俺、授業に挑む
兵器科での授業が終わり、俺とカレルは校舎真ん中にある中庭に来ていた。中庭は様々な種類の花や木が植えられていて生徒達の憩いの場として使われていた。
「なぁカレル、称号ってどんなのか分かるか?」
「称号?」
ベンチに座りながらロイスさんのいっていた称号の事をカレルに聞いてみる。
「称号って言ったらあれだろ?神創魔法を使えるヤツにつけられる」
「あぁ、多分それだ」
「う~ん、分からんくもないが、詳しくは俺もなぁ...」
「そうか....」
父さんも『信頼』の称号をもっていたというからやっぱり気になる。後でロイスさんにききにいくか。そうおもっていると、
「ディオ君、まだそんな武器坊主と一緒にいたの?」
と、聞きなれた声がベンチの後ろから聞こえた。
「ケイト...」
後ろを振り返ると案の定こいつだった。カレルを見るとあからさまに嫌そうな顔をしている。どんだけ仲悪いんだよ...
「どうしたんだ、機械女。俺達に何か用か?」
カレルがケイトを睨みながら言った。
「ふんっアタシが用があるのはディオ君だけよ!アンタはこのあと授業ないんだからさっさと寮に帰ってなさい!」
不思議だ...二人の間に火花が散って見える。これも魔法の力なんだろうか?のんきにそんなことを考えているとケイトにガシッと肩を掴まれた。
「ディオ君って確かこのあと魔導科の授業だよね。一緒に行きましょ!」
「あ、あぁ」
「ちょっ!ディオ!」
若干強引ではあったがケイトの誘いで一緒に魔導科に向かうことになった。
「なぁケイト、魔導科って具体的に何するところなんだ?」
魔導科に続く廊下を歩きながら隣を歩くケイトに訊ねる。
「ん~、人によって細かく変わってくるけど実践で役に立つ魔導機を造ろうってのが最終的な目標ね」
「へぇ」
俺の世界でいうところの機械科みたいなもんか。そういえば、
「魔導科の担当ってロイスさん何だっけ?」
「ロイスさん?」
「あ、いや、ロイス先生何だよな!?」
「うん、そうだけど。ディオ君ロイス先生と何かあったの?」
鋭い!?女の感ってやつか?
「まぁ、ちょっと色々あって...」
俺は村での事、ロイスさんに世話になった事とか、この学校に入る事になった理由をざっくりとケイトに話した。俺の話を聞いてケイトは...
「うわぁ......」
「どうした?」
「いや、結構軽い気持ちで聞いたんだけど考えてた遥かに先をいく内容でちょびっと後悔中....」
と、気まずそうな顔になっていた。さっきまでのテンションどこにいったんだ。
「軽い気持ちで聞かれたのはちょっとイラっときたけど、まぁそんなに気にしなくていいぜ。俺もそこまで気にしてないし」
「そなの!?」
キョトンとした顔でケイトが俺の顔を覗きこんだ。
「あぁ。確かに父さんが死んだり村が半壊したのは悔しいけど、同時に俺に目標もくれたからな」
父さんの死と村の襲撃。これは皮肉にも俺の神創魔法を発現させるきっかけにもなっている。俺に冒険者になる覚悟を決めさせてくれたのもこの事件だった。
「それに俺にはノエルやロイスさんもいるし、ケイトもカレルもいる。だろ?」
「うん...強いんだね、ディオは」
これ自分で言ってて何けどめっちゃ主人公っぽくないですかぁ!?やべぇテンション上がってきたぞ。
「それより」
浮かれていた俺にケイトの声が掛かる。
「ディオ君とそのノエルちゃんってどういう関係なの?」
「はぁ?ノエル?さぁ」
何だよ藪から棒に。
「ちゃんと答えなさい!」
ガシッと肩を掴まれ歩みを止められる。
「もう一度聞くわ。ディオ君とノエルちゃんはどういう関係なの?」
グググググと肩に置かれた手に力が入る。ヤバイぞこの女。
「あぁ!ケイトあれって魔導科の部屋だろ!?行こ―ぜー!」
運良く魔導科の教室が俺達の前に現れてくれた。俺は小走りで教室に近づいて扉の取っ手に手をかけた。
「こらぁディオ君!逃げるな―!」
すかさずケイトが追いかけてきた。
「ちょっとケイト!さっさと教室入るぞ!」
「その前に私の質問に答えなさい!」
魔導科のドアの前でガンガンと取っ手を奪い合う。そんなことをしている間にも他の生徒が魔導科の教室の前に集まってくる訳で...ほんの数分で俺達の後ろには入室待ちの行列が出来ていた。にもかかわらず、
「いい加減にしろよ!!」
「さっさと答えなさいよ!!」
俺達の取っ手戦争は続いていた。二人の強烈な問答に周りの生徒も注意をできないでいる。あと数分で授業は始まってしまう。すると周りの生徒達に奥の方からサッと亀裂が入った。その亀裂はどんどんディオ達の方に広がっていき...
「君達、授業初日から何してるんだい?」
般若の幻覚を浮かび上がらせながら笑顔でそう言うロイスさんが立っていた。朝着ていた服ではなく、普通の服に着替えていた。
「うわぁ!?ロイス先生!?」
ケイトがロイスさんに気付きひゃぁっと声をだして驚いた。今だ!!俺は急いで取っ手を押し開き、魔導科のドアを開けた。
「すまんみんな!!入ってくれぇ!!」
「「「うおおおおおぉぉ!!!」」」
俺の呼び掛けに我先にと教室へ入って行った。俺とケイトはその生徒達の波に押し潰されてヘトヘトだった。
「ケイトぉ、お前の、せいだからな...」
「ご、ごめん。うん、割と本気で反省中....」
くたびれながら会話を交わす。
「二人とも遊ぶのはいいけど、僕の授業に迷惑かけないでね」
そう言いながら横たわった俺達をロイスさんが起こしてれる。
「うす...すいませんでした」
「はい...ごめんなさい」
「ははは、落ち込み過ぎだよ。僕もそこまで怒ってる訳じゃないし。というかもう授業始まるよ?」
ロイスさんは手に持った懐中時計で時間を確認して俺達に言った。
「まじすか!?」
俺とケイトは慌てて魔導科の教室に入室した。
「おぉ...!」
魔導科の教室内はさっきまでいた兵器科と真逆の造りをしていた。兵器科が下町職人みたいな雰囲気なのに対して魔導科はまるで貴族の屋敷みたいだ。部屋の隅々にまで美しい装飾がなされている。大違いだな。
「はは、驚いたかい?」
ロイスさんが俺に声をかけた。
「はい。さっきまで兵器科にいたので尚更」
「なんだ、ディオ君は兵器科もとっているのかい?」
少し驚いた様子でロイスさんが聞いてきた。
「そうですけど、何かあるんですか?」
「魔導科と兵器科は正反対の性質を持っているんだ。魔力がないから兵器がつくられ、力がないから魔導機が創られた。だから君みたいにどちらにも所属している人は珍しい」
「へぇ」
「でもまぁ、そのせいで兵器科と魔導科の生徒の仲が悪いというおかしな風潮がうまれてしまったんだけどね」
なるほど。それでカレルとケイトの仲が悪いのか。しょうもな!?
「それよりディオ君。早く席につきたまえ」
そう言うとロイスさんは教室の前にある教壇に歩いていった。俺は急いでケイトの隣に座った。
「ディオ君、なんであんなにロイス先生と仲良くなれたの!?」
席についた瞬間に食い気味でケイトが聞いてきた。
「なんでって、父さんの知り合いでしばらく世話になってたって言ったろ?」
「それを差し引いてもよ!」
「は?どういうことだ?」
「ほら、ロイス先生ってめちゃめちゃカッコいいでしょ?それに無属性の神創魔法の使い手なんて言うこと無しじゃない?だから色んな女子生徒が告白しにいったのよ」
「.....結果は?」
「全員泣いて帰って来たわ」
「Oh...」
そりゃそうだよな。ロイスさんって家では結構緩いけど学校で見ているとそれなりにしっかりと先生をしている。たぶん先生やってるうちは生徒に限らず誰とも交際しないんじゃないかなぁ。
「でも、それが俺とロイスさんが仲良いことにどう関係するんだよ?」
「ロイス先生ってあんまり生徒と話さないのよ。笑ったりはするけど自分から話しかけたりはほとんどしないわ」
「そうなのか?」
「えぇ。前にロイス先生と仲のいいリオネ先生に聞いてみたら『ん?すごい優秀な先生だぞ?』って」
意外だ。あんなにいい人なのに。なんでもってあんなちびっこと。
「なら今度ケイトの事ロイスさんに紹介してやろうか?」
「本当に!?」
「あぁ。授業が終わったらロイスさんのところ行ってみるか」
「イェッサー!」
ケイトは嬉しそうに大声で言った。すると教壇のほうから小さな空気弾がケイトの額に飛んできた。
「つぅっ!」
ケイトは突然の襲撃に直撃をくらった。威力はデコピンくらいか。
「ケイト君。授業中は静かに」
俺達の方に人差し指を向けたロイスさんが立っていた。この人しかいないか。
「うぅ~すいません~」
「よろしい。それでは授業を再開します」
そういうとロイスさんは黒板っぽいのに向き直った。
「今日は初日なので復習からいきます」
ロイスさんは俺をチラっとみると僅かに微笑んだ。かっけぇぇ!!俺はききのがしてなるものかとノートと筆記具を取り出した。
「魔導機とは数十年前にある魔法使いによって造り出されました。その魔法使いは非常に強力な魔力を持っていましたが、体術、特に戦闘に関してはあまり光るモノはありませんでした。こんな自分でも戦えないだろうか。その結果、魔力で操る事のできる錻人形、魔導機が創られたのです」
へぇ。その魔法使いめちゃめちゃ強いんじゃないのか?もし生きてたら魔導機の事聞きに行きたいな。
「魔導機に大切なパーツは主に3つ。1つは魔導機の骨格となるフレーム。これによってその魔導機の強度が決まってきます。2つ目は攻撃パターンや指示を決定する魔子回路。これらは皆さんに自分で製作してもらいます。そして3つ目。これが最も重要な心臓部―核です」
核?
「この部分だけは製作することが出来ません。核は魔物の心臓を加工して創ります。なので大会終了後位に実際に皆さんに魔物を討伐してもらい、その魔物の心臓を使用します」
その一言で一瞬ざわめきがおこる。ん?大会ってなんだ?
「静かに。この事は魔導科に入った時から伝えてあるはずです。それでは――君。魔導機の―」
復習が終わり、一問一答が始まった。俺は結構後ろの席に座っているから解答することはないと思うけど―
「ぁあれ!?」
ぼんやりと教室を眺めていると見つけてしまった。紫色の瞳を持つ少女―アイナを。
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