奇妙な2人
世の中で上手くやっていくには、方法がいくつかある。自分で新たな分野を切り拓いたり、もしくは人にくっついていったり…まぁやり方は様々だ。
ただ、ある人にとっての上手いやり方が必ずしも自分とイコールとは限らない。
だから上手くやっていくってのは、そう楽なもんじゃない。
たぶん、そんな内容の番組だったと思う。
延々と成功した人々の軌跡を紹介して、それでも最後には"結局自分次第"と締める。
"他人は他人、自分は自分"、トラストルノらしい番組だ。
ただ、とんでもなくつまらなかった。
「ユキ…前通れそう。」
ユキはそんなリザの声で慌ててアクセルを踏んだ。少しぼーっとしてしまっていた。寝不足かもしれない。ユキの色白な肌は、白を通り越して青くなりつつあるし、なにより目の下のクマがすごい。
リザはハンドルを握る美青年を少し憂鬱そうに見やった。
リザの生活はこの青年、ユキにかかっている。
仕事にしろ、日常のあれこれにしても、ユキがいなければリザは何も出来なかった。しかし本人は何かしようという気がないし、ユキの方も特に何かをやらせようと考えたことがない。
「リザ、今回の依頼者は、あの四大カンパニーの1つ"紅楼"の幹部の方だ。だから…そのー…応接の場にそれは持っていかないでね。」
ユキは隣に座る少女…の持つ白くて大きなウサギの人形をチラリと見てから、注意した。
リザは透き通るような白い肌に、真っ黒な髪をした旧アジア系の少女だ。歳はおそらく15〜6歳、常に半目でいるがかなりの美少女である。
かく言うユキも色白で黒髪、旧アジア系の美青年、なのだが2人共に自覚が全くない。
いつも、リザは黒いサルエルパンツに黒のパーカー、青いTシャツ、そして人形。この人形は日替わり。
たいするユキも黒いスーツに青いネクタイ。
お揃いの衣装のように見える。
この2人の職業は情報屋兼運び屋。トラストルノに数多あるカンパニー同士の繋ぎ役なんかを引き受けることもままあった。
そんなユキでも、さすがに今回の依頼には緊張していた。
四大カンパニー自体からは依頼を受けたことがある。しかし、カンパニーの幹部から直接依頼を受けたのは今回が初めてで、しかも相手は、あの"紅楼"の相談役だ。コンシリエーレといえば、組織の実質2番目。そんなところから依頼を受けてしまった。
密かに死を覚悟している。