昭和31年春⑥
とある日曜日の阿部家。
三姉妹共に休日の暇を持て余し、幼馴染みと共に勉強をしていた。
まず、客間に入ってすぐで苗子と小林サヨ。
共学の県立第三高校より優秀な第二女子高に通うサヨは、苗子のあまりの飲み込みの悪さに毎度毎度呆れている。
奥では桜子と、お向かいの林家の三姉弟が勉強している。
上から順番に、長女・鏡子、次女・街子、長男・毅。
全員年子で、鏡子が高校1年生、街子が中学3年生、毅が中学2年生。
鏡子がサヨと同じ県立第二女子高に通っているということで、桜子はしょっちゅう彼女に高校の話を聞いている。
蓉子は早起きして宿題を終わらせてしまったため、母を手伝ってお茶菓子の用意をしていた。
「苗子姉さん、おサヨちゃん、お茶菓子ですよぉ」
お茶はハイカラで、紅茶。
飲み慣れている阿部家の三姉妹は皆、ミルクとざらめを何倍も入れないと飲めないのに、サヨはストレートで飲んでしまう。
お菓子もハイカラなビスケット。蓉子が以前、作りたいと言っていたアレだ。
母に焼き方を教わっていたとはいえ、まずまずの出来栄えにサヨは感心した。
ただし、口が裂けても兄に蓉子のお菓子作りの腕前は話さない。
普通に甘党な兄のことだ、蓉子にお菓子をせびる姿が目に浮かんできて怖い。
「桜子姉さんとお鏡ちゃん、街子ちゃん、毅さんもどうぞぉ」
「おおー、旨そうだ! 桜子ちゃんとは大違い」
毅の褒め言葉に含まれている余計な一言に反応したのは、桜子。
菓子作りと言わず、料理裁縫が出来ないのは事実だが、他人に言われると頭に来る。
「毅ちゃん?」
「ご、ごめんねサクちゃん!?」
毅と桜子が一触即発、という場面だが、毅の姉の鏡子と街子はレースの入ったエプロンを着た蓉子を見て、「こんな義妹が出来たら良いなあ」と考えていたが、弟の女性の好みが桜子であることではそれも期待できない。
料理裁縫が出来るようになっても、レースエプロンは着ないだろう。
「じゃあ、私オルガン弾いてきます! 煩かったら襖を閉めてくださいね」