俺、以外と戦える!?
体育館の特設特訓スペースに来て数分後、俺とカレルは早速組み手をとることにした。演習用の武器を手に円形の場所で模擬戦を行う。
「ディオ、お前はどんな武器を使うんだ?」
俺が演習用の武器を選んでいるとカレルが話しかけてきた。
「俺か?えっと...多分、剣になると思うんだけどな...」
そう。俺の使っている武器は父さんが知人の鍛冶師に製作してもらったオーダーメイドの仕込み杖だ。ロイスさんの家に暮らしていたときに一回ノエルにも使わせてみたが、意外とクセがあって扱いにくいらしい。実際、俺以外にこんな武器をつかっているヤツはまだ見たことがないし、そもそもこの世界に仕込み杖という時代劇みたいな武器があるのかすら怪しい。そんな武器が学校の演習用武器として置いてあるはずがなく...。
「そういえばカレル、お前は得物は何なんだ?」
「俺か?俺はなぁ...」
そう言ってカレルが取り出したのは槍...にしては穂先の派手な物だった。
「槍か?」
「似たような物だけど、違うな。これはハルバードっていって槍から派生した武器だ」
「なるほど。そう言えばそんな武器もあったな」
ハルバード...確か槍のような穂先、斧、カギ状の突出物を持つ長柄の武器だった筈だ。『刺す』『斬る』『引っかける』とか色々な機能を備えていた事から長柄武器の完成形といわれ俺がいた世界でも使っている国もあった気がする。この知識は元の世界で身につけたものだが記憶力限界突破を手に入れてからは前世であやふやだった記憶もこの通り鮮明に思い出せるようになった。
「それを使うのか?」
「おうよ!本番では俺が自分で造ったハルバードを使うけどな!」
「ん?本番は自前の武器を使って良いのか?」
ここで組み手をしている奴らはみんな演習用の武器を使用しているが...
「あぁ、まだ説明してなかったな。別に特訓の時の模擬戦には演習用のヤツを使わないといけないとかいう決まりはねぇんだよ。本番では大抵の奴が自前の武器だぜ」
「へぇ。またなんで?」
「ほら、あれだよ。武道の部に出るヤツってほとんどの兵器科の連中なんだ。だから自分で造った仕掛け付きの武器を本番では使うんだ。だから特訓の時にそれがバレて対策をとられたりしたら困るだろ」
なるほど。確かにそれじゃあタネが分かってるマジックを見ているようなもんだしな。
「だからディオも本番まで自分の武器は見せない方が良いぜ」
「わかった。じゃあ俺は...無難に剣にでもしておくか」
「よっしゃ!それじゃ始めようぜ!」
そう言ってカレルは円形のフィールドに入っていった。俺もそれに続きフィールドに入る。すると身体に一瞬、ビリッと電流が流れるような痛みが走る。
「はは、びっくりしたか?それがダメージを軽減する魔法だ」
そう言うとカレルも少し痛みを堪えるような顔をした。そしてハルバードを構えると、
「これで準備完了だ。行くぜ!」
俺に向かって突進してきた。
「あっぶね!」
俺はそれをギリギリでかわすと体制を立て直す。
「避けたか!やるなぁ、ディオ!」
「今度はこっちの番だ!!」
俺は剣を構えるとカレルとの間合いを詰めていった。しかし―
「させねぇよ!」
カレルは近づいてくる俺に合わせてハルバードを横に一振りした。
「な!?」
間合いを詰めることに専念していた俺は反応が遅れて腹部に直接もらってしまった。すると頭の中に耐久が7割をきったイメージが浮かぶ。くそっ!槍のようなリーチのある武器と剣のようなリーチの短い武器とじゃ相性が悪すぎる!
「くそっ!」
俺は再度剣を構えるとカレルとの間合いを詰めた。
「そらそらぁ!」
その間もカレルからの刺突は止むことがなく、俺の耐久は次第に減りつずけていった。
「ディオに一発逆転のヒントをやろう。この耐久魔法、攻撃を受けた箇所の身代わりになっているだけで別にどこに当てても同じダメージってわけじゃない。胸を貫けば、首筋を切り裂けば、みたいな感じで一発逆転できる攻撃は山ほどあるんだぜ」
「それを先にいえよ!!」
「悪い、俺も今思い出した」
笑いながらカレルが言った。
「でも、それを教えたこと後悔させてやるぜ!」
俺は剣を逆手に持ちかえると意識を集中し、カレルに向かって走り出した。
「ふんっ!また同じ攻撃か!!」
そう言ってカレルも迎撃の構えをとった。俺はカレルから放たれる刺突を全て紙一重でかわしていった。
「な!どうやって!?」
カレルは攻撃を全てかわした俺に驚くが、咄嗟に攻撃方法を斬撃に切り替えて俺に迫ってきた。しかし―
「おせぇ!」
俺は剣の腹を使いハルバードの刃を受け流すと、そのまま一気に剣の刃をカレルの首に持っていった。
「がはぁ!」
次の瞬間、カレルにかけられていた魔法が弾けとんだ。
「かぁー!強ぇな!ディオ!」
模擬戦を終えた俺達は近くにあったベンチで飲み物を片手に休憩をとっていた。
「まぁな。運が良かったってのもあるけど」
実際、最後のカレルの刺突を紙一重でかわせたのも神様に貰っていたチートのおかげらしい。最近分かったことだが、この全運勢限界突破は主に戦闘面で役に立つ代物っぽい。さっきみたいな攻撃をかわすのはもちろん、適当な攻撃が上手いこと相手の弱点に入ってくれたりする。といっても“全”運勢限界突破なのでもちろん不運も限界突破している。馬スでバンサの襲撃を受けた時に“記憶の奇跡”が発動出来なかったのもクールタイムだった訳じゃなく、ただ単に発動に失敗しただけのようだ。幸い、いつも不運が限界突破しているわけではなさそうだが、肝心な時に失敗しないように気をつけないとな。まぁ運だから自分でどうこうできる話じゃないけど。そんなことを俺が考えていると、
「よっし!ディオ、休憩終わりだ!」
「もう!?」
「たりめーだろ!本番まであと1週間きってんだからよ!特訓あるのみだぜ!」
「お、おう」
カレルに引きずられるようにして俺は円形フィールドに入っていくのだった。
組み手をとっては少し休憩、それを何度も繰り返しながらやっているうちにもう空はオレンジ色になっていた。カレルは疲れきってもう先に帰ってしまった。
「....1人で帰るのも何だし魔導の部でもよっていくか」
魔導の部の特訓場所は武道の部の特訓場所と壁で隔てた隣にある。2つの部が干渉しないようにその壁はとても分厚く、ロイスさんが直々に強化魔法と振動や音を遮断する魔法をかけているらしい。そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか魔導の部の場所に着いていた。確かケイトもここで特訓してたらしいけど...お、いたいた。今も誰かと組み手?をとってるみたいだ。折角だし見学していくか。
「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって我が敵に雷の制裁を!」
近くまで行くとケイトが唱えている魔法が聞こえてきた。この魔法は確か雷属性の中級魔法で指定した相手に真上から高電圧の雷が落ちてくるかなり威力の高い魔法だ。この世界の住民には人によって生まれつき使用できる属性が1つ決まっている。この感じだとケイトは雷属性っぽいな。ちなみにノエルは例外だ。ロイスさんも言っていたがノエルの五属性を使うことのできる力はほぼ奇跡らしい。でも小さい頃に中途半端に習得してしまったから全て初級魔法までしか使うことが出来ない。まぁノエルはそこを剣術で補っているんだけどな。ケイトの放った雷撃が対戦相手を襲う。おいおいやり過ぎじゃないか!?そう思って対戦相手を見てみると―
「アイナ!?」
そう。ケイトと対戦していたのはあのアイナだった。
「おい、ケイトやめ―」
慌てて俺はケイトを止めにいった。しかし、
「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって我を襲う敵意を無に帰せ」
アイナが魔法を唱え、中指と親指を使いパチンと音を鳴らす。するとアイナの目前まで迫っていた雷が何事もなかったかのように消え去った。あの魔法は確か無属性の上級魔法で、ある程度の魔法なら無効化することができたはずだ。
「うわっ!ディオ君、いつの間に!」
「......!」
ゆっくり近づいて来た俺にケイトとアイナが気付く。
「よ、よう」
「あっはっは!なに?ディオ君ってばアイナが心配で思わず来ちゃったの?」
「な!?んな訳あるかっ!」
あのあとケイトとアイナは対戦を中止して俺と話していた。
「私なんかの攻撃でアイナが倒せるわけないのに~」
笑いながらケイトが言う。
「アイナってそんなに魔法得意なのか....」
「.....一応、全属性の上級魔法までは」
「それってめっちゃスゴいよな、やっぱり」
全属性の上級魔法を扱えるって相当凄いことだ。1つの属性の上級魔法を使えるだけでも国から重宝されるレベルだ。さすがエルフといったところか。そう思って俺が関心していると、ケイトが口を挟んできた。
「ふっふっふ~。ディオ君、アイナに驚くのはまだまだ早いよ。なんてったってアイナは属性を組み合わせて新しい属性を創っちゃったんだから!」
「新しい属性?どゆこと?」
俺がポカーンとアイナに顔を向けると、
「.....えっと、組み合わせるというよりは応用を効かせるという表現のほうが正しいです......水と雷、風の属性を混ぜて嵐のような属性を創る、みたいな」
すげえーーー!!っていうかそういうことって転生者である俺が現代の知識を活かしてやることじゃないの!?
「そ、その嵐属性はなにか特性があるの?」
おどおどしながら俺が尋ねる。特性というのはそれぞれの属性に付与されている専用効果みたいなものだ。火属性だったら熱と融解、無属性だったら大気と還元みたいな。
「......まだ詳しいことはわかっていませんが、水の吸収、雷の分解、風の加速が混ざった嵐の怒涛という特性を持っていると思われます」
「へ、へぇ~」
思った以上に難しいことになってるな。ここら辺は理科とか科学っぽいな。特性を全部記憶することができているのが救いか。
「そう言えば、二人はあんまり話さないんじゃなかったのか?」
「あぁ、前にそんな話したわね」
ケイトが答える。
「確かにあまり話しはないけど、一応幼なじみだしね。話さないだけでしっかり友達だよ!」
「......ええ」
コクリと小さくアイナも頷く。それを見てふふっと微笑むケイト。本当に仲が良いようだ。
「というか二人ともいつ帰るんだ?」
「え?」
「....?」
二人揃って不思議そうな顔をする。
「いや、俺もさっき気付いたけど話してるうちにもう就寝時間ギリギリなんだよな。俺の部屋は近いからいいけど、確か二人の部屋は―」
「ディオ君バイバイお休み!」
「お休みなさい」
俺がいい終える前にバタバタと走り去ってしまった。
「........帰るか」
体育館の特設特訓場に1人おいてけぼりにされた俺は肩や首を伸ばしつつ自分の寮に帰るのだった。
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