俺、幼なじみに萌える
「行ってきます!」
朝食を食べ終えた俺はノエルとの待ち合わせ場所に向かう。
「本当に1人で大丈夫?ママがついていこうか?」
心配そうに母さんが聞いてくる。確かに精神年齢が20歳ちょいの大人だとしても、見た目はまだまだ小さい子どもなんだから。前の体で出来ていたことが、この体で出来るとは限らないしな。
「大丈夫だよ、母さん。それじゃノエルが待ってるから!」
元気良く俺は家を飛び出す。別にいつもこんなに元気なわけじゃないぞ。今日はノエルと遊べる日なんだから。まぁノエルも俺も小さな子どもだし、遊ぶのは大好きだ。確かノエルと初めて会ったのが4年前か。父さんに連れられて、大きなパーティーに行った時だった。父さんと仲良さそうに話すおっさんの後ろに綺麗な金髪の小さな女の子がいたんだ。そう。その子がノエルだ。俺は前世の経験から友達は多いに越したことはないと思ったので、積極的にノエルに話しかけていった。
「はじめまして。僕の名前はディオ。君の名前は?」
まだ俺は2歳だし普通に話せるほうがおかしい。コレもチートの恩恵だな。周りの大人もビックリしていたし。その子は急に話しかけてきた俺に一瞬ポカンとした表情をうかべてから、
「.の...ノエル」
少し照れながらにそう答えた。ふふっ、その時俺は閃いたね。『これは幼なじみフラグじゃねえか!!』と。
「君何歳?この近くに住んでるの?好きなものは?」
俺はノエルに怒涛の質問ラッシュを始めた。しかしノエルが俺並に話せるハズもなく...
「あ...えと....」
と、呆気にとられてしまっていた。それでも一生懸命に俺の質問に答えようとするノエルが可愛いのなんので。まぁそれから4年経った今も俺とノエルは家族ぐるみの付き合いで遊んでいた。一緒に言葉の勉強をしたり、動物を捕まえに行ったり、いい感じに幼なじみしていた。まぁ何故か俺はいつもノエルに勝てなかったのだけれど。そんなことを思い出しながら走っていると、
「お~い!ディオ~!」
少し遠くから走ってくる俺に向かって手を振ってくる少女がいた。俺にこんなことをするのはアイツ位だ。
「ノエル~!お待たせ~!」
俺はその少女―ノエル―に向かって手を振りかえす。恒例の待ち合わせ場所になっている大きな木の下でいつも俺よりノエルは早く来る。出会った時はあまり上手く話せず、苦い思いをしていたが二人とも、もう6歳になった。ある程度話せるようになったし、運動も少しは出来るようになっていた。
「もう~、遅いよ!」
プゥっと、頬を膨らませながらにノエルが言った。うん、今日も超かわいいな。幼なじみだから、という補正を抜きにしても、間違いなくノエルはかわいい。小さい時から変わらずとても綺麗な金髪、よく外で遊んでいるのにも関わらず透き通るような白い肌。燃えているように赤い深紅の瞳。遊びざかりの子どもとは思えないスラッと伸びた手足。俺にはもったいないくらいの“美”幼なじみだ。
「ごめん、ごめん。でもノエルが早すぎるんだよ」
謝罪と糾弾を同時にする。別に間違った事は言っていない。待ち合わせの時間は午前9時。手元にある懐中時計を確認すると、まだ午前8時だ。待たせては悪いと思ったので一時間も前に着いたのに、遅刻扱いだ。まったく勘弁してほしい。
「だいたい、ノエルは自分勝手過ぎるんだよ。僕の気持ちにもなってよ!」
ちょっとからかっててやろうと考えた俺は思ってもいない言葉を次々にノエルにぶつけていく。
「え...あ...その...」
俺の言葉にどんどんノエルが落ち込んでるのが分かる。そろそろ終わりにしようかな、そう思ったその時、
「ご、ごめんなさぃ」
半べそをかきだしてしまった。どうしよう、ここまでするつもりはなかったんだけど。
「ノ、ノエル。その。そこまで怒ってないからね!泣かないで!ね!」
俺はノエルをなだめる。ところが、
「だってぇ、せっかくディオと遊べると思ったのにぃ」
うえーんと、本格的に泣き出すノエル。しかし、涙の理由がかわいすぎたので本気で罪悪感が芽生えてきたぞ。
「と、とりあえず、行こうか!ね!」
俺はノエルの手をとって森の方へと歩き出す。
「もう、怒って、ない?」
俺にひっぱられながらチラッ、チラッと俺を見ながらノエルが聞いてきた。ヤバい、超かわいい、なにこの天使。
「大丈夫だよ、ノエル!!少しも怒ってないから!ほら!行こ!」
「うん!」
俺の言葉に一瞬で笑顔になるノエル。ほほぅ。幼なじみはこんなにチョロいのか。心の中で黒い笑みを浮かべる俺(25歳)だった。その日は暗くなるまで二人で遊んだ。
それから10年の月日が流れた。
俺ディオ·カーティルは16歳。ノエル·アムレルトは17歳になっていた。俺が見込んでいた通りにノエルは男なら誰もが振り返る、超絶美少女になっていた。俺はと言うと...その特に変化はないな。魔法でも習得してやろうかと思って本を読みあさったりしたけど、一向に俺が魔法を使えるようにはならなかった。その時俺がガチ泣きしそうになったのは特に話すようなことではないので割愛しよう。あぁ、この世界の知識はほとんど記憶したぞ。最近になって父さんの書斎に入る事が許されたんだ。そこに置いてあった本の内容は魔物の種類からこの世界の伝説など、日本からやって来た俺にとっては非常に興味深いもので2.3日書斎にこもってしまった。しかしだ。知識ばかり身に付いていくだけでは実際の戦闘では役に立つことは出来ない。この村にはあまり魔物が近寄らないらしく、俺はまだ1回も遭遇したことはないが、外の世界には魔物がたくさん生息していて冒険者という職業もあるらしいのだ。魔法を使えなくても戦闘は出来るし、将来はこの村を出て冒険者にでもなろうと思っている。
「ほら!ディオ!見て見て!遠くにヤマオオドリが飛んでる!」
ノエルが嬉しそうに俺の手を引く。今日、俺達は遊びに来たのではなく村の仕事である山菜を採りに来ていた。村のみんなも俺とノエルの仲が良いのは知っているので、仕事の時は気を使って同じ仕事にしてくれている。ノエルはこの事知らないけどな。
「どうしたの?」
ぼーっとしていた俺にきずいてノエルが顔を近づけて来た。近い距離になったことで分かる、幼なじみのはっきりとした姿。短かった金髪も、今はもう腰の辺りまで延びていて、まるで妖精のような雰囲気を纏っている。あのまま日本で過ごしていたらこんな幼なじみに出会う事なんて100%なかっただろう。
「ねぇ、ディオ?」
「あぁうん、ごめん。ちょっと考え事してた」
「心配事?早くしないと日がくれちゃうよ?」
今日の仕事は山菜の調達なので特に難しい仕事ではない。最近では魔物に襲われたという報告もでていないしまだ昼過ぎだ。なのになんだろう?あまり心が落ち着かない。変な事でも起こらないといいけど...
ま、そんなに気にする事でもないし、さっさと山菜採って帰りますかね~。
それから俺とノエルはいつもの場所で山菜を結構多めに収穫して帰ろうとしていた。すると、
「~~!~~~~!!」
何やら村の方から騒ぎが聞こえて来た。
「なんだろう?」
ノエルもその騒ぎに気づき、俺に話しかけてくる。
「わかんない。とりあえず早く帰ろう!」
帰りの支度を済ませ山道に戻ったその時!
「グガアアア!!!」
山奥から何かが飛びたった。
「なんだ!」
ギリギリで“何か”をかわした俺はその正体に驚愕した。
「あれは...ファウクーン!?」
ファウクーン。それはこの世界の古典によく登場する、金色の翼を持つ大きな鳥の魔物だ。滅多に人前に姿を現すことがなく、地域によっては神獣とも呼ばれている。しかし、今俺達の前を飛びさって行ったファウクーンは雪のような真っ白な羽をもっていた。ファウクーンが現れた時は世界に吉兆か災いのどちらかが起こる前触れらしい。これも父さんの書斎情報だけどね。ファウクーンの飛んでいったさきには俺達の村がある。さっきからの胸騒ぎはこれだったのか!!
「ノエル!!」
「うん!」
俺達は顔を見合わせると、村に向かって走り出した。
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