奇妙な2人 3
ユキは珍しく緊張しているのを自覚していた。相談役の邸宅が近づくにつれて、嫌な汗が出てくる。
そんなユキの横で、リザは全く動じる様子がない。リザにとっては相談役だろうが、道端にうずくまる浮浪者だろうが大差無いのだ。
「ユキは特別。」
その言葉を聞いた日、ユキは素直に嬉しかった。し、てっきりリザは感情が欠落しているものと思っていたので、ちゃんと人間らしいところもあるのか?なんて失礼な感動も覚えた。
リザは膝に乗せた大きな白ウサギの長く垂れた耳を、綺麗な蝶結びにして、それからギュッと抱きしめると、結ばれた耳に顔を埋める。
このウサギはリザのお気に入りの一つ。
…そして車の後部座席にも、大量のぬいぐるみ。もともと後ろは狭くなっているタイプの車で、さらにリザが椅子を極限まで後ろにさげているため、人はそもそも乗れそうにないのだが…それをいい事に、リザはぬいぐるみをいくつも並べて、時にはそのぬいぐるみに埋もれて移動中寝ている。
トラストルノには交通法も勿論無いので、別にちゃんと座りなさいとか言うつもりはないが、この車にぬいぐるみか…と思わなくもない。
「今日会うのって恩香衣だよね」
唐突にリザが聞いてくる。
「うん、そうだよ。」
「どんな依頼だろうね。」
珍しい。リザは基本的に依頼内容などに興味を持たない。スリルがあればやる気が増すが、といって依頼を選ぶような事はせず、受けるか否かはユキに任せっぱなしが常だ。
実はリザも顔に出さないだけで、緊張しているのだろうか。これだけ一緒にいても表情から読み取りきれない自分が悔しい。
「なんとなく、だけどこんな依頼じゃないかな?って思い当たるものはあるんだけどね…」
そう、なんとなくは「これではないか」と思うアテがある。紅楼の、相談役からの"直々の"依頼であることが、ミソだ。
いやしかし、もし当たっていた場合、あまり深入りはしたくない。
「どんなの?」
さらにリザは食いついてくる。そんなに今回の依頼が気になるのだろうか。
「今回は、事前に依頼内容の概要とかを全く知らされていないから、完全な想像なんだけど…紅楼の後継者問題についての情報収集依頼じゃないかと思うんだ。」