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 俺、到着!和の都市『イストーリアポリス』

「よし、二人とも準備出来たか?」


 寮に置いておいた荷物をまとめて適当な鞄に詰めた。みんなとの挨拶をすませておいたから、すぐに出発することができた。


「うん、出来たよ!」

「はい。バッチリです」

「ロイスさんに聞いた、一番近い都市は―」


 俺は地図をとりだし都市の場所を確認する。ロイスさんは「しばらく歩いたらつくと思うよ」と言っていたが...


「あった、あった。えっと―イストーリアポリス?」

「イストーリアポリス?どうゆうとこ、アイナ?」

「そうですね...私自身が行ったことはないのですが、町全体が雅やかで美しい場所だと聞いたことがありますね」

「確かに、俺も本で読んだことがあるな」

「へぇ~!楽しみだねっ!」

「それじゃ、出発するか」


 クロムフロウ魔法学校の門を出て、道なりに進んでいく。途中までなにも喋らずに来ていたが、ノエルが口を開いた。


「アイナってさ、エルフなんだよね?」

「まぁ、そうですが...」

「じゃあじゃあ、弓矢とかも得意だったりするの?」

「あ、確かにそれは気になるな。俺もエルフは弓が得意と聞いたことがある」


 まぁ、『日本』で、だけど。

 アイナはしばらく、言うかどうか考えるようなそぶりをしたが、はぁ、とため息をついて話し出した。


「...確かにエルフは弓が得意なんですが...その、私はあまり...」

「そーなんだ!練習してなかったの?」

「いや、人並みに練習はしてみたんですが...」

「上手くいかなかったか」

「はい...情けないです...」

「もしかしてアイナ、運動とか苦手?」


 運動大好きなノエルが聞いた。


「まぁ、嫌いなわけではないのですが、はい、苦手ですね」

「でも、アイナは運動しなくても魔法があるしな」

「いっ、いや、その魔法ではどうにもできない事もあると言うか―」


 アイナがオロオロしだした。どうしたというんだ。

 するとノエルがその理由に気づいたようで、ニヤリとした。


「分かったよ~。確かにね~魔法だけで動かないと、太っちゃうもんね~」

「!?ちょっと、ノエル!ディオさんの前で!?」


 アイナの顔が真っ赤になる。あぁ成る程。確かにアイナ、ウエストがかなりスラッとしている。日本だったらモデルをしている、と言われないと逆に違和感があるくらいだ。


「アイナ、なんかやってるのか?」

「ディオさんまで!?」


 アイナのオロオロが激しくなる。顔も面白いくらいに真っ赤だ。


「冗談だって。でもなんか意外だな。アイナもやっぱりそういうのが気になるのか」

「私は、その...逆にディオさんは肥えた女性がお好きなんですか?」


 アイナに言われてぽっちゃりとしたノエルとアイナを想像してみる...割といけ―ないわ。


「ごめん、ちょっと無理」

「なんで謝るんですか!」

「あ、ディオ~!ほら、あれ!」

「ん?...あいつは!?」


 ()スだ...俺とノエルがクロムフロウに向かうときに乗った馬が引くバスサイズの馬車...それが()スだ。

 ちなみに俺とアイナがはじめてあったのもその()スでのことだ。


「どうします?乗りますか?」

「どうしようか...イストーリアポリスまであとどのくらいかわからんしなぁ」

「乗ろうよ~!」


 乗ったあとすぐに目的地についたりしたら嫌だなぁ。()スに乗るのには当たり前だが金がかかる。それがなにげに高い。乗車賃は1人銀貨5枚。日本円で置き換えるとだいたい500円くらいだ。それなりの距離で500円ならお得だが、徒歩数分の場所に500円はもったいないと思う。


「いや、ここは歩こう!」

「え~ディオのけち~」


 ブーブーとノエルが抗議してくる。


「うるさい!ちょっとは経済面考えろ!」

「では、あと少し、頑張りましょうか」


 そのあとも度々通りかかる()スの誘惑と戦いながら20分少々歩いた。

 ここら辺に来てからは通行人や行商人ともすれ違うようになった。そろそろイストーリアポリスが近いのだろうか。


「ディオさん、見えました。あれがイストーリアポリスです」


 アイナが指差す方向には日本の城の城壁みたいな壁に囲われた大きな都市だった。第一印象は『和』。教科書で見た中世の頃の日本にちょっと異世界風味を加えたような都市だった。


「うわーほんとに綺麗だね!」

「ですね。私も聞いたことしかありませんでしたから、まさかこんなに美しいとは思いませんでした」


 ノエルとアイナがまるで芸術品を見たときのような反応をする。確かに教科書で見たものとは全然違い、朱色の柱とか金で作られた像があったりして俺でさえも見いってしまっていた。クロムフロウとは全然違う町並みだ。

 町への門の前で足を止め三人で見いっていると、それを不審に思った門番らしき男が声をかけてきた。


「そこの三人。なんのようだ。入るならさっさと入れ」

「あっすいません。あのここで冒険者になるための登録をできる場所ってどこかわかりますか?」

「冒険者?そんなに若いのにか?」

「はい。どこかわかりますか?」


 門番の男はどうやらそれを信じてくれたようで、地図で丁寧に説明してくれた。


「そりゃ多分『冒険詰所(ギルド)』のことだな」

冒険詰所(ギルド)?」

「あぁ。冒険者に仕事の依頼とか色々やってる。登録も多分そこでできるだろ」

「分かりました。ありがとうございました」


 門番に礼をいってイストーリアポリスの門を潜る。


「それじゃあ、しばらく各自町を見て回るとするか。昼位に冒険詰所で待ち合わせよう」

「りょーかーい!冒険詰所だね!」

「その、私はあまり人混みが―」

「それじゃ、一時解散!」

「ちょっディオさん!」


 アイナの主張も虚しく、俺達は別行動を取ることにした。


「おぉ...!」


 イストーリアポリスはやはり日本の中世の町並みに近い。住人の着ているものこそクロムフロウと同じようなものだが、生活の様子などはやはりそうとしかみえなかった。

 通りには着物のようなものを着た人も何人か歩いている。そして、何よりも俺を驚かせたのは―


「なっ!?あれは...ジャパニーズカタナ!!」


 異世界であるはずのこの世界になんと刀が売られていた。俺はその店に駆け寄り、店主に声をかけた。


「すっすいません!かた―この剣ってここでは一般的なんですか?」

「ん?まぁ、役人のほとんどはそれを使ってるなぁ。でも、そいつぁ刃こぼれしやすくてなぁ。あんまし冒険者にはお勧めできねぇな」


 おぉ...!刃こぼれしやすいところまでしっかり同じだ!くっ!欲しい!すごく欲しい!でも、お金がねぇ!!


「ところで坊主。お前さん、『桜隊(さくらたい)』の許可はとったのか?」


 店主から唐突に発せられた全くもって聞き覚えのない単語に俺は戸惑った。


「『桜隊(さくらたい)』?何ですかそれ?」

「あぁ、そうか。坊主はこの町に来たばっかなんだな。桜隊ってのは―」


 そのとき、いまいる店の二軒隣から怒鳴り声が聞こえてきた。どうやら金銭関係で男二人が揉めているようで、今にも殴りあいを始めてしまいそうな勢いだ。


「おいおい、まずいだろアレは―!」

「大丈夫だ。ちょうどいい、まぁ見てな」


 やけに落ち着いている店主に促され隣の木箱に腰かける。よく見ると他の住人も慌てる様子はなく呆れた顔をしていた。が、その原因である二人は周りの事など気にせずにとうとう片方の男が殴りかかった。

 が―


「そこまでだ。これ以上騒ぎたいならオレが相手になる」


 男の拳は相手に届くことはなく、その代わりに男の首筋には研ぎ澄まされた刃があてられていた。

 そして、同時に〈オレ〉という一人称に似合わず鈴の音のような声を発したのは―


「女かよ―!?」

「驚いたろう。アレが『桜隊』隊長のルカ·バルメースだ」


 刀を構えるその少女は小柄で色鮮やかな着物を纏い、綺麗な黒髪をサイドでまとめていた。どうやら着ている着物は男物のようで細い少女の体にはやや大きいようだった。なにより、とても可愛らしかった。


「この町の警備から、ここいらの魔物の討伐まで幅広く俺たちを助けてくれる自警団―それが『桜隊』だ」


 店主がなぜか誇らしげにそう言った。すると騒ぎを見ていた野次馬たちに亀裂が入った。そしてその先からはコートのような黒地に白い華の刺繍の入った着物を着た、顔の上半分を隠す鬼の仮面を被る男が現れた。


「ルカ。お前まで暴れてどうする」

「そうでだった!にしても相変わらず来るのが遅いな」


 仮面の男はルカ·バルメースに話しかけると、暴れていた二人の男を縄で縛った。


「お前達の罪は軽い。が、取りあえずは詰所で話を聞かせてもらおう。いいな?」

「へ、へい...」


 仮面の男に連れられ男達はふらふらと去っていった。


「分かったか?ここで武具を買うときは桜隊の許可をとることが町の暗黙の決まりだ。じゃないと、もし騒ぎを起こしたときにややこしくなるからな」

「成る程...どこにいったらその許可は貰えるんだ?」

「許可なら冒険詰所で貰える。あそこには桜隊の詰所もあるからな」


 ちょうどいい。どっちにしろその冒険詰所には冒険者登録をしに行くつもりだったし、そこでついでに許可も貰っていけばいいか。あわよくばあのルカ·バルメースとも話せるかもしれない。

 太陽も真上に昇って休むことなく俺達に暑さを提供している。ノエルもアイナもそろそろ冒険詰所に向かう頃だろう。俺も行くとするか。








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