彼氏に振られた君に、本当のことは言わなかった
夜の駅前。
人はまばらで、やけに静かだった。
街灯の下で、彼女は泣いていた。
「……ごめん、って言われちゃった」
ぽつりと、こぼす。
誰に向けた言葉でもない。
「好きな人ができた、って」
笑おうとして、失敗する。
「私、何がダメだったのかな」
肩が、小さく震える。
少し離れた場所から、その様子を見ていた。
声はかけない。
ただ、聞いている。
「もっと、可愛ければよかったのかな」
「もっと、ちゃんとしてたら」
「もっと……」
言葉が続かなくなる。
彼女はうつむいたまま、拳を握る。
――違う。
頭の中で、すぐに否定する。
それは全部、違う。
あいつが選んだだけだ。
お前のせいじゃない。
何も足りてなかったわけじゃない。
むしろ――
言いかけて、やめる。
それを言っても、意味がない。
今の彼女は、それを受け取れない。
言葉にすれば、軽くなる。
分かっていないやつの慰めに聞こえる。
だから、言わない。
ただ、近づく。
足音で気づいたのか、彼女が顔を上げた。
「あ……」
少しだけ、驚いた顔。
すぐに視線を逸らす。
「……見てた?」
「見てない」
即答する。
嘘だ。
最初から、全部見ていた。
でも、それも言わない。
「……そっか」
少しだけ、安心したように笑う。
泣き顔のまま。
沈黙が落ちる。
何か言うべきだろうか、と一瞬だけ考える。
でも、やめる。
今は、何もいらない。
隣に立つ。
それだけでいい。
しばらくして、彼女がぽつりと呟いた。
「ねえ」
「私、そんなにダメだったかな」
同じ質問。
さっきと同じ言葉。
でも、少しだけ弱くなっている。
答えは、決まっている。
ずっと前から。
でも――
「……さあな」
それだけ言う。
彼女は少しだけ、唇を尖らせた。
「ひどい」
「優しくないね」
「優しくないな」
肯定する。
それ以上は、言わない。
言わないまま、隣にいる。
しばらくして、彼女の呼吸が落ち着いてくる。
涙も、止まっていた。
「……ありがと」
小さな声。
「何もしてない」
「ううん」
彼女は首を振る。
「いてくれただけで、いい」
その言葉に、少しだけ視線を向ける。
何も言わない。
言わなくても、いいと思った。
――君は何も悪くない。
そう、分かっている。
でも、それは言わない。
言わなくても、
そのうち、自分で気づく。
その時まで、
隣にいればいい。




