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 俺、異世界に立つ

 俺の名前は坂村龍也。今年から大学に入学する予定だった。まぁ過去形から分かると思うが、残念な事に俺の入学は叶わなかった。別に問題を起こしたとか言う訳じゃない。確かあれは...そう。合格発表の帰りだったんだ。俺は両親が小さい頃に他界していて、親戚の家で暮らしていた。その親戚とはあまり仲はよくなかったし、早く1人暮らしをしたかったってのも大学に行きたかった理由だ。それでだ。俺は無事合格。コレで1人暮らしを始められる。テンションはMAX。それがいけなかった。


「ふんふ~ん」


 鼻歌混じりに道路を渡ろうとしたその時だった。居眠り運転のトラックが俺に向かって突っ込んで来たんだ。俺は何を考えていたのか、トラックとは反対に走って逃げたんだ。人間とトラック。勝てるはずもなく。

 〈ガッシャーン!!〉

 と盛大にトラックと一緒に建物に体当たりをしたのだった。と、普通ならここで終わるはずなんだよ。だけど、どうも俺は様子がおかしかった。痛みを堪えながら瞑っていた目を開ける。するとそこには何もない真っ白の空間が広がっていた。


「ん?ここは...どこだ?」


 そこは一面が真っ白い部屋だった。どこまで広いのかは白いせいか全く分からなかった。小部屋にも感じたし、どこまでも続いているようにも感じた。そんなことを考えていると目の前の空間に縦長の人が通れるくらいのドアがあった。そして、そのドアノブが〈ガチャリ〉と回った。


「あ、どーも」

「え!?あ、はい」


 ドアの向こうから出てきたのは灰色のワンピースを着た俺と同じくらいの歳の長髪の女性だった。


「すみません。ビックリしましたよね」

「まぁ...あの、どちら様ですか?というかここは...?」


 俺の問いに女性ははっとすると、


「すみません、そうでした。私は、その、人では無いことは確かなんですが、かなり特殊な存在でして...」

「あ、じゃあここが何なのかだけでいいです」

「心遣いに感謝します。ここは不遇な死を遂げた者の魂がやって来る場所です」

「やっぱり俺死んだんだ...」

「はい。ですが先ほども申し上げた様にここに来るのは不遇の死を遂げた魂。その魂には特別に転生する場所を選ぶ権利が与えられます」

「転生!?」


 転生って生まれ変わることだよな。つまり生まれ変わる場所を選べるのか。マジで?俺はチラリと女性に目をやる。女性はどこから出てきたのか分からない大きな鏡で身だしなみをチェックしていた。


「あの、転生出来る場所って、日本だけですか?」

「いえいえ、別に日本じゃなくて他の国でも構いませんよ。なんなら他の世界でも」

「他の世界!?」


 他の世界―つまり異世界!!転生すれば無条件にモテるとかいうあの、異世界に!?


「いや、まぁ、流石に異世界とかは冗談―」

「異世界でお願いします!!!」

「話を聞いてくださいよ!?」

「じゃ、聞きますけど。そもそも自分はなんで死んだんですか!?」

「それは...その...私が刈り取る魂を間違えたからです」

「えぇ!?そうなの!?」

「言わなければ良かったー!!!!!」

「じゃあ、なおさら責任とって多少の無理して下さいよ!」

「ちょ!確かに私の責任ですけど、人を違う世界に転生させるのって結構、神様たちに喧嘩売ってるんですよ!?その世界の神様とも色々あるし...私、役職上、交渉とかそういうの苦手なんですよ~!」

「知らん。頑張れ」

「うわあああぁぁぁん」


 そう言いながら女性は現れたドアに消えていった。...どうすればいいんだ。ここ何もないしなぁ...そういえばあの女の人が座ってた辺りに...あったあった。お茶セットと茶菓子。もう一度あの人が現れるまで、ゆっくりさせてもらうか。

 ―それからしばらくして。


 〈ガチャン〉


 ドアの開く音がした。


「お?お帰り~...って、どうしたん!?」

「どうしたん?じゃ、ないですよ!あなたが異世界に行きたいって言ったんでしょう!」


 女性の服には返り血らしきものがはっきりと付いていた。


「一体何をしてきたんだ...」

「詳しくは言えませんが、私が担当の世界が増えて、宗教がいくつか消えてしまうようなことを...はぁ」

「なんか、ゴメン」

「いえ...もう今さら後戻りは出来ませんし...」


 そう言って女性は持っていたレストランとかで見るメニュー表みたいなのを開いた。そこには旅行雑誌のようにその世界の写真と情報が載っているらしい。


「...どこがいいですか?」

「どこと言われてもなぁ...ここは?」


 ページの1つを指差す。


「えぇと...そこは『ヘルシャフト』という世界ですね。全ての国家が絶対王政で下手をすれば貴族でも奴隷にされます」

「嫌すぎる!?...じゃ、ここは?」

「どれどれ...そこは『マオス』という世界です。政治も安定していて、いいんじゃないですか?」

「...じゃあ、ここに―」

「ただし、その世界の住民は例外なく変な臭いがします」

「もっと早く言え!!なんだその地味に嫌なポイント!?」


 マトモな世界はないのか!?


「...ここは?」

「この世界は私が前に担当していた世界ですね。たしか―『ニーファフト』」

「...どんな世界なんだ?」

「えぇと...人間と魔物に...少しですけどエルフとかの亜人もいて...あ、魔法とかもありますね」

「最初からそれださんかい!!」

「いや、ここは普通すぎたかなと」

「なにその気遣い!いらねぇよ!」

「...じゃあ、ここにします?」

「あぁ。お願いします。それで―」

「まだなんかあるんですかー?」


 ダルそうに俺を見る女。


「誰のせいで俺は死んだん―」

「分かりました!今度は何を言い出すんですか?」

「チートくれ」

「やです」

「チートくれ」

「やです」

「...............」

「やです」

「...............」

「...分かりましたよ!もう!ちょっと待ってて下さいよ!」


 女は再びドアに消えた。そして数分後。〈ガチャン〉―ドアが開いた。再び返り血付きだ。


「今度は何を?」

「あなたの国の三大宗教が二大宗教に改められると思います」

「おっふ...」

「で、どんなチートが欲しいんですか?12秒以内に決めて下さいよ」

「中途半端!?」

「じゅー」

「2秒はやっ!ちょっ、待っ!」


 考えろ!何が大事だ!?...情報!知識!


「きゅー」


 ということは記憶力の向上!


「女ぁ!記憶力を上げてくれ!」

「おんっ!?...記憶力限界突破ですね。残り1つです。はーち」


 冷静になれ!ここが重要だ!異世界....最強...能力...はっ!万能!!


「じゃあ、最後のチートは―」


 俺がそう言おうとした、その時。どこかから現れた一匹のハエが俺の鼻に...


「全部の...は..は..うぇんっくしょい!!」


 しまった。


「うぇ、うぇんくしょい?...あぁ、運勢ですね。全運勢限界突破しました」

「いや、ちが―」

「すいません、私そろそろあがる時間なんで...」

「あがる!?お前、バイトかよ!!!」

「それじゃ、一応、見てるし、応援してますよ。それでは―」


 女は俺の目の前に手を翳した。


「汝に与えられしは、再度の生。汝に誇りと栄光あれ―」


 その言葉を聞き取ると同時に、俺の意識は深い何処かへ沈んでいった。






「....うぇ?だびょだ、もも(ん?どこだ、ここ)


 俺は目を覚ました。辺りを見渡すと、薄いピンク色の壁で周りを囲われていた。そして、


「喋った!喋ったわ!あなた!!」


 俺の事を上から見つめる若い女性がいた。


(この人、喋った程度で何を驚いて...)


 そんなことを考えながら俺は自分の身体を見下ろした。あれ?俺ってこんなに身長低かったっけ?


(こ、これはまさか!?)


 そう。あの女は転生させると言っていた。だから俺は今この家の息子として生まれて来たんだ。


「ほんとか、メルヤ!?」


 奥の方からドタドタと大柄な男が部屋に入って来る。


「えぇ!今確かにママって!」


 言ってないけどな。まぁ愛しい赤ちゃんが喋ったら勘違いも仕方ないか。うおっ、大柄な男に持ち上げられたぞ。状況から考えるにこの人が俺の父親か。ゴツいな。きっと冒険者とかしてるんだろうな。いいぞ、いい感じで転生してるんじゃないか、これは。

 〈トントン〉

 父親の入って来たドアがノックされる。


「失礼します。マティアス様、お仕事の依頼でございます」

「あぁ」


 そのドアから使用人らしき老人がマティアスに声をかけた。


「じゃあメルヤ、行ってくる」

「はい、お気を付けて」


 軽くくちずけを交わし部屋から出ていく父親。一体どんな仕事何だ?....あぁ、瞼が重く...眠....。

 俺は深い意識の奥に落ちていった。




 それから6年の月日が経った。


「ん..う..ん」


 微かに外から聞こえる鳥のさえずりで目を覚ます。といっても外にいるのは鳥ではないのだけれど。


「ディオ~起きて~」


 一階から母さんの声が聞こえてくる。俺はディオ·カーティルとなずけられた。さすがに前のようにとはいかないけど、ソコソコ上手く話すことも出来るようになっていた。俺は自分の部屋のタンスから着替えを取りだし、ちゃちゃっと着替える。この歳でここまで手の掛からない子どもはいないんじゃなかろうか。などと心の中で自画自賛しつつ一階へと向かう。


「おぉディオ。おはよう」

「おはよ、父さん」


 階段で父さんに挨拶をする。最近分かったんだけど、いつも真夜中に仕事に出かけて、朝には家に帰ってきている。なんの仕事なのかさっぱり検討がつかない。父さんの部屋には絶対に入っては行けないと言われているし、うーん...。


「おはよう、ディオ。今日はノエルちゃんと遊ぶんだっけ?」


 食卓につくと母さんが朝食を作りながら聞いてくる。


「うん。朝ご飯を食べたら行くよ」


 そう。今日は家の向かいに住んでいる幼なじみの女の子、ノエルと遊ぶ日なのだ。ノエルとはもともと親同士が知り合いだった関係でパーティーなどでたまに会う程度だった。初めて会ったのが2歳の時だったからもうかれこれ4年の付き合いになる。まぁ俺がこんなに記憶力が良いのは、神様に貰った2つのチートの中で唯一しっかりとした効果を発揮している、記憶力限界突破のおかげだ。この世界の地理、歴史、言語をたった2歳で覚える事が出来た。だけどもう1つの全運勢限界突破がいまいちよく分からない。まだあまり運勢が関わる状況に遭遇してないからだろうけど、ほぼ意味のない能力だと考えていいと思う。くっそ~、あの時にくしゃみさえしなければ...今更ながら後悔する。


「はい、召し上がれ」


 母さんが朝食を運んできた。これは...目玉焼き..か?確か俺の知ってる目玉焼きは真ん中が黄色だったと思うんだけど..


「母さん、これ何?」


 気になったので母さんに聞いてみる。


「あぁ、それはお父さんがとってきたヤマオオドリの卵を使った目玉焼きよ」


 ノリノリで母さんが答える。ヤマオオドリというのは、標高の高い山に生息する、大きな赤い鳥だ。非常に獰猛な性格で近づいた者すべてに高熱の炎を浴びせるらしい。そんな化け物の卵をとってくるって...ますます父さんの仕事が分からなくなってきたぞ。それより気になるのは目玉焼きの黄身である部分だ。真っ赤なんですけど。食べれるのかな、コレ?えぇい物は試しだ!俺はがぶっと目玉焼きにかぶりついた。


「か、かぁぁらぁぁいぃぃぃぃぃぃ!!!」


 なんだコレ!?めっちゃ辛いんですけど!何で母さんは俺がコレを食えると思ったのだろうか!?殺す気か!?


「うん、やっぱり母さんの作る飯はウマイな!」


 上機嫌で激辛目玉焼きをほおばる父さん。俺はこの時、絶対に父さんには敵わないだろうなと確信したのであった。








誤字脱字のご指摘お待ちしております♪

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