運任せの奇策
「元来、人間の運命というのはいくら下準備をしたところで、所詮最後には運によって良きにも悪しきにも転がる。つまるところ常に運に身を委ねている、ともいえるわけだ。」
ユキが変になった…
リザは心配そうにユキを見る。
朝方、唐突にユキが「ドライブに行こうか‼︎」と言い出し、いまどこかに向かっている。方角的には東西南北の交わる地点の辺りなのだが…具体的にはどこに向かっているのか分からない。
「僕はもしかしたら強運の持ち主なのかもしれないな…なにせ今日はあれやこれといった行事が被っている‼︎しかも僕にはリザという強い味方がいる‼︎」
やはり今日のユキは大分おかしい。
「ユキ…?あの…その…」
リザは不安げにユキを見る。
「さて、そろそろ説明をしないとね。リザ、僕らは今どこに向かっていると思う?」
「え…クロスエリア?」
「おしい‼︎というより合ってはいる。がしかし求めていた答えに対しては少し解答が広範囲すぎる。」
「?……‼︎まさか…SOUPの本部?」
「その通り。僕らはいまSOUPの本部に向かっている。」
潜入はやめにしたのではなかったのか。それとも潜入以外の何か良い策でもあったのだろうか?
「今日はね、実は昼間にSOUPの本部のほんのごく一部が開放されるのさ。周辺の人々なんかに対する説明会を兼ねた一応の一般開放日さ。そこに普通に一般開放を見に来た客として紛れる。」
それだと名前などを知られてしまうのではないだろうか?しかもそこから潜入なんてどうやるのだろう?至難の技にしか思えない。
「そしたら途中で一瞬消えよう。そうして情報管理室で情報を盗む。ついでに現在の職員リストに自分たちの名前を入れる。」
名前、と言ってもさすがに本名を入れたりしたらユキはともかくリザは即バレだ。しかも情報管理室には職員情報その他はあっても、実験の情報諸々は無いだろう。そんなところにほいほい機密情報を置くと思えない。
「名前は偽名を既に手配済みだから問題無い。それから取ってくる情報もわずかでいい。今回はね。」
ユキはハンドルを捌きながら右手で小型のカードを2枚取り、リザに手渡す。
そこにはリザとユキがこれから成るのであろう、人物像についてが記載されていた。
雪野幸樹 24歳その他云々。
折沢美華 21歳その他云々。
「21歳…」
「SOUPに入るのに未成年じゃまずいだろう?だからちょっと無理な年齢設定にしちゃった。ごめんね。」
それは別段気にしていない。
「で、とりあえずある程度の情報が掴めたら、SOUP本部案内のツアーにまた紛れ戻るのさ。そのあとは、僕の得意分野で頑張ってみるとするよ。ハッキングと、"人"を使った情報収集さ。」
「そんなに…うまくいく?」
「いや?全ては運任せだよ。」
「でもうまくいくの…」
「うまくいかせるんだよ。」
ユキとリザは最強のコンビだとカンパニーを含む取引相手は一様にそう言う。
ここぞ腕の見せ所というわけだ。