昭和31年春⑨
また、更新が滞って申し訳ありませんでした。
今回は以前のお話がいくつか絡んでいます。 小さな総集編とでも言いましょうか。
では、お読みいただけると嬉しいです。
翌朝、全快した蓉子は桜子と一緒に通学路を歩いていたが、「桜子ちゃん、蓉子ちゃん」と、急に呼び止めた人がいた。
「甫兄ちゃんは寝坊したから、今日は大丈夫。それよりさくらちゃん、大変なの!」
蓉子に横恋慕して、毎朝登校デートを夢見て自宅前で待ち構えている小林甫の妹、サヨだった。
そういえば、今朝は小林家の前に誰もいなかったような…。
「甫兄ちゃん、輔兄ちゃんと部屋替えてたの!」
「それがどうしたの?」
「輔兄ちゃんの部屋、大きい窓があって向こうに阿部さんちが見えるんだよ!」
阿部家と小林家は、住宅密集地ではないため密接している訳ではないが、普通に視力が良ければ窓の向こうの様子がよく分かる。
実際に、視力の良い阿部家の長女・苗子には自宅(阿部家)に面した大きな窓のある小林輔の部屋が見えていたようだ。
「まさか……?」
桜子は気づいた。阿部家から大きな窓のある小林家の部屋が見えるのと同じように、小林家からも大きな窓のある阿部家のある一部屋が見えるのだ。よりによって、小林家に面している大きな窓のある部屋は蓉子の部屋。
「そのまさかだよ…」
「どうしてそうなっちゃったの!?」
「輔兄ちゃんが替えてやったんだって」
勿論応援はしていないよ、と言い残して、サヨはバスの停留場に向かって駆けていった。
「蓉子、あんたの部屋から輔さんの部屋って見える?」
「うーん…苗子姉さんみたいに、はっきりは見えないよ」
これを聞いて、ほっと胸を撫で下ろした桜子。甫と蓉子の仲を壊そうと企んでいる。
何故かは彼女自身も分からないが、妹が父と祖父以外の男性と行動を共にしている姿を見たくないのだ。