俺、現実を知る
ドゴォォン!
村の方からまた大きな音が響く。
「急ごう!」
「分かった!」
ファウクーンの姿を見た俺とノエルは一直線に村のある方向へと向かっていた。
(さっきからの胸騒ぎがこれのことだったとしたら....)
今日起きてからずっと俺の心にあった不吉な予感。ファウクーンが飛んでいったのには理由があるはず...!
「ディオ、危ない!」
考え事をしていた俺はノエルの声で現実に引き戻される。前を向くと眼前に猿型の魔物、バンサが俺の顔に向かってその鋭く尖った爪をふりおろそうとする直前だった。
「うわっ!」
俺は咄嗟に腰の鞘に入れておいたナイフを抜いて応戦しようとした。しかし、
「はやっ!」
俺はこれが魔物との初戦闘だった。多少は反応が遅れる。だが目の前のバンサの攻撃は“速すぎる”。俺がナイフを抜いて構えた時にはもうバンサの爪がすぐそこに迫っていた。もうダメか!?俺が諦めかけたその瞬間!
「グギャァァ!」
バンサが空気に弾き飛ばされた。別に比喩表現とかじゃない。本当に空気のカタマりに当たったんだ。
「ディオ!」
「あ、ああ!」
俺は弾き飛ばされたバンサにすぐさまトドメをさす。ナイフを刺した時に感じる生々しい肉の感触。飛び散る血液。その時俺の脳内には緊張と共に父さんのある言葉が思い浮かんでいた。
『ディオ、よく覚えておけ。戦いは自分が生き残る為には避けては通れない。だが忘れるな。戦いを楽しむな。戦いはただの殺し合いだ。この事を胸に刻んでおけ』
今俺はバンサを殺した。別に楽しかったなんておもってない。が、生き残ったという達成感はあった。気をつけないとなと、自分に言い聞かせる。そして、
「おい、ノエル!!なんで魔法使えるんだよ!」
そう、さっきの空気弾を放ったのは間違いなくノエルだった。ちなみに俺は小さい頃から魔法を使えるように勉強や研究を繰り返したが、未だに簡単な回復魔法しか発動出来ない。なのに何故だ!
「何で中級の魔法を使えるんだ!」
「いや...その...」
魔法は火、水、雷、風、無の5つの属性に分けられている。その中で更に初級、中級、上級、神創級にランク分けされる。この世界に生きるものは生まれた時から才能や血統によって使える属性が1つ決められていて、原則それ以外の属性の魔法は使うことが出来ない。初級はその名の通り初心者が使っても成功する超簡単なヤツだ。俺の回復魔法も無属性の初級魔法。中級、上級は鍛練が必要になる。中級まで使うことができれば優秀で上級まで使えれば相当な腕前だ。最後の神創級はほぼ災害レベルの術を扱えるらしい。それでノエルが使った空気弾は無属性の中級魔法だ。俺が出来ないのになんでノエルが使えるようになってんだよ!っていうかいつ、誰に習ったんだよ!
「前にディオの家に遊びに行ったでしょ?その時にディオのお父さんに魔法のことが書いてある本を貸してもらって...」
あぁ、確かにそんな本あったな。俺が書斎で一番最初に興味をもった本だ。
「それを読んでね、少しでもディオに追いつけるようにって1人で勉強してたら結構使えるようになっちゃった」
テヘッとかわいく舌をだすノエル。確かにその仕草は写真に残して保存したいくらいキュートだった。だがしかし!!中級魔法は中央都市にある魔法学校でそれなりに勉強しないと普通の人なら習得することは出来ない。それを独学でやっちゃうノエルはそうとうセンスがあるのだろう。
「なんでだ...せっかく転生したのに魔法のセンスがないなんて...」
ショボーンと落ち込む。
「だ、大丈夫ディオ?」
原因は自分だと思ってもいない幼なじみが優しく声をかけてくれる。
「あ、あぁ...それより!!」
俺は自分の気持ちを無理やり振り切ると背筋をのばす。
「急いで村に!」
「そうだったね!」
すっかり忘れていた。今、村は大ピンチかもしれないのだ。自分の才能の無さに落ち込んでいる暇はない。俺達はまた、村に向かって走り出した。
「はぁはぁ」
それからしばらく走ると村が見えてきた。
「!!」
「そんな...」
俺とノエルは絶句した。二人が出発する時は明るく、大勢の人が暮らしていた、小さいながらもみんな協力して幸せに暮らしていた俺達の村が今では家屋が倒れ、あちらこちらで火災が起こっている地獄のような場所に変わっていた。
「最悪だ...誰か!生きてるヤツはいるか!」
俺は大声を出して生存者を探す。すると、
「あ...ディ..オ...」
近くの瓦礫の中から声が聞こえた。
「待ってろ!」
俺は声のした所へ駆け寄り瓦礫の撤去をした。
「キアじいさん!!」
瓦礫の中に埋もれていたのは小さい頃から俺に親切にしてくれていた家の近所にすむ老人だった。
「何があったんだ!」
「ファウクーンが...白い、ファウクーンが...」
キアじいさんはなんとか声を絞り出して俺に事情を話した。
「いつもどうりに..過ごしていたら、白..いファウクーン...と普段より凶暴になった魔物が村に...」
さっきのバンサはその中の一匹か!俺が納得していると、
「マティアスが...1人で、戦っている...早く...」
そう言うと、キアじいさんは気を失った。俺はキアじいさんに回復魔法をかけて外傷を治すと、家に向かって走り出した。
「ディオ!」
途中で他の住人の救助をしていたノエルと合流した。ノエルによると、村の奥は更に被害がデカイらしい。
「~~!~~~~!」
家に近い所に来ると何かを叫ぶ声が聞こえた。
「父さん!!」
俺は大声で父親を呼んだ。すると、
「ディオ君!!」
俺に声をかけたのは父さんではなく村の自衛団のメンバーだった。
「父さんはどこに!」
「ここは危険だっ!マティアスさんは私達に任せて君は避難するんだ!」
奥に進もうとする俺を3人がかりでひき止める。すると、
「白いファウクーンによる被害拡大!!もうすぐここも!!」
自衛団の伝令らしき男が駆け寄ってきた。
「―!...退いてくれ!」
俺とノエルは強引に自衛団のメンバーを振り払うと、爆発音のする方へ走っていった。そしてその先には驚愕の景色が広がっていた。
「嘘だろ.....父さん!!!!!」
瓦礫にもたれかかってグッタリとしている父さんに走りよる。
「なんだ...ディオ...来ちまったのか...ノエルちゃんまで連れて来て...」
小さい頃からずっとその背中を見て育ってきた。記憶の中では一度も負けたことのない父さんが白いファウクーンを前に傷だらけになっている。右手を見ると自分の腕から流れる血で真っ赤に染まっていた。近くには今さっきまで握っていたであろう一振りの剣が転がっていた。辺りを見回すと飛び散った血の中に雪のような白い羽根がいくつか落ちていた。
「キュガアアアァ!」
悲鳴にも近いファウクーンの鳴き声が空から響く。
「ディオ...」
父さんが一枚のメモを俺に渡しながら俺に話しかけてきた。
「このメモに書いてある場所に...そこに行けば...いろいろ分かる...」
「じゃあ父さんも一緒に!!」
俺はグッタリとする父さんを肩に背負ってファウクーンから離れようとした。すると、〈ドンッ〉
「え!?」
父さんが俺の背中を押してよろよろと立ち上がった。
「ディオ。父親の最後の晴れ姿だ」
そう言うと父さんは剣を手に取りファウクーンに向かっていった。
「ディオ!」
俺と父さんのやり取りを見ていたノエルが俺に声をかける。
「マティアスさんは私が援護するから!ディオはメモの場所に!」
「でもっ!!」
「良いから!お父さんが命を懸けてるんだから!」
「―!.....分かった!父さんは任せる!!」
俺はノエルと父さんを背にメモに記された場所に向かうのだった。
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