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 俺、新たな力 ―2

 仕込み杖を手に急いでアイナの所に走る。俺があの場所を離れてから会場全体に響き渡るような爆音がなり続けている。


「ほんとに大丈夫か?」


 思わずそう呟いてしまうほどに激しい振動がこちらまで伝わってきた。


「アイナ!」


 瓦礫の山をなんとか乗り越えてアイナが戦っていた場所に着いた。俺が最初にいたときもかなり建物の損傷が激しかったが今はもはや建物と呼べるのかすら分からないほどの被害が出ていた。そこにアイナと魔族の姿はなくまだ少し離れた所で戦闘音が聞こえた。


「どこまで行ってんだよ!」


 俺はそう呟くとまた走り出した。




「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって彼の者に聖なる光矢を」


 中指と親指を使い、パチンと音を鳴らす。すると右手に魔方陣が現れ、空を飛ぶ魔族に光の矢が放たれる。魔族はそれをいなし、同じく空を駆ける少女に向かって腕を向ける。


「我ここに命ずる。森羅万象の怒りをもって愚者に煉獄の炎の裁きを!」


 魔族の腕から放たれた漆黒の炎は少女を焼き尽くさんと襲いかかる。


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって我を襲う敵意を無に帰せ」


 中指と親指を使い、パチンと音を鳴らす。少女を中心に光の障壁が発生する。


「へぇ...エルフ、お前なかなかやるなぁ」


 魔族が口を開く。


「面白いことがないかと人間の女を忍ばせてはみたが...まさかエルフどもの生き残りに会えるとはなぁ。人間の女の方は全く使えなかったしよぉ、楽しませてくれよぉ」


 魔族は笑いながら話すが少女ーアイナ·ルフは表情を一切変えようとしない。


「おいおい、せっかく会えたんだからよぉ再開を祝って話ぐらいしようぜぇ。それともお前のその長い耳は飾りで俺の声が聞こえてねぇ―」


 魔族がいった瞬間、魔族の頬を研ぎ澄まされた風の刃が裂いた。


「いってぇなぁ...何だよ聞こえてんじゃねぇか」

「...あなたと会話をしたいとは微塵も思いません。ただ―」

「ただ?」

「なぜあの時、私達エルフの里を襲撃したのですか」


 アイナの瞳は真っ直ぐにその魔族に向けられていた。


「あぁん?そんなことが気になるのか」

「はい」

「そうか。でも悪ぃ、どーでもよすぎて忘れちまった」


 その瞬間魔族に向かって巨大な火の玉が放たれた。




「おいおい、何だよあれ!?」


 ようやくアイナに追いついたかとおもったら今度はアイナまで飛んでるし、めちゃくちゃでかい火の玉を撃ちやがった!前にバンサの群れを焼き尽くしたあの魔法とは比べ物にならないデカさと威力だ。アイナ、戦いを終わらせにいきやがった。さすがに魔族でもあれをくらったら...が、しかし―




「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって灼熱業火煉獄の罰を我が敵に与えよ」


 私は目の前にいる魔族に向かって私が発動することのできる最も威力の高い魔法を放った。私は“高貴の衰退(アーン·ティティム)”が起こって、私一人が生き残ってからずっと考えていた。なぜ私だけが生き残ったのか。なぜ私達の里を襲ったのか。もしかしたら、もしかしたら相手にも理由があったのかもしれない。それが仕方ないモノであったなら私の心は、理性は押さえることができたかもしれない。一族の敵討ちを諦めたかもしれない。そんな甘いことを頭のどこかで考えていた。だけど、私のその甘い考えは魔族の答えにうち壊された。許せない。そう思った時にはすでに私は魔族に右腕を向けていた。私の腕から放たれた火球は一直線に魔族に飛んでいき大爆発を起こした。勝った。そう思ったときだった―


「おいおい、いきなりそれはねぇだろ」


 背後で人の心を逆撫でするような憎たらしい声がした。


「なっ―」


 私は咄嗟に後ろを振り向いた。しかし目の前には魔族が詠唱を終え私に魔弾をぶつけようとする姿があった。

 悔しい...悔しい...悔しい、それだけが頭の中に浮かんだ。いや、それだけではなかった。薄れていく意識のなかであの青年の事を思い出す。他人を避けて行動していた私にいつも話しかけてくれていたあの人。私と話す時にとても楽しそうに笑ってくれるあの人。エルフなんて関係ないと笑ってくれたあの人。


「ディオ...さん...もっと...あなたと...」


 自分の体が落ちていく。私は真上に広がる真っ青な空に手を伸ばす。


「......」


 もう声すらも発することができない。屈辱と後悔を感じながら虚空を掴む。すいません、私は一族の敵を―


「アイナーー!!!」

「!!」


 朦朧とする意識の中で私の名前を呼ぶ声が鮮明に響いた。地上に目をやると、ディオさんが杖を手にこちらに走ってきていた。どうやら私を受け止めようとしているらしい。でもディオさんとの距離はかなり離れている。ディオさんの運動神経が良かったとしてもこれでは―



「おらあああぁ!!」


 落下してくるアイナに向かって全速力で走る。アイナが魔法を放った瞬間、魔族が一瞬だけ笑った。次の瞬間、アイナの背後に魔族が移動していた。


「瞬間移動!?」


 マジか!魔族すげぇなとは思っていたけど、実際にこんなの見たら軽く感動すらするな。不謹慎だけどさ。アイナは飛んでいたときの魔法が残っているのか、普通よりゆっくりと落ちている。まぁ、ヤバイことに代わりはないんだけどさ!しかし俺の体はそんなに運動が得意ではないらしく、アイナに追いつくことは絶望的になってきている。


「こうなったら!」


 俺は走りながら両掌を背後に向ける。


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって大気の力を示せ!!」


 後ろに向けて放たれた高出力の空気弾(エアバレット)は近くに散乱していた瓦礫にぶつかり弾けた。


「うおおおおお!」


 空気の爆発に押されて俺は一気に加速した。間に合う!!!俺は自分自身のコントロールが効かないまま腕をひろげ地面すれすれというところでアイナを受け止めた。


「あっぶねっ...ぶっ!!」


 が、そのまま勢いよく数メートル転がってしまった。


「いってぇ...アイナ、大丈夫か!?」


 ゆっくりと体を起こした俺は何とかカバーしたアイナに目をやった。


「えぇ...まぁ、おかげで...」


 笑顔を作りながらそう言うアイナ。しかしその体には魔族との戦いでいくつもの傷がついていた。


「アイナ、ちょっと質問いいか?」

「え?あ、はい」


 さっきから魔族は姿を見せていない。俺たちを見失ったか、わざとか。どちらかはわからないがずっと気になっていたことを聞くなら今しかないだろう。


「アイナ、お前がエルフの最後の生き残りで一族の敵をうちたいって気持ちは俺もよぉく分かる。だけど、そんなに自分を犠牲にしてまで...」


 俺の言葉にアイナは一瞬顔を曇らせたが顔をあげると口を開いた。


「私は確かに一族の敵をうちたいと思っています。ですが一番の要因は...兄様について調べるため、でしょうか」

「へぇ、アイナお兄さんがいたんだ」

「はい。最後に顔を見たのは、もうずいぶん昔になりますが」

「どういうこと?」

「私の兄様は里の中で最も優秀な魔導士でした。兄様は幼い頃から大勢の大人から期待を向けられていました。そんな兄様が更なる鍛練のために入学したのがこのクロムフロウ魔法学校です」


 そうなのか。まさかアイナのお兄さんもこの学校を出ていたなんて。

「でも、兄様がこの学校を卒業することはありませんでした」

「それって、どういう...」

「突然の失踪―ですが兄様はこの学校で不自由なく生活していました。兄様は人柄もよかったですし他人からいじめを受けるような人でもありません。ある日、しばらくしたら手紙を送る。そう言って里をでたきりになってしまいました。兄様を見たのはそれが最後です」


 そうだったのか...アイナの話によるといい人だったらしいし自分に非があっての失踪って訳でもなさそうだな。


「そうか。それじゃあアイナはその謎を調べにこの学校に?」

「はい。どうも一族が虐殺されたのと関わりがあるような気がして...ですがこの三年間全く手がかりは見つからずじまいに」


 その時、


「おいおい、お前らぁ!話が長ぇんだよぉ!」


 派手に瓦礫を吹き飛ばしながら魔族が飛び出てきた。


「くっ!」


 アイナは咄嗟に右腕を構えるがその腕からは魔法が放たれることはなかった。


「っ...!」

「アイナ!お前腕が!?」


 アイナの腕は魔法の連発のしすぎか、魔族との戦闘のせいか、血だらけになっていた。


「大丈夫か?」

「大丈夫...ではないです」


 悔しそうに顔を歪める。こうなったら...


「俺がいく」

「そんな無茶です!私でも敵わなかったのに!」

「大丈夫」


 だって俺は―


「運はいい方だから」



 勝率ははっきりいってほとんどない。“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”が発動すればあの魔族とギリギリ戦えるだろう。発動しなかったときは...考えないようにしよう。


「すぅーはぁぁ―」


 ゆっくりと深呼吸をする。


「あぁん?なんだ?今度はてめぇが相手か?」


 俺に気づいた魔族が睨んでくる。


「あぁ。覚悟しろよ」


 相手に気押されないように俺も軽口を叩く。


「ぎゃはははは!!!まったくよぉたまにいるんだよ、お前みたいに威勢だけはいいやつがよぉ。でもよぉ、そうやつほど雑魚しかいねぇ」

「しってるか?世の中って意外と知らないことの方が多いんだぜ」


 仕込み杖を構えてゆっくりと詠唱を開始する。


「“記憶の奇跡(メモリアル·テラス)”発動!」


 唱えた瞬間俺の周りの空気が揺らぎ、全身に力が湧いてくるてくるのがわかった。よし、成功だ。あとは―後ろで壁にもたれかかっているアイナに声をかける。


「アイナ、俺は一人じゃ何もできない。だからお前の力を貸してくれないか?」


 アイナはしばらく不思議そうに俺のことを見つめていたが、すぐにこう言った。


「私に何ができるのかわかりませんが...ディオさん、貴方になら安心して託すことができます」


 そう言って俺に笑いかけた。


「ありがとう。心配するな。死ぬことはないさ」


 俺は再び魔族に向き直った。俺の瞳がアイナの持つ澄んだ紫色に染まる。中指と親指を使い、パチンと音を鳴らす。


「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって灼熱業火煉獄の罰を我が敵に与えよ」


 左腕に握る仕込み杖からアイナの放った魔法と同じ、否、何倍もの火力、速さをもった火球が魔族に襲いかかった。


「んだとぉっ!!」


 魔族はかろうじて瞬間移動を使い火球をかわした。行き場をなくした火球は魔族の背後に建っていた学校の施設を巻き込み大爆発を起こした。


「おいおい...何者だぁアイツ...」


 目の前で起こった出来事に驚きつつ魔族は俺に目をやった。そんな魔族に俺は言う。


「悪いが――あと三分以内に終わらせるぞ。覚悟はいいか、コウモリ野郎」

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