奇妙な依頼 3
「リザ…ごめん‼︎」
"お見送り"がてら敷地をしっかり出るまで見張りについていくと、玄関を出たところで青年の方が、少女に頭を下げた。
「引き受けちゃったよ…珍しくリザは断ったのに。」
青年が溜息まじりに肩を落とす…と少女がフードから黒猫のぬいぐるみを出して、頭をポンポンとぬいぐるみで小突いた。無愛想な志乃もさすがにその奇行に驚く。
しかし青年は端と動きを止めてから、むっとしてぬいぐるみを取り上げる。
「リザ…君まさかこれ持ってったの?頼むから最低限の礼儀としてさ、ぬいぐるみを持っていくのはやめようよ、子供じゃないんだし…」
少女の方は怒られてる意味がわからないのかキョトンとしたまま青年を見つめ、ぬいぐるみを返されると、またそれをそのままフードに入れた。そのまま青年に続いて車に乗り込む。
いまどき珍しい手動運転車である。
「お邪魔しました‼︎」
青年が車で門外に出ざまに窓を開け叫ぶ。志乃もいち使用人として無視をする訳にもいかず、オズオズと頭を下げ、車が小さくなるのを見送った。
ユキとリザを乗せた車は恩氏の邸宅を後にして、"東地区の背骨"と呼ばれる高速道路を走る。この高速道路も、それからトラストルノ唯一の教育機関PEPEの校舎や施設も、東にある目立った建造物類は大方紅楼からの出資によって建てられている。
いくら個人主体を謳っていたって、道路や学校は必要になってきてしまう。結果として、無政府・無国家は未だ健在だが、無組織の理念はあっという間に瓦解することとなった。
そもそも戦争を始めとする厄介事の火種を一箇所に集めておこう、だなんて考えもとうに瓦解していいはずなのだ…が未だそれが瓦解していないのは、トラストルノに火種の殆どを留めておけているのは、他でもない、SOUPという管理組織があったからだ。
はじめっから"自由・平等"などというのは名目に過ぎなかった。そしてそれはみんな、なんとなく分かってはいたことなのだろう。
「で、リザある?」
ユキは、またウサギのぬいぐるみと戯れはじめたリザに聞く。
「ない。」
さすがに、そこまで信頼されているとは思わなかった。盗聴器や発信機の1つや2つ付けられているだろう、と思ったのだ。
まぁ付けられていたところで、リザの目は誤魔化せない。
信頼されていると同時に、ある程度は一目置いているからこそ付けなかったのかもしれない。
信頼とは富なるや
かつてユキがPEPEに通っていた頃、教室の壁に貼られていた言葉だ。薄っぺらな言葉だと同時は思っていたが、まぁ商売の大切なことを訴えていたのだとすれば、少し納得できる。
「さて、とりあえず夕飯の買い物でもして、家に帰ろうか。いま入っている案件を明日、明後日中に片してしまわないと…」
「手伝う。」
頭が痛くなりそうだ。