奇妙な2人 4
紅楼の頭には現在、劉清居がついている。歴代で最も長く紅楼の頭の座にいる天才だ。
ユキの知る限り、東西南北にいる他の巨大カンパニーや小規模カンパニーの頭の中にも、彼ほど長く頭を務めた人間はいない。それくらい才覚も人徳もある人だ。…と言っても実際に会ったのは紅楼主催の親睦会でちょっと挨拶をしたくらいで、詳しい人柄までは知らない。
まぁ何がどうあれ、その劉氏が御年80歳を迎えるにあたって浮上してきた問題が"後継者問題"だ。
本当は60歳頃で組織を退く人間が多い中、劉氏は
「80で俺は辞めるから、それまでは辞めねぇ、死にもしねぇ。だからそれまでにあと継ぐやつなんかもしっかり決めとけ。」
と宣言して現在までとてつもなく元気に現役トップを務めてこられたのだ。
正直、相談役もしっかりした方だし、後継者候補は2人、うち1人は継ぐ気がないからと放棄していて、揉めるまでもなく後継者は高春李で決まりだと思われていた。
それが、だ。ここにきて他にもう2人後継者候補が出てきたのである。1人は八人幹部の高秋李、そしてもう1人は何がどうして、どこから出てきたのかよくわからない「ミヤケ」という男だ。
「ミヤケ…って旧中華系の名前じゃないね…」
リザがウサギのぬいぐるみの頬をムニムニしながら呟く。
「そうなんだよねー。どっちかっつうと旧日系の名前でさ…紅楼じゃ正直肩身狭いタイプだと思うんだけど。」
実際、紅楼において旧日系の名前で上位に食い込んできているのなんて、幹部補佐の伏理人さんくらいだろう。あの人は家柄と、それから驚くくらいの根性でのし上がってきたのだ。お子さんも相当肝の座った子達だと聞いている。
「で、恩香衣的には、その2人が邪魔だから挫くための情報が欲しいだろうってこと?」
恩氏のことを呼び捨てにしてしまうあたり、リザも随分肝が据わっている。
「いや…あの人はそんな私情でコソコソ動くタイプの人じゃないだろうから…たぶん単純に今の拮抗状況というか、現状把握しておきたいだけなんじゃないかな?俺的には"ミヤケ"が気になるから、素性洗いくらいなら引き受けてもいいかな、とは思ってるんだけど……」
「…けど、それだけじゃ済まないだろうから、今回のは引き受けたくないなぁ、って思ってるの?」
さすが相方。
「まぁね…」
「ふーーーん」
リザが今何考えてるか、はユキにも手に取るように分かる。
スリルがある=引き受けたい、やりたい
ってとこだろう。
「とりあえず、まだその依頼って決まったわけでもないし。依頼内容を聞いてから精査するよ。」
「うん、任せた。」
だよね。そりゃそうだ。
もう邸宅が目前に迫っている。とにかく事は着いてから、だ。
本来ならね、依頼内容を知らないんだから、着いて、話を聞いて、断れると思うんだよね。俺の常識が正しければ、だけどね。