さぁ、行き先が決まったのなら……行こうか?
「いやーっ。買った買った。」
街中のビジネスホテルにチェックインしたセアは人目がなく、夜だから、という理由で普段の銀髪赤目という姿に戻り、ばふっとベットに倒れこんだ。
「っと、」
月葉は宙に飛ばされた紙袋を妖狐の姿に戻って尾で掴み、テーブルの上に丁寧に下ろす。
「セアさん。服、皺になりますよ?」
「構わないよ。……けど月葉は羨ましいねーっ着替える必要も皆無じゃないか!」
「それは服も術で作ってますし……」
月葉は伸びをし、体をほぐしながらそう言い、犬で言うお座りの姿勢で呆れたような目でセアを見て、
「そもそも化けるのって体力使うからあんまりありたくないんですよ。」
「人の中で生きるには人の姿であることが必須だとは思うけど。」
たしかにそうですけど……と月葉は返し、ごろごろーっとベットを転がるセアを見る。
(セアさんはこれからどうするのでしょうか……?)
セアは月葉を『せねばならぬことがあるならここで死んではいけないだろう?』といって救った。けれど、
(自分がどうするか、とは言ってません。)
観光に来た、とは聞いた。それは嘘ではないだろうと思う。なにせ彼女の行動はどこからどうみても観光客のものだ。
月葉はセアにこれからのことを聞こうとして、
「それで?これからどうするんだ?」
逆に聞かれ、驚いたように目を丸くする。セアは布団でゴロゴロするのをやめ、うつぶせの状態で月葉を見て、楽しげににしっと笑みをこぼし、
「どうした?私はお前に私たちのこれからを聞いているんだよ?やりたいことがあったのなら、言えないということはあるまい。」
そう言った。
(私……達?)
月葉は当然のように放たれた言葉にしばし呆然とし、恐る恐る問う。
「セアさんも……来るのですか?」
「当たり前だろう?」
問いに、笑みの形を持って即答が返ってきた。
「ようやく同じ立場のものと会ったんだ。無意味に長く空虚な人生。その一片ぐらいともに重ねてもいいだろう?」
「けれど―――」
セアからは即答が来た。
―――けれど、月葉からは即答できない。何故なら……
(僕のすることは、妖怪を―――同族を敵にすることも、あり得るわけですし……)
月葉は陰陽師が……安倍家が見失った本当の任務を……陰と陽の割合を正す任務を代わりにやろうと思う。それは妖怪を味方に、敵にすることであり、同じく陰陽師を味方に、敵にする行為だ。
だから、聞く。
「セアさんは、いいんですか?」
「……何が?」
状況を理解できず、首を傾げてそう聞くセアに、月葉は言葉を重ねる。
「ほかの妖怪とかを敵にするかもしれないんですよ?」
「構わないよ。」
「陰陽師とも、敵対するかも……」
「構わない。あまり好きな呼び名ではないけれど、『闇の王』の謳われる私と、『鏡月』と謳われるつく葉が居れば、大抵の相手には勝てる。―――己のみぐらい守れるさ。」
セアが前言撤回するのを待つように言葉を重ねる月葉をセアは睨み、勝気な笑みを浮かべて
「なめるなよ?私は、私のやりたい風に生きているんだ。日本人みたいに他者を尊重するなんて考えは出来ないね。」
(自由ですね……。)
月葉は諦めて溜息をつき、では……と、形式にのっとって人間……二十代ほどの男性に化け、正座をし一礼とともに、
「未熟なものですが、しばしの間よろしくお願いいたします……。」
「おぅ!?丁寧だな?よろしく。」
セアはそれに気楽に返し、
「―――で?どこに行くんだ?」
わくわくした口調でそう問う。月葉は体を起こす動作とともに元に戻り、
(切り替えが早いですね……。)
苦笑し、
「名無谷村へ向かいたいと思います。」
宣言した。
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