プロローグ
「約束して…もうアタシみたいな人をつくらない世界にするって……」
生物の気配の無い都市の中に少女のその声は響いた、言葉を受け止めた彼の心にも…
人も動物も全てが死んでしまったなか、いま命の灯火が消えようとしている少女を抱える少年。
もうその頬につたう雫は無く、決意の表情で少女の言葉に答える。
「約束する、二度とこんな事起こさせない。俺がこの世界を造り変える!」
~二年後~
[ラグナロク]、特殊能力者[ブレイヴァー]となる人間が突然現れだしたことによる大陸にある三大王国の軍事バランスの崩壊から始まった戦争。
必然的に兵士とされた彼ら、ブレイヴァーの能力は多種多様でありまた凄まじく、まるで神々の戦いの様だったことからそう呼ばれている。
結果として勝利したのはゲイル、マークス、ゼレオの三国の内…ゼレオだけだった。
[ロストデイ]、ゼレオの非公開の生物兵器によってゲイルとマークスの人間、その他の生物全てが死んだ、たった1日の間に…
これによって大陸はゼレオが統一した。
[ロストデイ]から二年、壊滅した二つの国の都市や街にも人が戻り、大陸全土にまた人が住むようになった。
戦争が終わったことによりブレイヴァーの立ち位置も変わる。
強力な兵士から、危険な人外異分子になりつつあったブレイヴァーは、国に管理され、逆に自治活動に協力することで迫害を逃れた。
そして管理されているブレイヴァーである子どもは、いくつかある[ブレイヴァー育成学園]での生活を余儀なくされた。
その育成学園のひとつ、[新神学園]の高等部に一人の少年が転入した…
「神代ナガレだ!よろしく!」
少々クセのある金髪、整った顔、身長は170後半、細身ながらしっかりと筋肉のついた身体。
転校生、神代ナガレの身体的特徴はそんなもの。
「よし、ナガレの席は右側の列、一番後ろだ」
教えてもらった席に座るナガレをクラスの全員が好奇の目で見ている、まあ一年生の春、6月に転入なんてどう考えても違和感があるだろう、注目もされる。
そもそも育成学園は全寮制なのでよほどの理由がない限り転校生なんてこない、また、転入の理由を聞くことはマナー違反とされている。
とにかく、俺は今日からこの新神学園高等部一年E クラスに所属する。
「じゃあ朝のHRは終了する、今日は戦闘の授業だけだ、転校生のお手並み拝見だな」
担任の女教師、黒澤先生はいたずらっぽい顔で俺を見てから教室を出て行った。まったく、なんでそういうこと言うかな、そんなこと言ったら…
「ナガレ君よぉ、戦闘授業、俺と戦えや!」
こうなるんだよ…
学園では戦闘授業がある、主な理由は能力の暴走を防ぐため、もうひとつは外国、大陸の外、海の向こうの国と戦争になった時のための訓練のためだ、こっちは知らないやつがほとんどだけど。
授業は基本的に一対一、たまに一対複数や複数対複数も行う。
「さて、と」
武道場に移動してウォーミングアップも終わった。
「へへ、その顔ボコボコにしてやるよ」
「いけー!ダート!クラス二位の力を見せてやれー!」
なんだか野次馬、もといギャラリーも増えてきた…
このダートとかいう茶髪のゴツイやつはクラスで二番目に強いらしい。
自分の力をどれだけ『抑えて』戦えばいいのか、ナガレは考えいた。
「おい、転校生!てめぇデバイスはいらねぇのか?」
「ん?ああ、いいよ別に」
「…なめやがって!」
ブレイヴァーは能力を最大限活かすため武器を使用する、そして一番自分にあった武器をデバイスとして使用するのだ、中にはオーダーメイドで作る人もいる。が、ナガレはそれを必要ないと断った。
相手にしてみれば気を悪くするのは当然だが…
「まあいい、後悔させてやる!始めるぞ!」
合図と同時にダートが能力を発動させる。
ダートのデバイスは大きな槍、そして能力は[ブースト]、自らの推進力を何十倍にも増大させる。
シンプルだがそれ故の強さを持つ能力、だが転校生であるナガレはそれを知らない。
「いくぜえぇぇぇ!!!」
叫ぶと同時に床を蹴り、能力により加速する。五メートルを1秒もかけずに詰めた大槍の突進を…
ナガレは身体を捻り、最小限の動きで回避した。
「なっ!?」
ダートはもちろん周りで見ていた者も驚きの声をあげる。
能力を知っていなければ避けられないはずの攻撃をいとも簡単に回避したのだ、当然予想など出来るはずがない。
「っつ!」
だがさすがにダートもバカではない、通りすぎた時点で能力を解除、再び床を蹴り再発動させる。
が、またも避けられる。何度突進してもナガレを捉えられなかった
そんな攻防が1分たった時…
「こんな感じかな?」
そう呟きながらナガレが両腕をクロスさせるように手を打ち鳴らした瞬間、その場所から蒼白く光る壁が波のように高速で打ち出され、ダートを反対側の壁まで吹き飛ばした。
「がっ…はっ!」
決着は、唐突に着いた、驚愕に目を開きナガレを見る生徒達に聞こえる声で、微かに笑いながら、彼は自分の能力名を明かした。
「共鳴」