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 俺、合流する

「おーい!」


 先生達と別れてからしばらく走ると、たくさんの避難中の人が列を組んで、外に繋がる門へと向かっていた。そのなかに一際目立つ格好をしたアイツが立っていた。


「カレル!」

「おぉ!ディオじゃねぇか!心配したぜぇ」


 そう言ってバシバシと俺の背中を叩いてくる。いてぇ。


「っと、それより状況は?」

「あぁ、今は無事に避難できた人達を学校の外の安全な場所まで移動させてる。俺の他にも大会に出てた奴等も誘導を手伝ってるし、これといって被害もでてないぜ」

「そうか...アイナは!?」

「んあっ!?あ、あぁ、アイツならほらケイトとあそこに」


 カレルが指差した方に顔を向けると簡易テントのようなものの下でベンチに腰かけるケイトとアイナの姿があった。


「大丈夫か?」


 二人に声をかける。


「ディオ君!心配したんだよ!だいじょぶ?ケガは?」

「ありがとう。取りあえずは心配いらない。それよりも二人とも悪かったな」

「ううん!ディオ君が助けに来てくれたしね」


 そう言って笑うケイト。こういうときにケイトみたいに明るい奴がいてくれると本当に助かる。


「....」


 .....さっきからアイナが黙ったままだ。疲れているのかもしれないが、さっきのこともあったしやはり気になる。


「アイナ―」

「すいません...でした」

「な―」


 突然の謝罪。これにはケイトも驚いているようだ。それもそのはずだ。エルフは本来プライドが高く、他の種族に向かって頭を下げることなど滅多にしない。さらにそれを行ったのが魔法省が確認している、誇り高き最後のエルフ―アイナ·ルフだ。俺も本で読んだことがある程度だから詳しいことはよく知らないが、エルフが頭をさげるのは真に信頼する者か、忠誠を捧げる者だけらしい。


「―アイナ!?ちょっ!?なんで俺に!?頭を上げてくれ!」


 慌ててアイナに促す。アイナはそれから数秒してからゆっくりと頭を上げた。


「ど、どうしたのアイナ?急に」


 ケイトもビックリしながらアイナに話しかけている。


「...今回の事件での負傷者は百人を越えるそうです」


 グッとアイナの手に力が入るのが分かる。


「現にケイトにも、ディオさんにもこんな大怪我を負わせてしまいました」

「...」

「...」


 俺もケイトも黙って話を聞く。


「で、でも、これはアイナのせいじゃないから」


 ケイトがフォローする。


「...ですが、魔族が現れた後の私の行動はとても正気とは―」

「アイナ!!」


 大声を上げた俺にアイナの肩がビクッと震える。


「アイナは悪くない。アイナがいたせいで魔族が現れたんじゃないし、アイナがいたせいで怪我人がでたんじゃない」

「ですがー」

「それに!それに、アイナがいなかったら俺はあの時魔族と戦うなんて出来なかった。アイナがいてくれたから俺は今ここにいることが出来るんだ」


 アイナはうつむき、黙りこんだ。


「ディオさん...」


 しばらくしてアイナが口を開いた。


「私は...私は、仲間達を犠牲にして...1人生き残った意味はあったのでしょうか...」


 そう言う才女(アイナ·ルフ)の瞳は涙で溢れていた。俺には力がない。ノエルのようなセンスも、ロイスさんのような絶対的な力も、ゲルト校長みたいに誰かを守ることの出来る盾も、アイナのような才能も。そんな俺に何が出来るのか。そんなのせいぜい困っている人の隣で一緒に悩んでやれることぐらいだろう。寂しがっている人の傍にいてやることぐらいだろう。俺にはそれが精一杯だ。なら俺はそれを全力でやってやろう。馬鹿にされようが、蔑まれようが、俺がしてやれることに違いはない。


「...あるさ。たとえ千人がそれを否定したとしても、俺が証明してやる。俺にはそんなことしか出来ないしな」


 そう言っておどけてみせる。


「ディオ...さん...」


 俺の名を呟く少女の瞳からは涙がこぼれていた。


「私は...私は...」


 少女から溢れる雫は美しい肌を伝い、ポロポロと落ちていく。


「ま、まぁ兎に角だ。アイナは悪くないんだ。だから泣くなよ。な?」


 なんか俺が泣かせてるみたいで心苦しい。


「はい...そうですね...」


 アイナはくすりと笑うと人差し指で涙を拭った。


「...ありがとうございます。ディオさん」

「良いって」


 二人ともそんな空気にまた笑いあう。


「あの~」


 急に声をかけられた。


「なっ!?ケイト」

「な~んか、二人でいい雰囲気になっちゃってたけど、なんですか?見せつけてんですか?」


 ジト~っとした目付きで俺とアイナを見てくる。しまったな。完璧に存在を忘れてた。


「け、ケイト、落ち着いて下さい。なにもあなたのことを忘れていたなんてことはありませんよ」


 アイナも顔を真っ赤にしながら慌ててケイトに弁明している。なんだ、アイナも忘れてたのか。


「ふん!いいですよ~別に。アタシ、ディオ君に彼女がいるの知ってるんだからね~」

「え?...彼...女?」


 アイナがピクリと動いた。


「おいおい、ケイト彼女って―」

「あらディオ君忘れちゃったの?じゃあ、あそこで君のこと探し回ってる金髪美少女はいったい誰かしらね~」

「なっ!?」


 ケイトが見る場所に俺も目をやった。するとそこには後ろで纏めた綺麗な金髪をブンブンと振り回しながら俺の名前を連呼する女生徒がいた。まぁ思い当たるのは1人しかいない。


「ノエル...」


 なんというか...久しぶりだな...実際にも、話数的にも。そんなことを考えているとどうやら俺に気づいたのかノエルはもうダッシュでこちらに向かってきた。


「ディオ―!!」

「うわっ」


 俺のところに飛び込もうとして来たノエルをさっとかわす。


「うぎゃーーー」


 ガシャーンと派手に音をたてながら転がっていくノエル。 


「よ、よぉ」

「いてててて...ちょっとディオ!避けるなんてひどいじゃない!受け止めてよー」

「ごめんごめん...ちょっと疲れてて。大丈夫か?」

「えっ!うん...ありがとう」


 そう言って静かになるノエル。相変わらずチョロいな。


「うわ~、こりゃ手なずけられてますわ」


 こっちを見ながらほぉ~といった様子でケイトが言ってくる。


「ちょ、おま、別に手なずけてるんじゃねぇし!」


 さっさと否定しておく。


「はいはい、そう言うことにしておいてあげますよ~」


 コイツ...なっ!?さっきからアイナが喋らないなと思ったら、まるで生ゴミを見るような目で俺を見てる!?まずい、このままでは誤解が...!!


「の、ノエル!別に俺はお前を手なずけてる訳じゃ―」

「...ディオにだったら...私、いいよ」


 頬を赤らめながらノエルがいった。かわいいなコノヤロウ!ちくしょう、事態がますますややこしいことに!!!はぁ!?アイナの目が生ゴミから害虫を見るような目にチェンジした!!


「アイナ、違うんだ!これはこいつらがふざけてやってるだけで断じて本気じゃ」

「ディオ...本気じゃなかったの?」

「ごめん、ノエル本気だ!」

「ディオさん...そうですよね..いえ、私の思い込みですし...あはは」

「っ違うんだ!ノエルは仲間であってそんなやましいもんじゃ!」

「ディオ君!私との関係は遊びだったの!」

「ケイト、てめぇは遊びだろ!!ちょっとややこしくなるから黙ってて!!!」

「はーい」


 つ、つかれる...ノエルとアイナだけならともかく、ケイトまでふざけて入って来るからよけいややこしい。


「だから―」


 魔族との激闘を生き抜いたと思ったら、今度は修羅場。もう...いやだ...グスン。


「あ~~~~~~~~!!!!」


 ワイワイと騒ぎつつ、俺たちは避難を進めるのだった。

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