表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

販売員のやり甲斐とは

作者: かみのみさき
掲載日:2026/02/26



 ここに、一人の販売員が居る。笑えば"詐欺師"、真顔は"犯罪者"と謂れる、何処にでも居る様な、普通の販売員だ。

 彼が売るのは、一流のブランド品。

 勿論彼には、手の届かない品だ。

 一点、数万から数百万もする、ブランド品など、普通の販売員が、買える訳が無い。

 そんなブランド品。

 しかし彼は販売員。その一流ブランド品を、例え買えなくとも、触って見る事は、出来るのだ。

 販売員にとっての、唯一の楽しみだろう。

 何故ならば、誰よりも、どんなお金持ちよりも、いち早く、その一流ブランド品の新作を、手に取り、鑑賞出来るのだから。


 販売員たる者、売り上げが命。

 売り上げを出せない販売員は、陰口を叩かれ、干され、肩身の狭い思いをする。逆に、売り上げを叩き出せる猛者は、称賛され、優遇され、周りから少しだけ、妬まれる。

 彼はどうか。

 笑えば"詐欺師"の顔のとおり、性格は内向的で、人見知りの気が有り、本来ならば、販売員など勤まる筈の無い、"詐欺師"顔。

 "詐欺師"顔が、彼の唯一の取り柄だろう。

 そんな彼の売り上げは、平凡。

 猛者には遠く及ばず、しかし、売り上げを出せない者とまでは、言われ無い。

 上司の目には留まらず、されとて、肩身の狭い思いをしない程度の、売り上げである。

 これが彼の、精一杯。

 これは彼の、目論見通り。

 販売員と言えども、出る杭は、"杭ごとへし折られる" 事を、彼は知っているのだ。

 売り上げは、上を見たらキリが無い。

 猛者と言えども、その延々と続く崖登りに、心を病んでしまった者が、沢山居たのだ。

 だからこその平凡。

 彼は崖には登らず、ただ平地を歩くのだ。

 真っ直ぐ横這いである。


 販売員の給料は、思ったよりも低い。

 求人広告欄の給料などを見れば、分かるかと思うが、◯◯年で◯◯万円と記載のある通り、ブランド品が高い割に、給料は低いのだ。

 勿論それは、雇用形態にもよる。

 売れば売るだけ、インセンティブが発生したり、正社員だったり、派遣で来ていたりと、人それぞれだろう。

 ただ、それにしたって、低過ぎるだろう。

 販売員と言った、人と接する職業、全般に言える事だが、心への負担が、半端ないのだ。

 販売員である彼も、毎日胃痛と踊って居た。

 負担の原因は、一つだけ。

 意味不明な、クレームである。

 例えば、この男性。

 数万円のお買上げで、ラッピングを行い、袋に入れて、御見送り。

 一時間後、再来店。

 横柄な態度で、返品、返金を要求。

 その理由は、とても面白い。

 彼女に要らないと、言われたから。

 彼は、心の中で、笑っていた事だろう。

 勿論、返品は出来ない。

 男性は、クーリングオフがどうのこうのと、可笑しな事を言っているが、対面販売で、尚且つ、御納得頂いての購入なので、原則対象外。と、説明しても、納得する筈も無し。

 そう言ったクレームが、多々起きるのだ。

 その対応を、給料の低い、販売員である彼が行い、給料の高い店長等は、余程の事が無い限り、前に出て来る事が無い。

 割に合わないとは、正にこの事だろう。


 ならば、彼は何故、販売員を続けるのか。

 それしか脳が無い。

 手に職が無い。

 やりたい事が無い。

 さて、どれが理由だろうか。面白そうだから、理由を尋ねてみよう。

 何とも、面白味の無い、理由だった。


 "笑顔"で帰る、お客様を見たいから。


 彼の販売員としての、"やり甲斐"だそうだ。

 売り上げを立て、猛者となるやり甲斐。

 昇進を目指すやり甲斐。

 やり甲斐と言う、目に見えない気持ちも、人それぞれ、千差万別、色取り取り。

 彼はどうやら、販売が好きな様だ。

 最初から好きだったのかを、聞いてみた。

 違うらしい。

 笑えば"詐欺師"、真顔は"犯罪者"と謂れるだけあって、元は極度の"人嫌い"。

 偶々偶然、機会が有って、販売員となり、最初の頃は、視線でお客様が、逃げて行ったそうだ。それでも、歯を食い縛り、逃げずに販売員を続けていたら、いつの間にか慣れたらしい。

 不思議なモノだ。

 極度の人嫌いが、販売員をしている。

 販売員を、続けている。

 彼にもう一つ、尋ねてみた。販売員で無い時は、どうしてるのかと。

 思った通りだ。

 彼は、販売員である時でしか、喋らない。

 喋れないらしい。

 だからこそ、その分、販売員としては、お客様と話をして、ブランド品を売る。

 そして、"笑顔"で帰って貰う。

 低い給料も、意味不明なクレームさえも、そのやり甲斐さえあれば、不思議と耐えられる。彼は、"詐欺師"の様な笑みを浮かべ、そんな事を言いながら、売場へと戻って行った。


 販売員のやり甲斐とは、一体何なのか。

 次はあの販売員に、聞いてみる事にしよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ