俺、話しかける
よろしくお願いいたします^_^
魔導科の教室。俺とケイトが座っている席の少し前の机。他の生徒で今まで隠れていて気付かなかったがそこにいた。馬スで俺とノエルを助けてくれた紫色の瞳を持つ少女―アイナが。すかさず俺はアイナの近くに行こうとした。しかし、
「ちょっとディオ君!いくらロイス先生と仲良いからって授業中に立ったらダメよ!」
とケイトからもっともな注意を受けてしまった。
「なぁケイト。あの俺達の前に座ってる女子の事知ってるか?」
諦めた俺はケイトにアイナの事を聞くことにした。
「ん?あぁアイナの事?知ってるわよ」
「本当か!?少し教えてくれないか?」
一応馬スでの礼も行っておきたいし、何よりアイナと友達になりたい。
「まぁ良いけど....どした?」
「いや、ちょっと気になって...ほら教室でも1人だったろ?」
「確かにそうだけど...まさか...一目惚れ?」
「ちげーよ」
やっぱりコイツ、こう言うのがなければ普通に可愛いのに。
「しょうがないわねぇ、教えてあげるわ。あの子の名前はアイナ·ルフ。魔導科でトップの成績を取り続けてるわ」
「マジで!?」
この魔導科でトップとか、どんだけ頭良いんだよ!
「驚くのはまだ早いわ。なんと!アイナは全部の属性の上級魔法まで使えるのよ!スゴくない!?」
「やっぱりか...」
馬スで俺を助けてくれた魔法。あれは恐らく火属性の上級魔法だろう。魔法は初級、中級、上級になるにつれ威力と消費魔力が変わってくる。俺は中級までしか使えないがそれでもかなり魔力を持っていかれている感じがする。これが上級となればどうなることやら...それに全属性の魔法を扱えるという稀有な能力。ノエルも似たような能力があるがあれは一時的に剣に属性の力を纏わせることが出来るだけで、魔法を操れるようになるわけではない。
「やっぱりかって何のことよ?」
「ん?中央都市に来る時の馬...車で魔物の群れに襲撃くらってな、その時にアイナが助けてくれたんだ」
俺がその時の状況をざっくりと伝えるとケイトはとても驚いていた。
「どうしたんだ?」
「いや、アイナが初対面の人に手紙渡したりするなんて...ありえなかったから」
「そうなのか?」
「うん....前にねアイナに話しかけた男子がいたの」
「それで?そんなに珍しい事なのか?」
「いや、まぁアイナに話しかける人自体珍しいんだけど...ってそっちじゃなくてね、その話しかけた男子、1週間丸々無視されて、ショックでしばらく学校に来れなくなったんだよ」
「まじか!?そんな奴に俺は手紙を貰ったのか!?」
「だから凄いって言ってんじゃん!」
ふむ...アイナは普段はそんなに話せるようなヤツじゃないみたいだな。どうしたものか...
「でさ、ディオ君。アイナに話しかける方法は考えてるの?」
悩む俺にタイミング良くケイトは話を振ってくれた。
「いや、特に...普通に話してみる...とか?」
「さっきの話覚えてる?」
「そうだった。流石に1週間無視はキツいしなぁ…って言うかなんでケイトはアイナの事呼び捨てにしてるんだ?」
「あぁ、言ってなかったわね。私とアイナ前から知り合いでよく遊んだりしてたのよ」
そうだったのか。ん?待てよ。
「それじゃあ何で今は話してないんだ」
「それなんだけどね、この学校に入る前...二年前だと思う」
「なんかあったのか?」
「まぁね。ディオ君ってさ『高貴の衰退』って知ってる?」
「まぁ何となくは」
『高貴の衰退』...確か二年前、エルフが一夜にして全滅した事件の事だ。エルフはかなりの魔法の腕前を誇っていたらしく、エルフの全滅は魔法界を揺るがせる大事件だったらしい。原因は色々言われているが、魔族による侵略と言うのが最も信憑性が高いらしい。
「でもそれがどうかしたのか?」
「アイナはね、この世界で最後のエルフなのよ」
「えぇ!?」
ってことはアイナってエルフかよ!?
「高貴の衰退の生き残りというだけで周りの人間からは差別されて、国からはその知識を利用しようとされるばかり...だからアイナはエルフなのを隠して極力人と話さないようにしてるの。アイナがエルフだって事を知っているのはこの学校にも私を含めた数人しかいないわ」
「俺に言ってよかったのか?」
これで学校を出ないと行けないとかなったら困る。
「アイナに声かけるんでしょ?これくらい知っておかないとネ」
まさか魔導科の授業中にこんな衝撃を受けるとは。
「ほらディオ君。もう少しで授業おしまいだよ。今日は全生徒もう授業ないから、アイナが寮に帰っちゃう前に頑張ってネ!」
そして30秒ほどで授業が終わった。俺は急いで片付けをするとアイナの元へ向かった。
「アイナ...だよね?」
「.....!....あなたは」
背後から俺に突然声をかけられてアイナは一瞬驚きの表情を見せたが直ぐに元の無表情に戻った。
「いやぁ今朝クラスの名簿をみたらアイナって書いてあったからさ、もしかしてと思って」
「......」
「まさかクラスも一緒で学科も一緒だなんてスゴくないか?」
「......」
やべぇぇぇぇぇぇ!!会話が続かねぇ!というか始まらねぇ!聞こえてるのか?それともエルフには俺の言葉は通じないのか!?話を振っても微妙な顔しかされねぇし!!ならばせめて!!
「こ、この前馬車で助けてもらった時のお礼もしたいしさ、このあと時間空いてる?」
「.....少しなら」
「本当に!?」
イエスッ!しかしアイナの言葉で魔導科の教室の雰囲気がガラッと変わる。女子からは拍手と称賛の声が。男子は「お、おい嘘だろ!?男子と話してるぞ!?」とか、舌打ちとかが聞こえる。そんな声を聞いてかアイナは少し顔を暗くさせると、
「い、行きましょう」
と、俺の手を引っ張り、食堂に歩き出した。
「えぇと...なんかごめん」
人が少ない食堂に着き、とりあえずアイナに謝っておく。
「いえ...別にディオさんが謝る必要はありません。その...私の...せい...ですから」
アイナは無表情のまま答えた。
「あ、あと勝手に呼び捨てにしててゴメンな」
ふとその事を思い出し一応謝罪を入れる。
「....その事何ですが...」
「ん?」
「その別に名前はその呼び方のままで構いません」
うつむきながらそう言うアイナ。これが俗に言うツンデレというやつか!?いやツンデレとは少しちがうな...そんなことを俺が考えていると、
「ディオさん?」
アイナが顔を覗きこんできた。その時にショートカットのアイナの髪が垂れて普段は隠れている“耳”が出てきた。
「うお...本物のエルフ耳...」
そう。アイナの髪の間から姿を見せたのは、ファンタジーの定番、エルフ耳だった。
「あ...」
俺の呟きが聞こえたのかアイナは慌てて耳を隠した。
「どうしたんだ?」
「すみません......」
アイナは悲しそうに言った。
「だからどうしたんだ?」
「え?」
俺の声にアイナは不思議そうな顔をする。
「だって私エルフなんですよ...『高貴の衰退』の生き残り...」
アイナはどこか悲しそうにそう呟いた。それは俺ではなく、自分に言い聞かせているようでもあった。
「君が。エルフだろうが何だろうがそんなに気にしなくて良いんじゃないか?」
「......」
アイナは黙りこんでしまった。
「....ディオさん、私このあと用事があるのでこのくらいで。また機会があれば」
そう言うとアイナは俺に一礼すると足早に寮に戻ってしまった。
「ハァ...ディオ~詰めが甘いな~」
「本当よね~ディオ君」
背後から聞き慣れた声がきこえた。
「カレル!ケイト!いつから居たんだ!?」
後ろを振り返ると反対のベンチに座っている二人の姿があった。
「いつからっていやぁ」
「最初から?」
二人で顔を見合わせながらこたえた。仲のよろしいことで。
「何のようだ」
俺は二人のことを睨みながら言った。
「ちょっとディオ君、そんな怖い顔しないでよ。私はロイス先生のとこに一緒に行かないか誘いに来ただけよ」
ケイトが答える。
「で?カレルは?」
「俺は、まぁ、何となく?」
「ふざけんな!」
「まぁまぁディオ君。こんなバカなんかと話してないで行きましょ?」
「あぁ、そうするか」
「じゃあ俺も~」
「え!?なんでアンタが着いてくるのよ?」
「良いじゃねぇか!な、ディオ!」
「もう好きにしてくれ」
と言うわけで俺とカレル、ケイトの三人でロイスさんのところに向かうことになった。
魔導科の教室のすぐ近くにロイスさんの個室はあった。魔導科の教室がかなり綺麗だったので個室もそれなりに貴族趣味何だろうな、とか思っていた。
「失礼します」
ケイトがドアをノックして中に入る。するとロイスさんが部屋の奥の方で読書をしていた。
「やぁよくきたね。ディオ君、ケイト君」
俺も部屋に入って中を見回す。だが想像とは違い、沢山の本といくつか机と椅子があるだけの地味な部屋だった。そんなことを俺が考えているのをロイスさんが気付いたのか、
「はは、想像と違ったかな、ディオ君?」
「え!?あ、まぁ。もっと派手かと思ってました」
「ははは、ここに来る人は皆そう言うよ。別に魔導科の教室は僕の趣味じゃないんだけどな」
「そうなのか!?」
話を聞いていたカレルが口をはさむ。
「そうだよ。あの部屋は確か...僕の前の担当の先生が作ったらしいけど....ところで君は?」
ロイスさんがカレルを指差す。
「え?あぁ俺っすか。兵器科のカレルって言います。今日はディオに付き添って来ただけなんで」
堂々とカレルが答える。すげぇなカレル。ロイスさんって初見だと怖そうなオーラが出てるのに。
「ふふ、別に今から魔導科に入っても良いんだよ?」
ロイスさんが笑いながら言う。
「面白い事言いますね。ロイス先生。でもそれは絶対にあり得ないんで」
笑顔で答えるカレル。態度でけぇぇぇ!!
「あっはっは、それは残念だ。ところでディオ君。今日は友達も連れてきて何を聞きに来たんだい?」
カレルとの会話を見事に流したロイスさんは俺の方を見ていった。
「ロイスさん、どうせわかってるんでしょう?」
「ふふ、神創魔法の事、だね」
「はい」
「いいだろう。準備は出来てる。ついでだ。カレル君とケイト君も聞いていきたまえ」
ロイスさんは沢山の本棚の中からいくつかの書類を取りだし、机に座った。
「これから君たちに話すのは国にとっても、世界にとってもとても重要な事だ。覚悟はいいかい?」
ロイスさんは真剣な顔で告げた。
「「「はい」」」
俺達はロイス先生に機密の授業を受ける事になった。
誤字脱字のご指摘お待ちしております♪
ノエル「私が完全に空気化してる件について」
(13.14.15話にかけて編集の際に作者のミスでストーリーがおかしな事になっているかもしれません。もし「ここが変」と思われる方がいましたら教えて頂けると嬉しいです)




