俺、別にどっちでもいいんだけど
よろしくお願いいたします^_^
「まず君たちは神創魔法がどういうものか知っているかい?」
ロイスさんは席に座ると、俺達にそう問いかけた。
「前にロイスさんに教えて貰ったことなら」
「私は本で少し読んだ程度です」
「全く知らないぜ」
ロイスさんの質問に三者三様の答えで返す。
「あはは、つまり三人ともほとんど知らないと」
「まぁそういう事みたいです」
苦笑いしながらケイトが答える。カレルはさっきから部屋の中をキョロキョロと見回していた。ちゃんと話を聞けと。
「おい、カレル。しっかり聞いとけよ!」
肘でカレルをつつきながら小声で注意する。しかしカレルは、
「なぁ、ディオ。さっきからなんか変じゃねぇか?」
と、相変わらずキョロキョロしながらこたえた。
「変って何が?」
「分っかんねぇけど、なんつうか、落ち着かないっていうか」
一体どうしたと言うんだ。カレルが落ち着きがないのはこれまで一緒にいて分かってはいたが今は特に落ち着きがないな...するとカレルが急にハッと目を見開き、部屋の角を指差した。
「ロイス先生!!部屋の隅!!」
カレルが指差す先には金属で出来た蜘蛛のような魔導機がいた。
「くそっ!空気弾!!」
ロイス先生はそれに気付くとすぐさまお得意の空気弾を蜘蛛型魔導機に放った。空気弾を受けた蜘蛛型魔導機は気圧に押し潰されてぺちゃんこになってしまった。
「ロイス先生、これは...」
ケイトが怯えながら口を開いた。ロイスさんは潰れた蜘蛛型魔導機を拾い上げてこう言った。
「蜘蛛型の魔導機の主な使用手段は2つ。1つは狭い場所での作業。もう1つは諜報、つまり盗み聞きだよ」
「!?」
ケイトが分かりやすく驚いた。
「そんなに凄いことなのか?」
カレルがケイトに聞く。
「いえ、蜘蛛型がよくそういう事に使われるのは知ってたけど、何より―」
「この僕の部屋に侵入することが出来た。それがこの蜘蛛型の凄いところだ」
途切れ途切れで言葉を繋げるケイトに変わりロイスさんが説明を続ける。
「この部屋はもともと魔導機を保管したりするときに使われていたんだ。だから魔導機を操る魔力を遮断する特殊な材質で建てられている。それに僕が使うようになってからは更に僕が効力を上方修正した。つまりー」
「並みの魔導機がこの部屋に侵入することは出来ないってことか?」
口をつぐんでいたカレルが横から口を出す。
「そう。しかしこの魔導機は突破し、僕でさえ気付かないように侵入した。カレル君、どうして気付けたんだい?」
ロイスさんがカレルに尋ねる。
「俺達がこの部屋に入った時に一瞬視界の隅に黒い影が映ったんっすよ。そんでそのあとも何だろな~みたいな気持ちで影を目で追っていたら、あれ魔導機じゃねって思って」
「ほう、なかなか原始的な策敵をしたんだねぇカレル君は。ふむ...」
そう言うとロイスさんは蜘蛛がいた辺りの壁周辺を調べ始めた。
「本当だ、ここの遮断魔法に少しだけ亀裂がはいっている...この事は僕から校長に話しておくよ」
「お願いします」
ケイトが頭を下げる。
「それよりー」
ロイスさんが徐に口を開く。
「授業の続きをしようか」
「「「...は?」」」
相変わらず掴めない人だなぁと俺はこの時思った。
「それで、えっと神創魔法の話だったっけ?」
そのあとロイスさんは部屋に魔力遮断の魔法をかけ直すと神創魔法について話しはじめた。
「そもそも神創魔法とは一体なにか?というところだけどこれは未だにハッキリとは解明されていないんだ」
「え?どういう事ですか?」
ケイトが質問をする。
「というのも神創魔法は他の魔法とは違って練習や才能でどうにかなるモノじゃないんだ。いつ、誰が、どの様にすれば発現するのか。それすらもよく分かってはいないんだ。」
確かにロイスさんの言うことには納得がいった。俺もまだ1回しか発動していないからよくは分からないが、“記憶の奇跡”も偶然...まぁチートの恩恵でもあるが...発現したものだ。
「それに今神創魔法を発現することが出来るのは僕も含めての五人しかいない」
「それって―」
ケイトが口をはさむ。
「“認定魔法士”の方達の事ですよね!」
「そう。神創魔法を発現した魔法使いは『魔法省』から火、水、風、雷、無属性の中からその神創魔法の属性を認定され、称号を授けられる。それが“認定魔法士”。でもその人達が意外と個性的で...」
「じゃあロイス先生の称号はなんなんだ?」
口をつぐんでいたカレルが口をはさんだ。
「え?あ、あぁ。ディオ君には前に教えたけど、僕の称号は無属性の『無二』。由来はたしか...『他と混じり他を制す、唯一無二の力』だったかな?」
かっこいいなオイ!!なんだその厨二心を叩き起こすみたいなの!やべぇ!超称号欲しい!そんな事を考えているとケイトが言った。
「ロイス先生。称号って他にどんなのがあるんですか?」
ナイス!!めっちゃ気になるなそれ!
「他の称号?確か火属性が『凰炎』、水が『水皇』、雷が『雷帝』、風が『龍嵐』だったかな?」
全てカッコいい!
「ロイスさん!!ちなみに由来は...」
テンション壊れぎみで俺は質問をした。しかし、
「はは、ごめん流石に他の人の分までは覚えられないよ」
申し訳なさそうにロイスさんが答えた。デスヨネー。そして、
「今日の授業はここまでにしようか。気になる事があったらまた勉学に支障をきたさないレベルでききにくるといいよ」
「はーい」
「ありがとーございました」
「ふぃー疲れたー」
また三者三様の挨拶をしてロイスさんの部屋を後にするのだった。
「じゃあまた明日ね!」
ホテ...寮に着くとケイトは俺達と別れて自分の部屋に戻っていった。
「ところでよー」
俺達の部屋に戻る途中でカレルが言った。
「ディオ~お前さん、昼はあの天才様と何をしていたんだ~」
「あぁ、そのことか」
「で?昼は何してたんだ?」
思い出したようにカレルが口を開く。
「別に大した事じゃねぇよ。ここに来る途中の馬車で魔物に襲われてな、その時にアイナが助けてくれたんだよ」
「へぇ、そんなことが...どんな魔物だったんだ?」
「えっと確か...バンサの群れ...だったかな?」
俺は思い出しながらそう答えた。すると、
「ぶっ、あははははは!!ディオお前バンサなんかに負けたのかよ!」
バンバンと床を叩きながらカレルが大爆笑した。確かにこの世界でのバンサという魔物は俺の世界でいうスライム的なポジションだけどさ。
「別に負けた訳じゃねぇし!戦えなかっただけだし!」
「ひゃはははは!!はいはい、どっちにしろ来週の模擬戦で分かるって!」
涙をだしながらバシバシと俺の背中を叩きながらカレルは笑い続けている。ぐぬぬぬ、こいつ....。
「そういえば、来週の模擬戦って大会の中でもするのか?」
そう。生徒達にはそれぞれの授業が終わったあと来週行われる大会のスケジュールが配布された。
「なんだ?ディオ知らねぇのか?」
「知らないもなにも俺初めてだし」
「それもそうだな。ん~シンプルにいうと...祭りみたいな?」
「祭り?」
「おう。生徒の有志による成果発表会っていうのが一応はメイン何だけどその他にも先生とか都市の人とかが屋台を開いたりするんだよ」
「へぇ...結構楽しそうなんだな」
「まぁ確かに楽しいけど、実はかなり大事なことなんだよ」
「そうなのか?」
「あぁ。魔法使いの一流養成学校の実力者同士の戦いもあるからな。色んなとこのお偉いさんとかが引き抜きの為に見に来るんだよ」
「つまり、楽に出世できるチャンスってことか」
「ああ。もちろんディオ、お前も参加するんだろ?」
「えぁ!?あ、ああ。もちろんさ。ハハハハ」
「ちなみに俺もブリキ女も参加するぜ。それに...」
「それに?」
「アイナ·ルフもモチ参加だ」
まじでか!?アイナが出ると他の奴らとか相手にならないんじゃないか?アイナは俺もひくレベルのチートだしなぁ。
「まぁとにかくだ。多分そろそろ特訓始める奴も出てくると思うぜ?」
「特訓ねぇ....」
思いつくのはロイスさんとの地獄の日々だった....吐き気がしてきた。
「気が向いたらな...」
「お、おう。顔色悪いぞ」
そんな会話をしつつ俺達は部屋に帰るのだった。
次の日。今日は兵器科の授業も魔導科の授業もなかったので特訓をしに体育館に訪れていた。
「で?なんでまたブリキ女がいるんだ?」
俺の右で露骨に嫌そうな顔をしながらいうのは安定のカレル。
「ディオ君も可哀想に。こんなむさ苦しいガキに好かれるなんて...」
俺の左で呆れ顔をしながらいうのは魔導科のケイトだった。
「しょうがねぇだろ。どっちの科も休みだったし、一人だけ誘う訳にもいかねぇし」
そう。俺が科が休みなのをしって特訓をしに体育館に向かう途中でバッタリと二人に出会したのだ。その時の俺の気持ちはまぁ...察してくれ。
「どっちにしろ別々に特訓するんだから良いだろ。あと俺をはさんでにらみあうな。歩きずらい」
昨日カレルと話したあと、少し気になって模擬戦について調べてみた。どうやら武器とかを使用していい『武道の部』と魔法を使った戦いをする『魔導の部』に別れるらしい。最終的にそれぞれの部でかちのこった者同士が戦うらしい。そんな訳で体育館に用意された特訓スペースも2つに分けられている。なんだが...
「まぁディオは『武道の部』だよな」
「もちろん『魔導の部』でしょ」
はい!この二人でございます!実をいうと二人に出会してからずっとこの事で言い合っている。
「俺はどうしようかな...魔法はあんま得意じゃないし、『武道の部』にしとこうかな」
「イエス!!」
「そんなあぁぁぁ~」
ガシッとガッツポーズをとるカレルとその場に崩れ去るケイト。この二人の扱い方が未だにわからない。
「よし!じゃあ行くかディオ」
「お、おう」
「ディオ君~」
俺に手を伸ばすケイトを背に俺とカレルは特訓スペースに向かった。『武道の部』の特訓スペースは広めの剣道場?みたいな雰囲気で手頃な相手と組み手を取ったりしていた。
「なぁ、カレル」
「ん?どした?」
「これのルールってどうなってるんだ?」
やり過ぎて殺っちゃいました~とかなったらマジで笑えないしな。
「ルールか...意外とシンプルだぜ。選手の身体に負担を軽減させる付与魔法をかけるんだ。相手の付与魔法の耐久を先に0にした方の勝ちだ」
「本当にシンプルだな」
「まぁな。ここに来てる奴ら、基本的に脳筋だし」
「あぁ~。確かに複雑なルールにしたら殺りかねないな」
「あっはっは!だろ?」
次の瞬間、俺とカレルの前にあった強化壁が吹き飛ばされた。
「なっ!何事だ!」
「ディオ!無事か!」
「なんとかな。それより一体どうしたんだ!?」
「それが...」
カレルはそう言って壊れた壁の方を指差した。
「?」
俺がその方向を見ると土煙の中から大柄な男が出てきた。
「いやぁ~やり過ぎたなぁ~。だっはっはっは!!」
出てきた男の手には大きな斧が握られていた。
「カレル....アイツは?」
「はぁ..アイツは俺らと同じ兵器科の奴だよ」
「マジで!?あんな化けもんみたいなのがいるのか?」
大男は警備員に囲まれて体育館を追い出されていた。
「ディオ~、今回は去年よりレベルたけぇぞー!」
「お、おう」
おいおいアイナの他にもまだ化け物みたいなヤツがいるのかよ...一体どうなることやら...そんな思いを抱きつつ俺とカレルは特訓を開始するのだった。
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