俺、入学する ―2
二話書いてたんですけど、なんかデータが消えてました(;_;)
よろしくお願いいたします^_^
俺達が中央都市にやって来てから二日目、俺の魔法特訓が始まった。都市立クロムフロウ魔法学校の三学期の開始まで残り僅か。この短期間で中級の魔法を習得するには才能のあるやつでも相当な努力をしなければならない。俺には魔法に関する才能はほぼ無いに等しい。そんな俺の訓練内容は、
「ほら、ディオ君!まだ魔力が残っているじゃないか!そんな事でへばってたら中級の魔法なんて使えないぞ!」
とか、
「ディオ君!唯一使うことの出来る初級回復魔法もほとんど意味無いじゃないか!」
などのロイスさんからの集中講座だった。俺もある程度は予想してたし、努力が必要なのも分かってたよ。でも、ロイスさんの特訓には優しさが一切なかった。最初の内は魔力が尽きるまで魔法を唱えつずけるというものだった。これはこれでかなりキツイ。この世界では体力、知力の他に魔力という概念がある。これは人によって違いが生まれるがこれが尽きると動くのも無理な位体がダルくなる。それを何度も立て続けにやらされるのだ。初めはマジで精神がおかしくなりそうだったけど3日目にしてようやく馴れてきたかと思ったら次は壊れた人形に回復魔法を唱えて修復する訓練が始まった。今まで俺はこの魔法は生き物にしか効果がないと思っていたけど意外と応用が効くらしい。人形は腕、足、細かい所にほつれがあった。一回の回復魔法ではほつれが少し治ったかな?と思う位だったけど何回か唱えてみると少しずつではあるけど着実に元の綺麗な状態へと戻っていった。始めてから何度も魔力切れも起きて途中で俺が倒れるというハプニングもあったが数百回目でようやく人形が元の可愛らしい物に戻った。ちなみにその人形は今ノエルが持っている。そして特訓開始七日目にしてやっと中級の魔法を唱える訓練が始まった。なぜ今頃なのかをロイスさんにたずねると、
「魔力というのは底を付くと量が増えるんだ。だから使えば使うほど次が多くなるんだ」
といっていた。詳しくは分からないが今までの期間は準備段階だったという事らしい。ノエルはその間、家の手伝いをしてくれていた。本当に良い子だ。そして今日からノエルも交えての中級魔法習得授業が始まる。
「よし、二人とも揃ったね。それじゃあ授業を始めるよ」
「「お願いします」」
それぞれ朝の準備を済ませて中庭に集合する。地下なのに草木が育っているメカニズムは分からないが魔法で何とかなるらしい。魔法さまさまだ。
「まずは君達に中級魔法の基礎を教えていこうと思う。中級魔法は初級と上級の真ん中に位置する魔法。この世界で職に着きたいなら中級魔法までの習得が必須だよ。代表的な中級魔法としてよく挙げられるのがノエル君も発動することの出来る“空気弾”。これに様々な属性の魔法を重ねて飛ばすなど基礎にして全ての原点とも言える魔法だ。と言うことでディオ君には空気弾を習得して貰おうと思う」
「空気弾っすか...」
それなら前にノエルが発動していたのを見たことがある。凝縮された空気の塊が対象に飛んでいく、みたいな魔法だ。まぁそこまで難しそうでもないし覚える位ならそれくらいで良いかな?
「空気弾は無属性の空気、という見た目からあまり強力な魔法という印象は薄い。さっき言った基礎にして原点という言葉も他の属性魔法を重ねた時の場合の事を言っている。しかしそれはただの誤解に過ぎない。この魔法は単体で放っても...」
そう言うとロイスさんは右手を前につき出した。そして
「我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって気の波動を示せ」
空気弾の詠唱をした。極めて静かに、穏やかに。次の瞬間、ロイスさんを中心に一瞬空気が揺らいだ。すると、バギャンッと大きな音を立てて数十メートル先にあった的が弾け飛んだ!おいおいあんなの人間に当てたらひとたまりもないぞ!
「すげ...」
俺は今目の前で起こった現象に驚きを隠せなかった。
「まぁだいたいこんな感じかな?このように極めれば上級魔法に引けをとらない火力を出すことが出来る。それじゃあディオ君。やってみよう」
「うす」
俺はロイスさんの言葉に頷くと数十メートル先の的に注目した。そして左手(通常は右手だけど俺は左利きだ)を前につき出す。
「すぅーはぁー。よし!我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって気の波動を示せ!!」
「...」
「...」
.......あれ?失敗したかな?それからしばらくしてペキンッと的の欠ける音が響いた。
「......遅ぇ!!!!そして弱ぇ!!!!」
マジでか!?いやまぁ最初から期待はしてなかったけどさ!威力が弱いだけなら連射でもしてみようかなとか考えてたんだぞ!まさか威力だけでなくスピードまで遅いとはマジでビックリだよ!!
「う~ん。これは...」
今まで黙って見ていたロイスさんが顎に手をあてて何かを考えていた。
「無理そうっすか?」
俺が諦め気味にロイスさんに言った。しかしロイスさんは、
「はっはっは。そうやってすぐに諦めようとするところまでマティアスにそっくりだ。大丈夫。教師として出来の悪い生徒ほど育てがいがあるよ」
笑いながら俺に言った。この時、父さんが俺をロイスさんに預けた理由が少し分かった気がした。
「ディオ、頑張ってね!他の事は私がやっとくから!」
ノエルが俺の肩を叩いてそう言ってくれる。
「ありがとな、ノエル」
「うん!」
そしてノエルは家事をしに家の中に戻っていった。
「それじゃあディオ君。ひたすら練習あるのみだ」
「うっす!」
それから朝から晩まで俺はひたすら空気弾を放ち続けた。そうやって何日かたった頃。
「ふむ、的中率が30分の1位にはなってきたね。そこで1つ良いことを教えてあげよう。自分の中にある魔力を消費するイメージをもって魔法を発動するんだ」
「自分の中にある魔力...」
「そう。魔法を発動するには当然魔力を要する。イメージする事が出来れば今より滑らかに発動出来るはずだよ」
魔力をイメージか...魔力、魔力?
「こうか?我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって気の波動を示せ!」
なんとなくイメージして空気弾を放つ。しかし的には変化は起こらなかった。
「なんとなくじゃダメだディオ君。もっと具体的に。使ったら減るモノをイメージして」
ロイスさんが俺に言う。使ったら減るモノ....?心の中にイメージする。
「よし...!我ここに命ずる。森羅万象の知恵をもって気の波動を示せ!!!」
すると、周りの空気が一瞬揺らぎ、次の瞬間、的がバキャンッと心地良い音をたてて弾き飛ばされた。
「よっしゃあ!」
魔力という概念がない俺には使ったら減るという具体的な文章だけで十分だ。イメージしたほうがやり易い。
「おや...思っていたより早く成功したねぇ。結構結構」
ロイスさんはパチパチと拍手をしながら言った。そして、
「ふむ、時間が結構余ったな。まぁ良い。ディオ君、ノエル君。明日は編入式にテストなど大変な事が色々ある。だから今日は早めに休むといいよ」
「は~い」
元気良く答えるノエル。うんうん元気なのは良いことだ。よし、それじゃあ俺も明日に備えて...って、
「明日!!??」
大声で叫んでしまった。俺はそんなに長い間空気弾の練習をしてたのか?ここは地下だから常に明るい。そのせいで時間感覚が全く分からなくなる。あれ?ってことはノエルは知ってたのか?
「なぁ、ノエル。お前は明日って知ってたのか?」
「私はディオと違ってご飯の材料とか買いに定期的に外に出てたから。ディオ、知らなかったって事は明日の準備なんもしてないの?」
「え?準備って?」
ポカーンと俺は首を傾げる。
「ディオ君とノエル君には明日からここを出て学校の寮で生活してもらう事になる。私としては全然居てもらって構わないんだが、校長がうるさくてね」
やれやれというジェスチャーをしながらロイスさんが答える。
「ヤバッ!俺なんの準備もしてねぇ。何がいるかな?ちょっとノエル!手伝って!!」
「良いよ~!」
俺はノエルと一緒に荷物をまとめに自室に向かった。
「でさノエル。何がいるの?」
そう言って俺が振り返ったその時!
「ディオ~!」
ノエルが飛びかかって来た。
「ほわっと!?」
俺は回避が間に合わずにそのままベッドに押し倒される。
「ちょ!やめろノエル!!何すんだ!」
「ディオ、村を出てここに来てから二人で話す時間ほとんどなかったでしょ?」
突然ノエルが話し出した。
「私、気づかないうちにディオにひどいことしたかなって、嫌われちゃったのかなってずっと不安だったんだよ?だから今日くらいは一緒に...寝よ?」
「な!?」
本気か!?確かに俺はあのデート以来ずっと特訓をしていたけど...くそっ!ノエルをこんなに不安な気持ちにさせてしまうなんて...俺も...覚悟..決めるか。
「分かったよノエル。一緒に寝よう」
俺とノエルは二人でベッドに入った。
次の日。
「ん...もう、朝か」
俺は日が昇る前に目を覚ました。昨日の事は...まぁ結論から言うと何もしていない。あのあと緊張しながら俺がノエルの方に向き直ると、
「すぅー、すぅー」
と、気持ち良さそうな寝息を立てるノエルの姿があった。そう。本当に一緒に寝るだけだったのだ。あの時の虚しさは誰にも理解してもらう事はないだろう。
「特にする事ないな....走るか」
昨日出来なかった準備を済ませた俺は久しぶりの外を走る事にした。
「にしても変わった都市だなぁ...」
俺は動きやすい服に着替えると仮設トイレから出てきた。そこには誰もいない静かな大通りが広がっていた。昼間は行商人や兵士達、町の人で溢れかえっているはずの大通りもこんな朝早くには誰もいなく、少し不安な気持ちにもなった。
「はっ、はっ、はっ、はっ」
一定のリズムで呼吸をしながら人のいない大通りを走り抜けていく。あらためて町を見ると、武器屋とかかれたビルがあったり、センターシティファイナンスとかかれた木造の家があったりする。
「不思議な所だなぁ、異世界は...ん?」
町をある程度走り終えて家の近くまで帰ってくると仮設トイレから出てくるロイスさんの姿があった。
「なにやってんだろ?」
俺は興味を引かれてロイスさんの死角の物陰に身を潜めた。すると、ロイスさんは数メートル離れた木に右手を向けた。そして何かを呟いた。次の瞬間、ベキベキッとその木が“何か”に押し潰された。
「なっ....」
俺は思わず声を出してしまった。
「男の朝を覗き見るのはあまり良い趣味とは言えないな、ディオ君」
その声に気づいてかロイスさんはこっちを振り返らずに言った。
「す、すいません!別に覗きをしてた訳じゃなくて....」
「はっはっは。冗談だよ。もしそんな輩がいたら気付いた瞬間に魔法を撃つけどね」
怖えよ!!しかもそれを笑顔で言うからなお怖い!!
「いつから気づいてたんすか?」
「えっと...不思議な所だなぁ、何とかは...ん?の辺りからかな?」
最初だ!?一体何者なんだよロイスさんって?
「そんな事より早く家に戻ろう。ノエル君が朝食を用意してくれているはず」
「あ、はい」
家路の途中でロイスさんにさっきの魔法について聞くことにした。
「そういえばロイスさん。さっきの魔法って何なんですか?」
「あぁ。あの魔法かい?あれは私の神創魔法だよ」
「えぇ!?」
ロイスさん、今すごい事をさらっと言ったぞ!?ロイスさんも神創魔法使えるのか?せ、世界って狭いなぁ…。
「私の神創魔法は無属性に属している。空気、たとえば重力、気圧、酸素とかそんなものを扱えるんだ」
「へ、へぇ...あの他にも神創魔法使える人っているんですか?」
気になったので聞いてみた。すると、驚きの解答がかえってきた。
「神創魔法を使える者は魔法機関から称号が与えられるんだ。私に与えられた称号は『無二』。無属性の神創魔法を発現させたからだね。ちなみにマティアス、君のお父さんも『信頼』の称号を持ってたんだよ」
「本当ですか?」
「うん。でもまぁ何の神創魔法を発現していたのかは誰にも話さなかったらしいけど」
意外だ。父さんは仕事の時も遊んでるイメージがあったけどまさか神創魔法を使えたなんて。でも一体どんな魔法だったんだろう。『信頼』って称号だから仲間となんかする魔法だったのかな?
「ディオ君。この話の続きは学校で。気になるなら私の個室にくると良い」
「分かりました」
その後家に帰りついた俺達はノエルの作った朝食を食べて都市立クロムフロウ魔法学校に向かう準備をするのだった。
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