昭和31年夏③
運動神経抜群で足の速い苗子は先陣を切って神社に駆けていったが、蓉子は老齢の祖父母に気を遣ってか、後ろからゆっくりと歩いていた。
「待ってよ、待ってよ姉さんたち」
「蓉子が遅いだけだよ。おじいさんやおばあさんの心配し過ぎ」
「まったく、その通りじゃ」
終いには、祖父にまで一喝入れられてしまった蓉子。縁日を前にして気分は下降気味。
普段叱られるような真似をしないので、たまの説教ひとつが心にストンと響くのだ。
叱られ慣れている苗子や桜子が右から左に聞き流してしまうようなことを、蓉子は十にも二十にも考え込んでしまう。
「あれぇ、蓉子ちゃんでないの」
そんな蓉子に声を掛けた人がいた。声の調子からして、うら若い女性のようだ。
「ユキノお姉さん?」
「そうそう」
彼女は旧姓、小林ユキノ。隣家の小林家の長女だ。
一番末のサヨとは一回り離れているので、もうとっくに人妻である。蓉子が物心ついた頃には既に嫁いでいたが、盆と暮れに戻ってきてはよく遊んでくれた。
「わぁ、赤ちゃん生まれたんだ。太郎ちゃんの弟? 妹?」
「妹。和子って言うんだよ」
そんな彼女は二児の母。長男は太郎といい、今年小学校に上がった。蓉子はユキノより太郎の方が年齢が近いので、盆と暮れに会えばよく遊ぶ仲だ。
妹の和子はまだ生後半年前後の赤ん坊で、対面するのは初めて。
「そうなの。和子ちゃん、私はね、おじいちゃんやおばあちゃんの家の隣の蓉子ですよ。ね、ね、抱っこしていい?」
「いいよ。甫がそろそろ出てくると思うから、それまでね。太郎は輔たちと行っちゃった」
久しぶりの更新です。
夏祭り、皆さまは行きましたか? 私は近所の神社の盆踊りに行きました。