昭和31年春⑩
5月下旬の一学期中間考査が終わって1週間、学年上位100名の名前と5科総合点が職員室前に貼り出されていた。
「やった、あたし62位! 蓉子ちゃんありがとう!」
試験前に蓉子が勉強を教えたある友人が自分の名前が出ているのを見つけて、蓉子にお礼を述べた。
《三年一学期中間考査
一、阿部桜子(六) 四二六点》
常に学年上位5番以内を保っている姉の桜子は、今回学年一位を飾っていた。
苦手な教科は無いと思っていたのだが、試験勉強中に姉に聞いたところ「国語ができない」とのこと。
そういえば試験前は常に国語の教科書と格闘している気がする、と蓉子は思った。
そんな苦手な国語を必死に勉強して得た学年一位なのだ。
多趣味で一つの物事に打ち込めない彼女は努力家の下の姉に対する尊敬を深めていった。
「桜子姉さんは凄いな、私も30番くらいに入っていたらいいな」
小柄な蓉子は、学年上位の名前が貼り出されている人だかりに入ることが出来なかったため、比較的空いている下位の方から眺めていた。
「ヨコちゃん、ヨコちゃん」
「なあに?」
すると、大柄な友人に手招きされた。何があるのだろうか。
「どこに行ったかと思った。ちょっと来てよ」
「勿体ぶって、どうしたの?」
「これよこれ、見て!」
友人の指差す方向に視線を上げると、そこには自分の名前が書いてあった。
《一年一学期中間考査
一、阿部蓉子(八) 四六五点》
しかも、学年一位。
「全教科、90点以上でしょ!? 凄いね!」
「うん、ありがとう…。そういえば、学科の間違えた問題は見たけど総合点は計算しなかったな」
中間考査の結果に自信をつけたのか、翌月の6月末に行われた一学期期末考査でも高得点を出した蓉子だった。
桜子は3年6組、蓉子は1年8組です。