俺、旅に出る
村が白いファウクーンの襲撃を受けてから事態が納まるまで約3時間。そのうち俺がバンサとファウクーンと戦っていた時間はおよそ3分。驚異的な早さで魔物を蹴散らした俺は父さんの死を見届けると、その場で気を失ってしまった。
「あれ...俺は....」
俺は見慣れた自分のベットの上で目を覚ました。自分の体を見ると、特に外傷はなかったようで包帯などは巻かれていなかった。
「“記憶の奇跡”....か....」
突如俺が覚醒したその技。驚くべきことに神様が新しい神創魔法って言っていた。もしそうだとしたらめちゃくちゃスゴくないか!?神創魔法といえばこの世界にも数える程しか操る事のできる奴はいない、最上級の魔法らしい。いや待てよ。あれ魔法か?むむむ....と頭を捻らせていると、脳内にある文字列が浮かんできた。
固有神創魔法“記憶の奇跡”
効果 この魔法を発動させた状態、一定の範囲内に仲間がいる状態でその仲間の技をまったく同じ動き、同じタイミングで発動する事によりオリジナルの技をより強力なものにして放つことが可能になる。なお、この技は使用者の技量に関係なく仲間の技を発動するので、使用者の技量が不足してもその技だけに特化したステータスに自動で変換される。発動可能時間は5分に制限される。
「!?」
俺は表示された内容より頭の中に勝手に文字列が浮かび上がった事に驚いた。
「すげぇな...この世界にきて17年。ようやくそれっぽいことになってきたな...」
アニメや小説の世界で当たり前のように思っていた脳内ステータスは実際に体験してみると、かなり感動した。しかし、なんとなく体が重い...あの魔法の副作用かなんかかな?そんなことを考えてると、
「お邪魔しま~す...あ!ディオ!起きてたんだね!」
ドアから音をたてないようにゆっくりと入ってきたノエルがダルそうな顔をして首をまわしていた俺に気付く。
「あれ?ディオ目の色元に戻ってるね」
不思議そうにノエルが俺の目をのぞきこんでくる。
「マジで!?」
俺はノエルから鏡を受け取ると自分の目を確認した。すると、あの時まるでノエルのような深紅に染まっていたはずの俺の両目はもとの黒目に戻っていた。あれは覚醒したからなったのかと思ってたけど違うのか。
「残念。せっかくディオとお揃いだと思ったのに」
本当に残念そうにするノエル。その手には大きめのバスケットが抱えられていた。
「ノエル、それは?」
俺はそのバスケットを指差しながらノエルに聞く。
「あぁ、これ?さっきディオのお見舞いに行くって言ったら、村のみんなが持っていってくれって!」
「へぇ~」
意外だ。今は村のほとんどが使い物にならない状況で、村のみんなは自分の事で一杯一杯かと思ってた。そうおもってバスケットに視線を移すと中にあるブドウらしき物の実が少なくなっていた。普通お見舞いの品に食べ掛けはださない。まさか...と思ってノエルの口元に目をやると...
「ノエル。口にブドウ?の皮ついてるぞ」
「えぇ!?ウソ!?」
俺がそう言うとバスケットを机に置き、急いで手鏡を取り出して自分の口元を確認するノエル。ていうか、あれでバレない自信があったのかよ。口の周りがっつりついてたぞ。
「どう?とれてる?」
そう言って俺に口を見せてくるノエル。その姿はめちゃくちゃ可愛いんだけども、
「むぎゅぅ!?」
「まずは謝罪だろ」
俺は目の前につきだされたノエルの唇をギュウッとつまむと、ノエルに謝罪を要求した。ノエルは最初は抜け出そうとバタバタしていたけど、急にシュンとなって、
「みょうみょしゅみましぇん」
と素直に謝った。ノエルは昔から少しおてんばなところがあるけど、根はしっかりとしたいい子だ。
「よろしい」
俺は謝罪を何とか聞き取ると、ノエルの唇を解放した。それからノエルは花瓶の手入れとかを一通り済ませると、近くの丸椅子を俺の座っているベットに寄せて座った。そして、
「マティアスさんの事、残念だったね」
父さんの事について俺に話し始めた。
「ディオが気絶したあとね、村のみんなでマティアスさんのお墓をつくったの。それで一人ずつお花を送ろうってことになってね。みんな終わって、あとはディオだけなんだ」
そして俺の手を優しく握ると、
「ディオの体調が大丈夫なら、行こっか」
優しくニッコリと俺に微笑む。
「あぁ」
俺はノエルの手を握り返すと、ベットから起き上がり着替えを済ませて父さんの墓へ向かった。家を出ると、俺の姿を見るなり家屋の修復作業をしていた村のみんなが話しかけてきた。
「おぉディオ!あの魔物を追い払ったのお前なんだってな!お父さんの事は残念だったけど...感謝してるぜ!」
と、こんな感じの内容をみんな言っていた気がする。その時は頭がぼーっとしていてあまり覚えてない。村のみんなとの会話を何度か交わしながらしばらくゆっくりと道を進んでいると、ノエルが俺の手を引っ張った。
「ディオ!ほら!あそこだよ!」
ノエルが指差したのは、村全体を見渡すことのできる丘だった。その丘を登ってみるとちょうど真ん中辺りに十字に組まれた細い木材とたくさんの花束が目に入った。
「父さん...」
俺は父さんの墓にしゃがみこむと持ってきた花を供えた。木で作られた十字架を見ると父さんが生前身に付けていたネックレスがかけられていた。
「まだ実感わかないなぁ...」
そう。頭では父さんの死を受け止めようとしていたが、心の中ではいつものようにいつの間にかふらっと帰って来てるんじゃないだろうか、などと考えている自分がいる。
「父さん。俺、都市に行って何としてでも冒険者になって、父さんが見ることの出来なかった物を全部見てくるよ。それまでしっかり見守っててくれな」
俺は墓に軽く手を合わせると立ち上がった。
「もういいの?」
黙って待っていたノエルが確認する。
「あぁ。これ以上この墓見てると悲しくなっちまうからな。それより―」
俺はノエルの目をまっすぐに見つめると、
「俺は冒険者になる。その為に明日から都市を目指す。しばらくこの村に帰ってくる事はできないと思う。ノエル、お前はどうする?」
俺は明日にでも中央都市に住む父さんの知り合いの所に向かおうと思っている。この村から中央都市までは歩いていっても1日ちょっとでたどり着くことができる。今はだいたい都市の学校が始まる頃だろう。タイミング的にちょうどいい。問題はノエルがどうするかだ。俺としては是非とも一緒に来てほしい。そして、学校に通う事が出来ればさらなる魔法のレベルアップになると思うのだ。しかし、それは俺の都合に過ぎない。ノエルも年頃の女子だ。してみたい事もたくさんあるはず。それを無理やり連れていく訳にはいかない。まぁ俺のこの迷いは何の意味もなかった。何故なら、
「もちろん、ディオについていくよ」
即答だった。俺はびっくりして目を見開いた。
「本当か?冗談で言ってる訳じゃないんだぞ。やりたい事とか、ないのか?」
「失礼だなぁ。冗談な訳ないじゃん。それに私にとってディオと一緒にいることがやりたいことだから」
ニコッと俺に笑いかけるノエル。本当に良い幼なじみをもったなぁ俺は。
「分かった。じゃあ色々準備もあると思うから、明日の夜明け、ここに集合な。」
そう言って俺とノエルはそれぞれの準備をしに家に帰るのだった。
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