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門前 part2

(どうしよう……)

夜歌は言い争うセアと黒夜を見て、不安げにおろおろする。止めようにも黒夜は一緒にいる時間が長いためどうすればいいかわかっても、未だに妖怪なのか人なのか陰陽師なのか、はたまた他の生き物なのか見当もつかないセアとかいう女性をどうしていいかわからない。

(何かよくわからない形状の服着てるし……!)

夜歌はセアの洋服をおっかなげな瞳で見つめ、そろそろと視線を月葉に移す。さわらぬ神に祟りなしだ。

月葉ならばうまくできるのだろうが、真剣に二人の話を聞いていて、頼めるような雰囲気ではない。

けれど、

(すごい。本物の『鏡月』さんだ……)

夜歌は内心でぽつりともらし、ほぅ……。と息を漏らして熱っぽい目で月葉を見る。

送り雀はなんの力も持たない小さな妖怪だ。人に化けることは出来ても自分を攻撃してくる人に対して対抗する術を持たない。

(私は弱くて……だから全部黒夜君に任せっぱなしで……。)

送り狼も強い妖怪ではない。ただ夜歌よりは強いというだけだ。妖怪の中で見たらどっちもどっちなのだろう。今は力ずくで対処せねばならないことが滅多にないからどうにかなっているが、もっと強い妖怪が来たり、陰陽師がやってきたりしたら対処のしようがない。

だから月葉を警戒したのだが……

(私が『鏡月』さんみたいに強かったら……黒夜君を頼ってばっかってこともないのになぁ……)

そもそも、夜歌は月葉のような強い妖怪を尊敬している。それはそうありたいという望みで、そうありたかったという叶わぬ願いだ。

妖怪は種族でその力が決まってしまう。送り雀に生まれた時点で強くなることは無理なのだが、憧れを持ち続けるのは自由だろう。そう思う。だから、夜歌は憧れの眼差しで月葉を見つめ、

「……え?」

急にセアの襟を引っ張り、前進してきた月葉の姿に呆けた声を発する。

視線の先、今まで己が尊敬の……憧れの眼差しを向けていた相手はきりっとした表情を浮かべて

「僕に任せてください。……糸口はつかめましたから。」

ここからが本番だ、とでも言うようにそう告げた。


          ★


「僕に任せてください。……糸口はつかめましたから。」

月葉はそう言い、セアの前に立って、黒夜の前に立つ。先ほどから警戒してこちらを見てくる夜歌にも笑みを向け―――黒夜を見直す。

そして笑みを濃くし、

「よかったです。」

ほっと安堵したような生きとともにそう言った。正面の黒夜が理解しがたい、というような様子で眉をひそめるが気にしない。

(全ての人が理解しあえるわけではないですしね。)

特にセアとか、と月葉は内心で頷き、話を続ける。そもそもここはまだ序盤なのだ。物語の序盤ですべてが分かってしまう推理小説(ミステリー)は面白くない。

だから、月葉は続ける。

「行動で示せばいいんですよね?……だったら、出来ますから。」

(多少……好戦的になってしまったでしょうか……?)

不安に思うが、同時にしかたないとも思う。何故なら、今やたらテンションが上がっているからだ。

(百聞は一見にしかず。言葉で説明するより実際やったほうが分かりやすいですから。)

夜歌はあくまで『言葉で』交渉をしようとしてた。それは己に力がないと理解していて、もし万が一力に頼る展開になることを防ぐためなのだろう。

けれど、それは月葉が陰陽師とのつながりを失ったことを示せる唯一の証拠の提示を否定していた。

彼の発言はそれに許可を出すことで、

(感謝しないといけませんね。少しばかり短気な彼に。)

月葉は表情を変えないまま、若干失礼なことを思った。


          ★


「行動で示せばいいんですよね?……だったら、出来ますから。」

その言葉に、黒夜がキレて暴れださなかったのは自分でも奇跡だと思った。

(こっ……この狐野郎……!)

黒夜は内心でそう毒づき、歯を剥いて拳をプルプル震わせる。夜歌が焦ったように後ろで落ち着けと言っているが、正直それは必要ない。月葉に自分が敵わないのは見たらすぐわかる。一目瞭然だ。

(そこが気にくわねぇ……!)

月葉が強いということは知っている。認めている。なんせ、普通の妖狐の階級(・・・・・・・・)を無視して妖狐の中で最強と謳われる存在だ。だからこそ有名なのだ。陰陽師の『式神』だったことなど付加価値でしかない。……陰陽師の『式神』だったことと染みついた血の匂いがより一層警戒心を引き立てるのは確かだが。

その純粋な強さから来る有名さに……自分とは桁違いの強さに夜歌は憧れを抱く。けれど黒夜は

(憧れれるわけねぇだろう……!)

強くなりたいと思っているのに慣れない自分とは違って強いやつを憎く思う。

その感情をぶつけるように月葉を睨んで、


          ★


月葉はセアの若干不満げな視線と、夜歌の疑問を持った視線を、黒夜の敵意100%な視線を受けながら、懐から一枚の紙を取り出す。

それは名無谷村の書類をちょろまかしてくるときについでに持ってきた、

「―――安倍家の『術札』です。」

術を使えない人にでも使えるように作られた和紙製の紙だ。

その一枚の紙に視線が集中し、

「てめぇ!やっぱりまだ陰陽師とつながってんじゃねぇかよ!」

そう黒夜が吠えた。それを月葉は無視して、言葉を続ける。

「ちょっと貰ってきました。……同意は得てないんですけど。」

「泥棒じゃねぇか!」

「細かいですね。そんなこと言ってたらぬらりひょんは存在できなくなりますよ?」

月葉ははぁ……。とため息を吐いてそれた話を切り戻し、

「それで、これなんですけど手順さえ踏めば―――」

月葉はそう解説しながらばばっと札に向かって指で十字を切り、誰もいない方向に向かって札を投げる。札は地面にあたって発火し……

「妖怪にも使えるんですね。人と、『式神』には効果を持たないという安心機能付き。……ハイテクですね?」

「つまり何て言いてぇんだ。」

問いかけた月葉に理解しきれていない黒夜がそう不満そうに問い、理解できたらしい夜歌がはっとした表情を浮かべる。

(つまり、この反応の違いが馬鹿と天才なのですね……。)

月葉は内心そう呟いて納得し、黒夜(バカ)でも理解できるように言葉にして説明する。

「つまり、これを僕に(・・・・・)向けて使って(・・・・・・)効果があったら(・・・・・・・)僕はもう『式神』ではないという事です。」

その説明に黒夜は納得したようにうなずいて、

「ってバカかてめぇ!それは妖怪を滅するための―――」

こちらのみを案ずるようにそう言う。しかし、

「僕がこの程度の術で滅するとでも?かすり傷がつくかも怪しいぐらいですのに。」

月葉はそう言い放ち、

(成程。乱暴キャラに見えて実は繊細という訳ですか……)

内心で黒夜に対する評価を書き換え、始めますよー。と軽く合図をして、自分に向かって術札を発動させる。

それによって発生したものは炎。しかも先ほどとは規模が比べようもないほどの炎だ。

それは月葉を包み込み―――

お付き合いいただきありがとうございました。

感想等書き込んでいただけると幸いです。

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