昭和31年夏①
7月中旬のある夕方の日のこと。
「宿題、どうしよう…」
夏休みに大量に出された宿題に頭を抱えるのは、阿部家次女で15歳の桜子。
今年は義務教育が終わるということで、就職組はそう多くないのだが、進学組の宿題の量は去年の倍以上。
「部活は週6日、朝の9時から夕方5時まで……終わるはずない…」
夏休みの宿題を年度末の春休みに終わらせたことのある長女で17歳の苗子と違い、真面目で几帳面な彼女は宿題の多さに頭を抱えていた。
部活動でテニスをやっており、今年は副部長。
来月上旬には中学校生活最後の大会を控えている。
分単位で宿題、受験勉強、部活動、部活動練習、食事…と、全てをこなす彼女に自由時間など無に等しい。
「とりあえず、自由研究はどうでもいいから問題集やって、小論文やって、これでいいや!」
去年までは自由研究に《○○の生態》や《○○観察日記》などといったことに取り組んでいたが、今年はそんな余裕が無い。
初めが肝心、と言わんばかりにきっちりしている桜子が宿題に手を付けるのは、休み前に宿題を出されようが夏休み初日。
三女で12歳の蓉子のように、休み前に出された宿題をその日の夜に終わらせることはない。
「桜子、お夕飯だってー」
姉に呼ばれて、食卓に飛んでいった桜子だった。