俺、真相を知る
「はぁはぁ、はぁはぁ」
俺は爆発音の響く村の中を、メモの場所目指して駆け回っていた。どうやらメモに記された場所は家の近くらしく、俺は出来る限りの近道を探していた。しかし、
「ここもダメか!」
おそらく父さんとノエル、ファウクーンの戦闘により崩れた村の建物が行く手を阻んでいた。ここで3ヵ所目だ。残る近道は一ヶ所しかない。頼む!通してくれ...!
「よし!」
俺の願いが通じたのか、最後の近道はかろうじて通過することが出来た。あとはメモを頼りに進むだけだ!俺はひたすら崩れた道を進んだ。そしてとうとう目的の場所にたどり着いた。
「ここは....倉庫?」
メモの通りの場所は俺の家の倉庫だった。俺は疑問に思ったが迷っている暇はない。ギィッっとかたいドアを押し開けるとホコリっぽい匂いがした。
「ゴホッ。本当にここに父さんが見せたかった物が?」
物を掻き分けて倉庫の奥に進んで行くと...
「これは...」
大量の物の奥にはひとつのレバーがあった。俺はそれを迷うことなく引き倒した。すると、
〈ガチャン!ギギギギギ...〉
と、音を立てながらその奥にあった棚が真ん中から2つに割れ、隠し階段が出てきたのだ。
「マジか...」
隠し階段なんて映画の中でしか見たことのなかった俺はそんな洒落た仕掛けに惚れ惚れとしてしまった。
(と、とりあえず中に)
自分に言い聞かせるように小さく呟くと、俺は階段の奥へと降りていった。
「すげぇ...」
階段の奥にあったもの。それは大量の剣や槍、鎧などの武具から魔法、医学、歴史などについて記してある書物だった。そして、その多くの武具の中でもひときわ神々しい雰囲気を纏った物があった。
「これは...杖?」
それは黒い金で装飾された一本の杖だった。そしてその杖の近くにはまたメモが挟まっていた。
『ディオへ
お前がこの手紙を読んでるって事は、それなりにヤバい状況なんだろうな。そこでその杖と俺が調べていた事を全てこの手紙に記しておく。その杖はただの杖じゃない。俺の知り合いの神創魔法使いに特注で作らせた仕込み杖だ。中に剣が仕込んである。急造の物だがお前には昔から剣術を教えてある。そこそこには使えるだろ。ここからが本題だ。最近、色違いの魔物が各地で目撃されている。俺は国からの依頼でそれを調査していた。分かった事を書いておく。
1.色違いの魔物は通常の魔物より戦闘力が高く、知性がある。
2.色違いの魔物は他の魔物を操ることができ、操られた魔物は活性化して、普段より凶暴になる。
3.今現在で確認されているのは、『白いファウクーン』、『赤いリヴァイアサン』、『黒いドラグーン』の三体。
以上だ。俺も必死に調べたが、これが限界だった。気をつけろよ。俺は一度ファウクーンと戦ったがまぁ、倒せなかった。もうアイツと戦うなんて無謀なことはしたくないね。最後に。前にお前に戦いを楽しむなと言った筈だ。だが必要な時には戦え。例えばノエルちゃんを守る時とか。お前よりノエルちゃんの方が強いけど。要するに、臨機応変に戦え。仲間を頼れ。お前は弱い。それを忘れるな。
いつまでも愛してるぜ。父さんより』
手紙を読み終わった俺の目には涙が浮かんでいた。
「....父さん...」
俺は仕込み杖を握りしめると立ち上がり、ノエルと父さんが戦う場所に走り出した。
「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって、唸る業火の力を示せ!!」
私は離れたところでマティアスさんと戦う白いファウクーンに向かって“火炎弾”を放った。しかし、ファウクーンには簡単にかわされる。
「なんでっ!」
私も焦っていた。ディオがメモの場所に向かってから、数分が経った。私も最初は時間稼ぎのつもりでマティアスさんの援護を開始した。でも、マティアスさんは右手がもう使い物にならない位の傷を負っていて、苦戦を強いられている。集中力が足りない事で私の魔法も当たらない。そのせいでマティアスさんに守ってもらうような形になっている。このままでは足を引っ張ってしまう。私は剣を体の正面に構えて左手を翳す。
「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって、我が剣に力を宿し、輝く五つの力を授けよ!」
私の使うことの出来る火属性ではない魔法の詠唱。複数属性魔法。剣に5つの属性を宿して詠唱なしで5つの魔力をもつ斬撃を繰り出すことが出来る。
「くらえっ!!」
私は地上に降りたファウクーンに斬りかかる。しかし、広げた翼で弾かれてしまった。
「ノエルちゃん!!」
マティアスさんが弾き飛ばされた私に声をかける。
「私は大丈夫です!それより回復を!」
私は空中で剣から斬撃と風属性の魔法を放ちながら、マティアスさんに答えた。そして、火属性の魔法を纏わせた剣でもう一度斬りかかった。すると、〈ジュウウウゥゥ!!!〉と、焼けるような音を立てて、白いファウクーンの翼の一部を切断することに成功した。でも、それだけ。
「キュアァァァ!!」
白いファウクーンは悲鳴のような鳴き声を上げるとまた空に上昇していった。かわりに私の前に現れたのは、活性化した無数のバンサだった。
「ディオ、早く....!」
私は願うようにそう呟くと、斬撃を放ち無数のバンサに向き合った。
「あと少し...あと少しで...」
俺は仕込み杖を片手に来た道を全力で駆け抜けていた。やむことのない戦闘音。けれどこれはまだ父さん達が戦っている証拠だ。戦闘音の発生源にどんどん近づいていく。
「ノエル!父さん!」
建物の間から出てきた俺の目には無数のバンサと、それと戦うノエルの姿だった。ここからじゃよく見えないが、ノエルも相当ダメージを負っている。
「ノエル!」
俺は仕込み杖から刃を抜き、周りのバンサに応戦しながらノエルの元に駆け寄った。
「はぁ...はぁ...ディオ...」
ノエルは激しく息をきらしながら剣を片手に俺の声に反応した。確かあれは...ノエルが我流であみだした技だったっけ。少し前に嬉しそうに俺に見せてきたのを覚えている。とうてい俺には出来ない。
「父さんは!」
仕込み刃でノエルの援護をしながら、父さんの安否を確認する。
「マティアスさんなら...今は建物の影でケガを治療してる」
ノエルも斬撃の手を止めることなく答えた。俺は父さんのメモに書いてあったことを手短にノエルに伝えた。
「そうだったんだ...はぁ...だからこんなに...たくさんのバンサが...」
そう。このバンサもあの白いファウクーンが操っているものだ。つまり、あのファウクーンをどうにかしなければ、このバンサの襲撃に終わりはこない。が、ノエルが発動している複数属性魔法は本来使えるはずのない属性を無理矢理引き出す魔法だ。当然、使用者の魔力消費はとてつもないことになる。クソっ普通こういうピンチは俺がチートを使ってどうにかするんじゃないのか!?俺は心の中でそう叫んだ。しかし、俺のチートは記憶力限界突破と全運勢限界突破だ。簡単にいえばすごい記憶力のいいラッキー野郎。そんな能力でこの状況をどうこう出来る訳がない。俺は自分の無力さを心から嘆いた。
「ディオ!危ない!!」
俺はノエルの声ではっと我に帰った。白いファウクーンの爪が俺を貫こうとすぐそこに迫っていたのだ。
「クソっ」
俺は仕込み刃を持ち直すと、目の前にある巨大な爪を受け止めようと、思い切り、踏ん張った。何も出来ない、この弱い体で。俺はその自分の未熟さを考えずにとったこの行動をあとで後悔するとも知らずに。
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