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 俺、覚醒する

「キュアァァァ!!」


 と、悲鳴をあげるように叫びながら俺に向かって急降下してくる白いファウクーン。


「こいっ!」


 仕込み刃を持ち直した俺はファウクーンの攻撃を受け止めようとした。しかし、

  〈ギャキィィィン!!〉

 一度はファウクーンの攻撃を受け止めることに成功したが、二度目の攻撃に反応することができず仕込み刃を弾き飛ばされてしまった。トドメをさそうと俺に鉤爪を降り下ろす。


「しまっ―」


  〈ザシュッ〉

 鈍い貫通音。


「え...」


 ノエルの不思議そうな声が静まりかえった戦場に響く。俺が閉じていた目をあけると、


「―!..父さん!!!」


 俺を貫くはずだったファウクーンの鉤爪が貫いていたのは、俺ではなくファウクーンに背を向けた父さんだった。


「おぉ...かん、一髪だったな....ディオ。大丈夫か?」


 ゴホッと口からたくさんの血を吐き出す父さん。その背中と腹にはファウクーンによって大きな穴が開けられていた。俺は急いで唯一使うことの出来る回復魔法を唱えようとした。


「やめろ...ディオ」


 そう言って父さんは俺の手をおさえた。


「その杖を持ってるってことは、手紙も読んだな....ハハッかっこわりぃな、こんな格好」


 笑いながら俺に話しかける父さん。その体からは今も大量に血が流れ続けていた。


「お前の魔法じゃ、この、傷は治せねぇ。かといって俺もノエルちゃんも無属性の魔法は使えねぇ」


 諦めたようにそう呟くと目を瞑りながらこう言った。


「この村が...ダメになったら中央都市に行け...俺の知り合いがお前が冒険者になる手伝いをしてくれるだろう。あぁ、母さんは他の奴らと避難してるから...心配いらねぇ」


 父さんは完全に死を悟っていた。


「出来れば....お前の強くなったところ、見てみたかったなぁ」

「なに死ぬ前のヤツみたいなこといってんだよ、父さん」


 俺は涙を堪えるので精一杯だった。俺は何も出来ないのか?そう思った瞬間、俺の脳内にあの白い部屋の女の声が響いた。


『遅くなってしまいすいません。記憶力限界突破、全運勢限界突破の組み合わせにより新たな神創魔法を発現させました』


 その声と同時に俺の頭の中に1つの術式が浮かんできた。


 ――“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)


 俺は涙を拭うと、仕込み杖を強く握りしめた。




 私は必死に無数のバンサと戦っていた。ディオとマティアスさんの邪魔をこんな奴らにさせるわけにはいかない!!


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって、我が剣に輝く五つの力を宿せ!!」


 私はもう一度複数属性魔法をかけるとバンサの群れと向き合った。しかし、私の体はもうキズだらけで、魔力も切れかかってる。でも、


「ディオの....ためだから!!」


 私は自分の体に鞭打つとバンサの群れに突っ込んで行く。しかし、油断をしていた私はバンサの攻撃を直撃でくらってしまい、遠くに投げ飛ばされてしまった。私は不躾に剣を杖のようにしてヨロヨロと立ち上がった。でも、体は言うことを聞いてくれなくて、その場に崩れ落ちてしまった。


「ディオ...」


 私は意識が薄れていくなか、最愛の幼なじみの名を呟いた。すると、


「呼んだか?」


 背後からかえってきたのは、小さい時から聞いていた、大好きなあの声だった。


「はぁあ!!」


 ディオは私の周りにいたバンサを一瞬で蹴散らすと、私のそばに来て


「こんなにボロボロになって...ありがとなノエル。お前の技ちょっと借りるぜ」


 ディオは私に優しくそう告げると、バンサの群れに歩いて行った。




 父さんと話してから、俺はノエルの元に向かった。ハハッ、俺はなんでこんなことしてるんだろ。大学に行って爽やかな人生を送るはずだったんだけどなぁ。


「行くぞ!」


 俺はスゥーっと軽く深呼吸をすると、呪文の詠唱を始めた。


「“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”発動!我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって、我が剣に輝く五つの力を宿せ!!」


 五属性同時発動。この技は本来ノエルにしか使うことは出来ない。しかし、“今の”俺なら使える。俺の眼がノエルのような深紅に染まり、仕込み刃がノエルとは比べ物にならないほどの輝きを放つ。“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”は俺一人では何の意味もない神創魔法。信頼する仲間とまったく同じ動き、同じタイミングで技を発動する。しかし、それだけで発動出来る訳ではない。俺のセンスとかも深く関わってくる。まぁ俺には魔法のセンスは一切ない。これは『あー、今めっちゃ運良かったー』という偶然を継続的に引き起こしている状態になる。つまり、仲間の動きを鮮明に記憶している事、センスなどを無視する驚異的な運の良さを持っている事が、この神創魔法の発現条件だった。俺にしか発動出来ないのも頷ける。


「くらえ!!」


 周りを囲むバンサに向かって俺は円を描くようにして剣を振るった。すると、通常より強力になった斬撃とノエルの魔法の倍以上の威力をもった斬撃がバンサを襲った。立ち上る土煙。それが晴れると、あれだけたくさんいたはずのバンサの姿は跡形もなく消滅していた。俺はそんな事には見向きもせず、遥か上空を飛行する白いファウクーンを睨んだ。


「時間がない。お前が飛んでいたいならそのまま殺してやる!」


 俺はそう叫ぶと、ファウクーンに向かって無数の火、水、風、雷、無属性の魔法を放った。魔力を纏った衝撃波。体力と魔力の残量をまったく気にせずに、やむことのない攻撃。それはまるで、俺を核に五色の嵐が発生している様だったという。最初のうちはファウクーンはかろうじて俺の攻撃をかわしていたが、少しずつファウクーンは体にキズをつくっていった。そして、とうとう俺の攻撃がファウクーンの翼にキズをつける。わずかにスピードが遅まる。その瞬間、五色の嵐がファウクーンの体を呑み込んだ。


「キュァァァァァァァァ」


 まるでシュレッダーにかけられたかのように一気に切り裂かれていく。空にファウクーンの断末魔が響き渡った。やがてその悲鳴もおさまっていった。俺はファウクーンの消滅を確認するとノエルの元に駆け寄った。


「ノエル!!」


 俺はすぐさまノエルに回復魔法をかけた。本来この魔法はかすり傷を治すぐらいの効力しかないが、もともと俺が使えたこともあってか今は上級魔法にもひけをとらない効力をもっている。キズだらけだったノエルの肌はあっという間に元の美しい肌に戻っていった。


「ディオ」


 ケガが治り、動けるようになったノエルが起き上がる。


「ディオ...ありがとー!」


 ノエルはそういったと思うと瞳に涙を溜めながら俺に抱きついてきた。


「うわっ!ちょ!ノエル!」


 俺はかなり焦っていた。俺は心は三十路のおっさんだ。それに対して、ノエルは男なら絶対に振り返る、超絶美少女で年齢は17歳。日本で言えばピッチピチの高校生になる。それにこの体制、よく見れば大きなノエルの胸が俺に押しつけられている。これはもう俺の理性さんが家出してしまいそうで。


「ノエル。そろそろ!」

「あ...」


 俺は多少の惜しさもあったがノエルを自分からひっぺがした。その時にノエルが残念そうな声をだしたのは、あえて触れないでおこう。


「そういえば!」


 俺はあのとき気を失ってしまった父さんの所に走っていった。父さんの周りには無事だった村の人達が集まっていた。そのなかには母さんの姿もあった。


「ディオ!」

「母さん!父さんの具合は!」


 俺はみんなを掻き分けながら父さんと母さんのところに寄っていった。


「ディオ!ノエルちゃん!良かった...二人とも無事だったのね」


 安心する様子を見せると、父さんに向きなおった。


「怪我状態が酷いわ。これはこの村の医者じゃ治せないかも知れないわ」


 悲しそうにそう呟く。


「俺がやってみる」

「え?」


 俺は父さんの前に歩み出ると、回復魔法の詠唱を始めた。


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって、聖なる癒しを与えよ」


 俺がそう唱えると父さんのキズはみるみるうちに癒えていった。しかし、父さんの顔色は真っ青のままだ。


「呪い...だ。ディオ」


 傷が治り、話せるようになった父さんが口を開く。


「あのファウクーンの呪いだ。調査報告のなかに呪いをかける力を持つ個体がいた。まさかこいつだったとはな。その呪いの特性は即殺。そろそろか。遺言は...特にねぇや。あぁメルヤ、俺が死んだら早く別の男つくるんだぞ」

「そんな...こと...」


 泣きながら母さんが答える。


「それと、ディオ」


 自分の名前を呼ばれて俺は顔を向ける。


「お前、冒険者になりたいんだってな。その為には都市の学校を卒業しないといけねぇらしいけど、まぁその辺も俺の知り合いがどうにかしてくれるだろ。ホント死ぬ前に、お前が強くなるっていう夢が叶って良かったぜ。その力、役に立てろよ。―あとノエルちゃん。バカでどうしようもない息子だけどノエルちゃんの事は気に入ってるみたいだから、仲良くしてやってな」


 ノエルは涙で父さんに答えることが出来ない。


「父さん」


 俺は父さんに近づくと、口を開いた。


「俺は父さんの言うとおり、冒険者になりたい。その為にしないといけない事なら、なんだってする。ここまで俺を育ててくれてありがとな」


 俺が告げたのは感謝の言葉だった。父さんはフッと笑うと、


「礼なんて止めてくれよ。俺は最後までお前を見ていられなかった、ダメな親父だ」


 そう言うと、父さんは目を閉じた。それから父さんが口を開く事はなかった。それからしばらく、村の偉大な英雄の死に誰もが悲しみを隠すことが出来なかった。





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