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 俺、魔術戦をする

よろしくお願いいたします^_^

「なめるなよぉ!クソガキィ!!」


 額に筋を浮かべた魔族は俺に向かって黒い炎球を放ってきた。しかし、そんなもの俺には効かない。


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって我を襲う敵意を無に帰せ!」


 白い光を宿した仕込み杖を横に薙ぎ、中指と親指を使い、パチンと音を鳴らす。出現した白い光はそのまま宙に漂うとオーロラのように俺の前に広がった。


「小細工を!!」


 俺の発動させた魔法が無効化魔法と気づいた魔族は黒い炎球に更に魔力を込めた。だが無意味だ。俺の前に広がる白いオーロラは黒い炎球を受け止めてもなお、その白い光を絶やすことはなかった。白いオーロラはそのまま黒い炎球を包み込むと一瞬にして炎球ごと消滅した。


「馬鹿な...てめぇ、何をした」


 魔族はそう言いながら俺を睨んでくる。


「なに、そう大したことじゃない。お前の魔術の構成を読み取ってそれを俺の魔法で相殺してるだけだ」


 そう。今、俺のこの紫色に煌めく瞳には視界に映る全ての魔法の魔術構成―魔法を組み立てているパーツみたいなもの―がハッキリと見えている。当然だがこんな芸当、普段の俺には出来っこない。何しろ俺に魔法の才能は皆無だ。これも全て“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”を使ってアイナから譲り受けている力のお陰だ。そして今の俺にできるのは無効化だけじゃない。


「今度はこっちの番だ!」


 俺は仕込み杖を魔族に向けた。そして詠唱を始める。


「ふんっ!甘いなぁ!!」


 どんな魔術師でも詠唱の際には必ず隙ができる。魔族はそれを狙ったのだろう。しかし、詠唱をせず中指と親指を使い、パチンと音を鳴らす。


「詠唱破棄、狂乱火炎(バーサークフレイム)


 もうスピードで近づいてきた魔族に火属性の上級魔法、狂乱火炎(バーサークフレイム)が放たれる。


「んなっ!?」


 目の前で魔法を放たれた魔族は直撃を喰らった。この狂乱火炎(バーサークフレイム)は放たれた火炎弾に当たった相手の体力、そして魔力さえも焼き尽くしてしまうなかなかエグい魔法だ。もちろん、俺は今はじめてこの魔法を使った。だが不思議なことにとても楽に発動することができた。これも“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”の恩恵だろうか。さっき俺がしてのけたのは詠唱破棄。つまり強力な魔法でも詠唱を途中で止め、即座に魔法を放つことができる。完全詠唱より多少威力は落ちるが今のところ大した問題ではない。これもアイナが習得していた。アイナすげぇー。



「あがああああぁああああぁああ!!!」


 狂乱火炎(バーサークフレイム)の直撃を受けた魔族は火達磨になったまま地上に落ちていった。それにあわせて俺もゆっくりと地面に降りていった。


「あああああ!!!」


 魔族は地面を転がり回って炎を消していた。だがこの炎は普通の炎ではない。水属性の上級魔法、それもかなりの使い手でない限り鎮火は不可能だろう。


「諦めろ。お前の炎は―」


 俺がそう言った時だった。


「もう、ダメじゃない。貴方も九貴族の一人なんだから」


 俺の背後で、艶やかで妖艶な声が聞こえた。次の瞬間、俺の体は水面を叩いた時のような破裂音とともに弾き飛ばされた。


「かはぁっ」


 数十メートル飛ばされた俺は地面を転がりながらようやく体制を立て直した。そして魔族がいた場所に目をやると、


「そんな!?」


 狂乱火炎(バーサークフレイム)を受けた魔族が立ち上がっていた。更にそのとなりを見ると―黒い雪女―そう言い表すのがぴったりな妖しい美女が立っていた。その魔族は俺に気がつくと話しかけてきた。


「あら、まさか君一人でニーネ...この男を倒したの?」

「フィーア!俺は負けて―」

「貴方は黙ってなさい。で?君は何者?」


 ゆっくりと女が近づいてくる。戦闘に持ち込もうかと思ったが“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”の発動出来るのはたったの5分だ。それに男の方との戦いでかなりの時間を使ってしまっている。そんな状態で戦ってもすぐに“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”が終了して殺されるのがオチだろう。どうする!?


「ねぇ、聞こえてる?私こう見えてあんまり待つのは好きじゃないのよね。それが男なら尚更....大っ嫌い!!」


 そう言うと同時に女の魔族は俺に右腕を振るった。その手からは高圧の水の刃が放たれていた。それは物凄い速さで俺に迫ってきた。


「くっそぉ!詠唱破棄!聖円(セイントサークル)!」


 中指と親指を使い、パチンと音を鳴らし、仕込み杖に無効化魔法のせてぶつける。幸いまだ“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”が継続しているのでこの程度の魔法の無力化などたやすい。しかし問題はそこではない。アイナは今戦える状態ではない。ロイスさん、カレル、ケイトも今は避難誘導をしている。残り数秒で“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”も終了してしまう。このままでは俺はなにもできない。


「あらぁ?君...急に魔力が下がったわね。さっきのは偶然だったのかしら」


 女の魔族はニヤリと笑うと俺に歩み寄ってきた。


「ちょっとは楽しませてくれると思ったけれど...とんだ期待はずれだったわ...死になさい」


 女の魔族が右腕を構えた。ここまでか...!!その時



「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって彼の者を守護する石盾を現せ」


 聞き覚えのある声と共に俺と魔族の間に頑丈そうな石製の分厚い壁が生み出された。そして


「ディオから離れろ!!!」


 頭上からチェーンソーのような武器を持ったリオネ先生が飛び降りてきた。


「大丈夫かい」

「ゲルト校長!?」


 声をかけられて後ろを振り向くとゲルト校長が立っていた。


「リオネ君、援護はする。撤退までの時間を稼いでくれ」

「了解だ!」


 ゲルト校長に言われてリオネ先生は駆けていった。


「ありがとうございます、ゲルト校長」

「安心するのはまだ早い。もう少しでロイスも合流する。走れるかいディオ君?」

「なんとか」

「よろしい。ここから少し走ると緊急対策室が用意されている。そこでカレル君たちと合流したまえ」

「分かりました。でも先生達は?」

「ここで魔族を食い止める。君のお陰で一人は虫の息だし、もう片方の魔族も一筋縄ではいかなそうだが、ロイスとリオネ君、私の三人でかかれば問題ではないだろう」

「な、なるほど」

「君はカレル君達と合流したら避難者の警護を頼む。心配するな。アイナ君もすでにそこに向かわせている」

「分かりました。ご武運を」

「ああ」


 俺は背後を先生達に託すと、カレル達のもとに走り出した。




「さて。九貴族の君達がどうしてわが校へ?」


 ディオ君が離脱したのを確認し、魔族に向き直る。虫の息の男の魔族はリオネ君が対応してくれている。私は女の魔族に問いかける。


「へぇ、貴方が例の“若葉の守り手”ね...思ったより若いのね」

「会話が成立していないな。私は君達がどうしてわが校に来たのかと聞いているんだ」


 魔族を睨み付ける。


「あら、怖い。そんなに怖い顔しないでちょうだいな」

「ならば答えてもらおう」

「別に私が来たくて来たんじゃないわ。あそこで戦ってる焦げカスが勝手に行動して、私はその後始末に来ただけ」


 にやつきながら魔族が答える。忌々しい。全くもって忌々しい。


「つまり、危害を加えずに退いてもらえると?」


 魔族を見る。


「んー?最初はそのつもりだったんだけどねぇ...貴方達面白そうだし、ちょっと遊んでいこうかしら♪」


 そう言って笑うと、魔族は背中に生えた蝙蝠のような羽を使い宙に上がった。


「ふふっ...楽しませて頂戴。我ここに命ずる。森羅万象の怒りをもって彼の者を切り裂く雨の刃を!!」


 魔族が詠唱を終えた。ほう...魔法省の報告にあった変わった詠唱とはこいつらのことか...忌々しい、全くもって忌々しい!


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって我を守りし金剛の盾を!」


 私の目の前に金剛石で構成された巨大な盾が出現する。魔族から放たれた水属性の魔法は私の盾によって呆気なく防がれた。


「...っ!...なかなか出来るようね」

「なんだ?今のは失敗じゃなかったのか?私はてっきり桶で水をかけてきたのかと思ったぞ」

「っ!!...ごめんなさいね。私もちょっとおふざけが過ぎたわ。でも、これならどうかしら!!」


 すると私を取り囲むように全方位から先ほどの水属性魔法が放たれた。


「馬鹿の一つ覚え...か。これだから魔族は...」


 詠唱を破棄する。この程度の術にいちいち詠唱するのは時間の無駄というものだ。


大理の護壁(ホーリーウォール)


 私を大理石で構成された石壁が取り囲む。壁に遮られた魔法は大理石を湿らせた程度で消滅した。


「ふん、これならまだわが校の生徒の方が質が良いな」

「なにを...!!!」

「本当の事を言っているだけだ。どうやら魔法の核としているモノが『怒り』などとちゃちなモノだからだろうな」

「貴方、まさか神創魔法を―」


 魔族が後退りしながら私に問いかけてきた。.....そろそろか。


「私の魔法はそんな大層な物じゃない」

「じゃあどうやって―」

「私は今まで“守る”ことを重点に修練を重ねてきた。それだけだ」


 そう言いながら段々と魔族との距離を縮めていく。それと同時にこんな時までマイペースなアイツ(親友)の事も考える。そして、


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって彼の者を閉ざす漆黒の檻を現せ」

「なにっ!?」


 頃合いがあったところで魔族を黒曜石で構成された牢に閉じ込める。


「こんなもので私を閉じ込められると―」

「あまり喋らない方がいい。自分が苦しくなるだけだぞ」

「は?何言って―うっ!」


 牢の中から魔族のうめき声が聞こえる。やっと来たか。


「相変わらず、魔族には容赦ないね灰馬の王子様」

「黙れ。お前には随分と前に呼び出しをかけた筈だが?教師として遅刻はどうなんだ」


 私の唯一無二の親友、ロイス·エルキルトは苦笑いをして肩をすくめる。


「にしてもこの檻の中の魔族、女の人だろ?さすがに中を真空にするのはあんまりじゃないか?」

「だからお前は甘いんだ。魔族に男も女も関係ない」


 そんな事を話していると―


「ぐっ!!」


 ボロボロの魔族と戦っていたはずのリオネ君がこちらに投げ飛ばされてきた。


「先生!」


 ロイスが駆け寄る。すると奥から強烈な殺気が漂ってきた。


「ロイス」

「あぁ。ただ者じゃない」


 そしてその殺気の大本がゆっくりと近づいてきた。


「ほぅ...六席は捕獲されたか...九席は...まぁ、迷惑をかけた」


 落ち着いた雰囲気を纏うこの魔族は私達にそういうと軽く頭を下げた。六席と九席...この二人の序列?そしてこう続けた。


「私としてはこれ以上の損害は出したくない。こちら側の都合で申し訳ないが、そこの二人も我々魔族の中心貴族なのでな。何かと都合が良くない。こちらに渡しては貰えないだろうか」


 そういって右手を差し出してくる。


「もし断る、と言ったら?」


 魔族を睨みながら答える。


「その時は.......いや,流石に“無二”と“若葉の守り手”を同時に相手するとなると厳しいな」

「ならば、諦めて―」

「諦めはせんよ。先ほど言ったように私はこれ以上損害を出したくない」


 そう言うとその魔族は右手を前につき出す...どうやら詠唱を始めたらしい。


「無駄だ。並大抵の魔法では私の守りを破る事は―」


 その時だった。詠唱を終えた魔族が腕をひと振りした。その瞬間、一瞬で私達を真っ黒な霧が取り囲んだ。


「なに!?くっ、ロイス!!」


 姿は見えないがロイスに指示をする。


「あぁ!」


 次の瞬間、ロイスが霧を吹き飛ばした。視界が開けると急いで確保した魔族を確認する。


「...取り返されたか」


 黒い檻があった場所には黒曜石の欠片だけが残されていた。どうやら破壊を試みたものの諦めて檻ごと持ち帰ったらしい。


「ロイス、リオネ君を救護所に」

「了解。ゲルトは?」

「魔法省に報告に行く。しばらく戻ってこれないだろう。それまで頼んだぞ」

「そう言うのって、ウォルに頼んだ方が良いんじゃ」

「できるだけ信用出来る者に託したい。弟を信じていない訳ではないがな」

「分かった。魔族の事は生徒達に話した方がいいか?」

「いや―ディオ君とアイナ君だけで良いだろう。あの二人がもし他の者に話したとしても、それはそれで構わない」


 さて、これから忙しくなりそうだ。



誤字脱字のご指摘お待ちしております♪


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