噂以上の真実
「え…これ…」
リザ…?
リザからPEPEの首席である名影零だと言われ渡された写真には、リザそっくりの人物がPEPEの制服を着て、隣の誰かと会話をしているのであろう写真だった。
「私はSOUPの研究施設に入れられていたことがある。その時に作られた私の、写しの1人が恐らくは名影零だと思う。」
「ん?クローンってなに?」
話が色々とぶっとびすぎていてユキは困惑する。怒るとか怒らないとかいう以前の問題だ。
理解が追いつかない。
「あの…うーんと…SOUPでは前に、人体実験を行ってたの。いまでもその実験は継続されているんだけど、ディモンドっていう人が人間の完璧なクローンを作り出すことに偶然成功しちゃって…そしたら何人かの0〜30歳位までの人が集められて、実験されたの。」
SOUPがなんらかの人体実験をしているというのは本当のようだ。しかし問題はそこではない。"人間のクローン"なんてものがありうるのか…
「私もそのひとりでね…それで、私の知る限りでは五体、私のクローンがいるはずなの。」
「もしかして…だからSクラスの生徒が驚いた…?いや、でも恩氏の息子さんは別に驚いてなかった…」
「それは…その……恩って人も実験に参加しているからだと思うよ…たぶん誰か生き返らせたい人でもいるんじゃないかな?…いま、死人を蘇生したり、死人から生きたクローンを作り出す実験もやっているらしいから。」
そんな…
だとしたら娘さんだ。四年前に亡くなった娘さんを蘇らせたいんだ…
「えっと…ちなみにリザはクローンではない…?」
「うん。あとね…いまSOUPに潜入するのは危ないと思うの。」
「どうして?」
「SOUPで大きな動きがいまあるのだとして、それが本部だけでなく東側で活発になるってことは…実験棟で、本当にまずいことが起こったのかもしれないから…」
「実験棟っていうのは東地区にあるのかい?」
「ううん、一応名称上は東地区外になる………
旧日本列島なんだけど…」
旧日本列島はいまどんな風になっているのかよく知らなかったが、実験島になっている…ということか?
なんだか話がややこしくなってきた。
「まぁじゃあとどのつまり…いまSOUPに潜入するのはまずいってこと?構成員としてではなくて、単純に潜り込むのもまずいかな?」
「見つからなければ…大丈夫…と、思う。」
見つからなければ…これが実は構成員として潜入するよりも難しいところだった。
SOUPには正確な地図が存在しない。さらに監視カメラやら赤外線センサーやらがそこかしこにある。
どのルートが良い悪い以前に、どんなルートがあるのかさえ分からないのだ。
「これは潜入目前にして大幅な作戦変更を余儀なくされそうだね。」
「ごめんなさい…」
それは何に対する謝罪だろうか。ギリギリまで言わなかったことか…いや、そもそもいまのいままで言わずに来たことか。
どちらにしても、ユキは気にしていなかった。
「謝らなくていいよ。いま教えてくれただけでありがたいさ。だから、謝らないで。」
ユキはリザの頭をポンポンと2回ほど撫ぜると、頭を捻って考えうる限りの作戦を考える。立て直しはあと1日で済ませなければ。
これは確かに難局であるはずなのに、ユキはいま最高にワクワクしている。