奇妙な2人 2
仕事相手は慎重に選ばなくてはならない。
それがこの世界で恩香衣が学んだ、最も重要なことだ。トラストルノに来てもう何十年にもなるが、その間に嫌という程思い知らされた。
人間はどうあっても自分を捨てきれない。
故に追い詰められると簡単に裏切ってしまう。
しかし、恩自身はそれを悪いことだとは思わない。特にトラストルノ内においては、自分の身は自分で守らなければならないのだから、時には裏切ってしまうことも止むなし…だがその代わり、同じだけ裏切られたって文句は言えない。
変に裏切れないほど誰かに入れ込んでしまう方が問題だ。
恩はふと愛娘の顔を思い浮かべた。17歳の時のままずっと変わらない記憶の中の愛娘は、いつだって母親似の綺麗な笑顔で笑っている。
「恩先生、ユキ様からお電話で、もうじきこちらに着くそうです。」
部屋の扉の向こう側から付き人の志乃の声が響いてきた。相変わらず成人男性とは思えない透き通った声だ。
「わかった。書類をまとめて応接間へ持っていく。お前はお客様の出迎え準備をしておいてくれ。」
「承知しました。」
考え事をしている場合ではない。切り替えなくては…今回の依頼内容は極めて異例の、そして危険な依頼だ。だからか…少し浮き足立ってしまっているのかもしれない。
この上ないスリル。
今回依頼する2人は巷でもかなり有名な情報屋だ。東地域だけでなく、東西南北全てにまたがって仕事をするオールラウンダー。トラストルノでは実はこのオールラウンダーが極めて珍しく、重宝される傾向にある。
この2人はその中でも異質。
まず依頼を受ける条件が風変わりなのだ。
1.テロ行為やなんらかしらの布教行為でないこと
2.金は前金を提示すること
3.自分達との取引関係及びその他のいかなる関係もこの依頼終了と同時に一切消滅すること
4.極力スリルある依頼であることが望ましい
…この4つ目が変わっている。実際は大してスリルが無くても、依頼を引き受けてくれるのだが、スリルがある依頼の"方が"割引価格で受けてくれる。
普通は危険を伴えばそれだけ依頼費がつり上がっていくのに、この2人は危険であればあるほど安くなっていく。
とは言っても、それなりに有名で人気の情報屋。その辺の連中に頼むより倍は金がかかる。
それでも依頼したくなるくらい、彼等の仕事は完璧でケチのつけようがない。
「しかし…まぁ今回の依頼は受けてもらえるかどうか…」
いくら彼等がスリルを好むと言っても、だ。限度があるだろう。
少女の方は基本的に依頼手続きの際に口を一切挟まない。というより喋っているところを見たことがない。
青年の方だ。彼さえ了承してくれれば。
もはや彼等が頼みの綱。彼等が今回の要。
東西南北の"四大カンパニーの期待"が一心に彼等に注がれることだろう。