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三姉妹物語  作者: Madoka Mine
昭和31年
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昭和31年春①

阿部家三姉妹の次女・桜子さくらこは中学校3年生。勉強に明け暮れる日々を送っていた。


「東京の大学に行って、小学校の先生になるの」


そんなことを言いながら、毎日机に向かって勉強している。


「私も宿題やろーっと。桜子姉さん、お隣良い?」


「いいよ、蓉子」


三女・蓉子ようこは2歳年下の中学校1年生。真新しい制服に身をつつみ、毎日元気に学校に通っている。

自由奔放で気まぐれなのが長所であり、短所でもある。


「桜子、蓉子、桜餅がありますよ」


母・苑子そのこは大正生まれ。自由な気風で育ったせいか、おっとりした性格の優しい母親である 良妻賢母の鏡のような母だが、毎日新聞を読み、父と対等に議論するという一面もある。

三姉妹の中では一番桜子が似ているとか。


「わあ、お母さまありがとうございます。蓉子、食べよう」


「はい。お母さま、頂きます」


勉強熱心で言葉遣いも丁寧な妹たちとは対照的に、この場にいない長女・苗子なえこは運動好きで、高校に進学しても近所の子どもたちに混じって汗を流している。


「わっ、美味しい! 苗子姉さんは食べられなくて寂しいね」


「本当、とても美味しい。姉さんに取っておいて良いですか、お母さま」


「蓉子は優しい子ね。構いませんよ」


午後3時の阿部家は、次女と三女と母が勉強や家事に励みながらおやつの時間を過ごしていた。


「今度はいつビスケットが出るかなあ、姉さん」


「そういえば、今月はまだ出ていないね。蓉子が焼いたら?」


「私、焼き方分からないよ。今度お母さまと作りたいな」


「良いですよ。蓉子が作るならお休みの日がいいわね」


「良いんですか? じゃあ、今度の日曜日!……桜子姉さんは作らないの?」


「日曜は、みんなと勉強する。でもビスケットはたくさん食べるよ」


桜子は料理より勉強。お陰で女の子らしいことは何一つ出来ない。

そのくせ大食漢で、食事の時はご飯を茶碗3杯は余裕で平らげている。


「桜子は食べるのが好きですものね」


宿題と家事に勤しんでいた3人だが、いつの間にか座談会と化していた。

毎日こんな調子である。


「はい、食べるのが大好きです! 勉強と同じくらい大好きです」


「蓉子は好きなことはありますか?」


桜子の好きなことは食べることと勉強。思わぬ所で絡まれたと思いながら、蓉子は自分の好きなことを考えている。


「えーと……オルガンを弾くことでしょうか。でもお料理も好きだし、お勉強も好きだし……。一つには絞れません」


好奇心旺盛で多趣味な彼女は、好きなことが山のようにある。そんな蓉子に、母は優しく微笑んだ。


「蓉子は多趣味だものね。今はたくさんのことに挑戦するのですよ」


「はい!」


大人になり、周囲の薦めで結婚した後はやりたくてもやれることが限られてくる。

人生の先輩である母の言葉に、蓉子のみならず桜子も熱心に耳を傾けた。

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