”は争いを好む種族ではなかった。平穏を望み、静かに暮らしたい種族であったのだ。

 が——。

 人間はそんなことはお構いなしに”排除活動”を餌を求める家畜のようにやめることはなかった。


 シャルは夢の達成のための第一歩として、そして故郷を荒らし、追い払った代償として”吸血鬼”との”共存”を求めた。そのためにはまず”吸血鬼”に会い、”吸血鬼”の生態を調べる必要があった。だが、会いに行ったことを町の者たちに、特に両親にでも知られたら、シャル自身がどうなるか彼は大体予想がついていた。しかし、夢が叶うのであればどうなろうとも関係ない。シャルは、まるで奴隷が解放され、これからの生活に大きな期待を抱いているかのような強い心念を持っていた。


 ——そしてその日の夜、誰にも悟られずに一人町を抜け出し、”吸血鬼”の住む小さな村へと向かっていった。

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