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 俺、捕まる!?

 俺はノエル、アイナとの待ち合わせ場所、『冒険詰所』に訪れていた。


「ここが、冒険詰所...」


 建物の外見は町の雰囲気に合わせてあり、和をメインにした感じだ。入り口にはこれといった警備もなく、最初は違う建物に来てしまったのではないかとも思った。


「ディオ~!」


 が、俺が到着したすぐあとにノエル、そしてアイナも到着した。ノエルは服とかを大量に買い込んでいるようで、大きな袋を2つも持っていた。


「アイナはなんか買ったのか?」


 アイナの手には本が一冊あるだけで、ノエルのように大きなものを買っている様子はなかった。


「いえ...この本も町で迷っていたときに綺麗な女性に貰ったもので」

「まさかそのあとずっと迷ってたの?」

「お恥ずかしながら...」


 筋金入りのコミュ障だった。


「そういえば、二人は桜隊を見たか?」

「桜隊...?」

「なにそれ?初めて聞いたよ」

「そうか。いや、俺もさっき教えてもらったんだけどさ―」


 その時、少し離れた場所から叫び声が聞こえてきた。


「大変だー!!森の方から、でっけぇ魔物がぁ!!」


 男は行商人のようで持っていた荷物をぐしゃぐしゃにしながら走ってきた。


「桜隊は!?」「そういや、今は森にでた魔物の退治にいってるはずだ!」「そんな!どうするのよ!」

「冒険者は!?」「駄目だ!冒険者も桜隊と一緒に行っちまってる!」


 行商人の慌て方を見た町人は桜隊、冒険者の不在を知り、混乱は拡大した。


「ディオ!」

「ディオさん!」

「あぁ、取り敢えず行ってみるか!」


 俺は倒れこんでいる行商人に魔物を見た場所を聞き出し、ノエル、アイナとともにその場所に向かった。

 魔物の事は町中に広まっているらしく、あちらこちらで悲鳴や怒鳴り声が聞こえてきた。


「にしても、町の警備まで討伐に連れていくとか、桜隊も結構アホだな」

「ディオさん!それは言い過ぎ...ではないような気もしますが、愚痴は後にしてください!」

「ごめんごめん」


 すると、ドドォンと地震のような震動が伝わってきた。


「近いよ~!気をつけて!」


 次の瞬間、町の門を勢いよく吹き飛ばしながら、巨大な鹿のような魔物が突っ込んできた。

 角はビリビリと電流が流れているようで角に当たった木々が燃えていっている。

 前に戦ったファウクーン程ではないにしろ、油断は出来ない相手だ。


「ノエル!アイナ!あの角は危険だ!慎重に―」


 俺は二人に指示をした。が―


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって、神怒りし風刃を!」


 アイナの風属性の上級魔法が魔物の角を切り落とし―


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって、我が剣に力を宿し、輝く五つの力を授けよ!」


 ノエルの属性を纏った剣が魔物にトドメの一撃をくらわす――瞬殺である。


「やりました」

「やったー!」

「お、おう」


 二人はどうやら魔物を倒したことに喜んでいるようだが、俺としては微塵も喜べない。別に活躍出来なかったからとかいう訳ではない。というかこの二人といる時点で活躍しようとも思えない。俺が気にしているのは嬉しそうに喜んでいる二人の後ろ。一体どんな災害の被害を受けたんだというくらいに大惨事だ。

 アイナの放った魔法は角を切り落としたあともしばらく進み続け、魔物の背後にあった建物を真っ二つにしてしまっている。さらにノエルの斬撃の衝撃波の影響で周囲の建物の窓も割れ、運の悪いところは壁も吹き飛ばされていた。


「あ.....あ.......あ.....」

「ディオどうし....あ...」

「二人とも一体......あぁ....」


 俺の声にならないうめき声にノエルとアイナも背後の惨劇に気づく。


「二人とも...やり過ぎだ...」

「えっと…ごめんなさい」

「すいません...久しぶりに手加減をしなくてもいい相手だったので...」

「いや、アイナは手加減しなよ!!!すごいよこんな惨劇!!!!今までの生涯通してでもみたことねぇよ!!!!!」


 最悪だ....冒険者になるまえに大罪人になってしまう...こんなはずじゃなかったのに...どうしてこうなった。

 静かになり、避難していた町人たちがちらほらと顔を見せ始めた。


「おぉ!魔物が退治されているではないか!...す、凄まじい戦いだったのだな(震え声)」

「ほ、本当ね...凄い戦いだったのね(震え声)」


 おかしいな...感謝されている気が全くしない...

 どうすればいいのだろうか...もしこの光景を魔物討伐から帰ってきた桜隊の連中に目撃されたら冒険者は無理だぞ。


「ディオさん、とりあえずこの場から離れるとしましょう」

「そ、そうだな。ノエル、行くぞ―」


 ノエルにも伝えようとさっきまでノエルが立っていた場所に目をやると


「あれ、いない......あ」


 俺が再びノエルを視界に捉えたのはそれから数秒後、小柄な少女とノエルが話している時だった。


「な、なんという被害...これはお前たちがやったのか?」

「あはは、ゴメンねー!ちょっとやり過ぎちゃった!テヘペロッ」

「そ、そうか...アディ」

「なんだ、ルカ」


 ノエルと少女との会話に黒い服の男が加わる。


「アディ、こいつに詳しく話を聞いてみてくれ」

「御意。失礼する」

「えっ!?ちょっ!ディオ~!」


 わ~わ~とノエルが何か騒いでいる。黒い服の男はそれを気にすることなくあっという間にノエルに縄を巻いた......ん?


「ちょっ!?まっ!?桜隊!?ノエルー!!」

「ディオさん、どうしましょう!?」

「わっかんね!確実にこっちが悪そうだしな!」


 アイナと慌てふためいている間に小柄な少女―ルカ·バルメースが俺達に近づいてきた。


「そちらも、あいつの仲間か?」

「え!?えっと、まぁ」

「そうか。いや、オレは怪しい者じゃない。桜隊の長、ルカ·バルメース。話を聞いても?」

「あ、はい」


 そうして俺達は三人とも桜隊に連れられ当初の目的とは多少...いや、多いに違う形で冒険詰所―ギルドに足を踏み入れた。





「で、どうして私達はこんな厳重に捕らえられているのでしょうか?」


 アイナが鉄格子の向こうにいるルカ·バルメースに問いかけた。


「当たり前だろう。お前たちは桜隊及び冒険者が不在のなか、いくら魔物の討伐に成功したとはいえ町を半壊させた罪人だ」


 俺、ノエル、アイナの三人は桜隊にしっかりと見張られながら、俺の手首ほどの太さの鉄格子で塞がれた牢に入れられていた。


「誤解だ!俺達はただ、この町の冒険詰所(ギルド)で冒険者登録をしようとしていただけで―」

「そう言われてもな。暴れたのが冒険者であったら、あのような被害がでても多少融通がきくのだが、お前らはまだ冒険者ではない。ただの腕っぷしのたつ一般人だ」


 くっそ!マジか!?


「なぁ、どうすればここから出してもらえるんだ?」

「そち達にの完全な無罪が証明されるか、なにかしらの緊急時だな」

「そんな~」


 すると、ルカが何かを思い出したかのように俺に声をかけた。


「そういえば、さっきから詰所の前で狐が鳴いているのだがお前、何か知らんか?」

「あぁ?狐?知らな―」


 ん?狐...


「すんません。俺のです」

「おぉ!そうだったか!あの狐はお前のか!そうか!そうか!」

「...?なんでそんなに嬉しそうなんですか?」

「うん?いやな、普通、ああいう迷い子は冒険詰所が保護するのだ。だから、オレ達は手を出せない。が、収監されているの者の連れであるのなら話は別だ。なぁ、あの狐、触ってもいいか!」

「まぁ、別に良いですけど」


 俺がそう言うとルカは嬉しそうに目を輝かせた。


「あ、でもアイツは普通の動物じゃなくて魔導機なんで―」

「魔導機?なんだそれは」

「え!?知らないんすか」


 いや、まぁ俺も知らなかったけどさ。


「生憎だが私は生まれてこのかた魔法に頼ったことがなくてな。それで、魔導機とはどんなものなのだ?」

「えっと、作った骨格に魔物の心臓をいれて創る、使い魔というか―」


 うぅむ。説明しようにもまだ俺は魔導機―タマモが活躍するところを見ていない。俺達が学校から出たとたんにいつの間にか姿を消していて、俺も今までどこにいたのかは分からない。


「なかなか難しいな...要するに―」

「要するに、この狐はこの青年がつくりだした錻でできた魔獣だ。噛みつきもしないようだから、魔物の本性は薄れているのだろう」


 俺の説明に混乱するルカの背後からタマモを抱えた黒い服の男が現れた。


「おぉ、アディ!連れてきてくれたのか!」

「いや、ギルドから苦情がきてな。仕方なく狐を連れてきたらルカが居ただけだ」

「よいよい!さ、早くソイツをオレに!」

「......分かった」

「では、またあとで!ディオ、せいぜい無罪放免を祈るんだぞ!」


 ルカはタマモを抱えて行ってしまった。この場には俺達三人と黒い服の男だけになった。


「....」


 黒い服の男はルカと違い、俺達を監視するだけで話そうとはしなかった。が、ノエルが口を開いたことでようやく黒い服の男がこちらを見た。


「あのぉ、あなたの名前は何ですか?」

「......私か?」

「あ、はい」

「...本来なら話す義理はないのだが―まぁ、ルカに錻をあたえてくれたしな。私はアディン」

「アディン...さん?」

「あぁ。私はしっかりとした名はないのでな。これはルカが私に授けてくれた名だ」

「そんなに長い付き合いなんですか?」

「まぁ、ルカのことを叱れる程度には、な」


 アディンはそのまましばらくの間ノエルとアイナの質問に答えていた。しかし―


「じゃあ、アディンさん。次の質問ね。アディンさんってどうしてそんな恐いお面被ってるの?」


 ノエルのその質問にアディンの雰囲気が一瞬変わった。


「.....この仮面のことか。これは話せない」


 指で仮面の輪郭をなぞるようにしながらアディンは答えた。


「アディン殿!」


 すると、奥のほうからおそらく桜隊の一人であろう男がアディンのもとに来て耳打ちをした。


「そうか...分かった。ルカは?」

「はい、もう既に向かっております」

「分かった。私も至急向かうと伝えておいてくれ」


 アディンは座っていた椅子から立ち上がった。


「....お前達に良いことを教えてやろう。ルカはそこから出ることは難しいと言っていたが、そうでもない。あと半日もしないうちにお前達はそこからでれるだろう」


 アディンはそういってフッと笑うと暗闇に消えていった。













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