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第4話 山賊にも一分の理由

「貴様ら!早く整列しろ!アリシア様がご来駕されたのだぞ!」


銀髪の男ガリアの一喝で、砦のあちこちから男たちが集まって来た。その容姿は様々だ。60歳を超えた老人のような男もいれば、まだ20歳にも達していないだろうあどけない若者もいる。


素早く数えるとちょうど32名。それが16名ずつ二列に並んだ。


「ささげ~銃!」


その号令に居並んだ男たちはいっせいに武器を捧げる。奉げ銃とは言っても銃を持った男は5名のみ。

他の男たちは槍や刀、それすら持っていない男は長い木の棒を捧げている。


並んだ男たちの間を、アリシアはガリアを従えて当たり前のような顔をして闊歩していく。


「なかなか規律が整っているではないか。ガリア!」


「お褒めいただき、恐れ多いことでございます。」


ローザもアリシアの後に続いたので、僕もつられて早足で追いかける。

そのままアリシア、ローザ、ガリアとともに、砦の中央にあるログハウスのような小屋に招き入れられた。


小屋の中は木のテーブルに、固そうな木の椅子が4脚。奥には使っていない様子のベッドの木枠が見える。他には何もない。カーテンすらない。


アリシアとガリアが椅子に座ってテーブルを挟んで向かい合った。ローザが座らないので、僕も立ったまま部屋の端に控えることにする。


「このような殺風景な場所しかなく、恐懼に堪えません。」


「問題ない。もしや、ここは帝国との戦争の初期に、幼きわらわと母上が過ごしていた小屋ではないか?少し見覚えがあるぞ。懐かしいのう。」


「はい。ご賢察のとおりにございます…。」


「そうじゃ。そういえば、あの頃、おぬしは護衛隊長として、この小屋の中には一歩も入らず、いつも外でわらわと母上を護衛してくれていたな。それが今やこの砦の主としてわらわをもてなしている。たいそう出世したものじゃな。」


アリシアは口に手を当てて、カッカッカと声をあげて笑った。しかしガリアの表情は硬いまま。いや差し迫った表情で、どことなく暗い翳がさしている。


「騎士団を召し放たれ、途方に暮れていた我らにこの砦に住むことを許していただき、アリシア様には感謝しております。」


「よいよい。そう言えば、昔はあの広場で貴様に剣の振り方を教わったのう…。」


「ハッ…、アリシア様の天賦の才に、内心舌を巻いておりました…。」


「調子に乗ったわらわが、組み稽古で相手をさんざんに叩きのめした時に、貴様は言ったのう…。騎士の剣は弱い物をいじめるためのものではない、正義を貫くためのものであると…。あの言葉は今もわらわの胸に残っている。おぬしも覚えているであろう。あの言葉を…。」

アリシアは口元には微笑みを見せながらも、厳しい視線をガリアに向けた。


「……今のアリシア様のお言葉で、なぜここまでおいでになられたのかすべてを理解いたしました。」うなだれるガリアに、アリシアは軽くうなずき「申してみよ」と促した。


「我々が隊商を襲って、山賊まがいのことをしている噂がアリシア様のお耳に入り、我々を罰するためにここに来られたのですね。」

ガリアは椅子から立ち上がり、床にひざまずいた。


「ふむ…。そうじゃ。宰相のやつが砦を根城にする山賊を討伐せよと騒いでおっての。あの小心者のことじゃ。おおかた密貿易団から突き上げられたのだろう。衛兵を派遣すると息巻いて収まらなかったから、治安大臣としてわらわが何とかすると引き取ったのじゃ。」


「ご宸襟を悩ませ、恐懼の至りです。いかなる罰でも謹んでお受けいたします。」

ガリアは額を床にこすりつけた。襟足の下の真っ黒になった首筋がのぞき、まるでアリシアに首を差し出しているように見える。


アリシアも椅子から立ち上がり、ガリアを傲然とした表情で見下ろす。そのまま何も言わず。沈黙が続いた。5秒、10秒、20秒……緊迫した空気に耐えがたくなった時、アリシアがおもむろに口を開いた。


「よい、頭を上げよ。わらわはわかっている。おぬしが、騎士団を召し放たれた後も、同じく召し放たれた部下たち、碌に年金も受け取れない退役軍人、それから戦死した仲間の子らの面倒を見てくれていることを。」


さっき見た山賊団のメンバーには老人やあどけない顔をした若者もいた。退役軍人や戦争孤児だったのなら納得だ。


「本来ならば、やつらはわらわが面倒をみなければならないのだ。ガリア、騎士であるおぬしに山賊まで身を落とさせてしまって申し訳ない。おぬしがしてくれたことには、本当に感謝している。」


アリシアはゆっくりと腰を曲げ、深く頭を下げた。ガリアは弾かれたかのように立ち上がり、「もったいないお言葉、頭をお上げください」と言いながらおろおろしている。


「ローザ、あれを出せ!」というアリシアの言葉に応え、ローザがカバンから手のひらに載るくらいの小さな革袋を取り出した。


「これまで何もできなくて悪かった。金貨が入っている。これで手下らに飯を食わせてやれ。」


「な、なんと有難いアリシア様のお心遣い、我ら一同、感謝の言葉を尽くせませぬ。」

ガリアは涙を流しながら、両手で押し頂くように革袋を受け取っている。

おそらくお金が入っているのだろう。


召し放たれた部下やその家族の面倒を見るため、山賊に身をやつしてしまったかつての騎士。山賊となったことを咎めるのではなく、その篤志を良しとして、支援するかつての主人。


主従の強い絆を示す感動的な場面と言えるかもしれない。ローザも感極まったのか目を真っ赤にしている。

ただ、この場で私だけが雰囲気に飲まれず、冷めた目で分析していた。


あの革袋には金貨が入っていると言っていた。ただ、あんな小さな革袋だったら、大した金額ではあるまい。それだけで、小屋の外にいる30人以上の手下を何日養えるだろう?


おそらくガリアは、アリシアの顔を立ててしばらくは隊商を襲うのを止めるに違いない。

だが、あのお金が尽きたらどうなる?きっと手下や家族を養うためにまたすぐに山賊として隊商を襲わざるを得なくなるはずだ。


そしたら、また宰相が密貿易団に突き上げられ、衛兵を派遣してガリアたちを討伐するという話が再燃するだろう。そしたら振り出しに戻る…だ。


あんなごまかしではなく、もっと抜本的な解決を図らなければいけない。

僕が向けた冷めた視線に気づいたのか、アリシアがムッとした表情を向けてきた。


「なんだ?不満そうだな?なにか文句があるのか?」


「いえ…別に…。」不機嫌そうな眼差しに思わず視線を逸らす。


「いや、存念があるなら申せ!わらわのやることにケチをつけるなぞ許さんぞ。」


気づけばガリアとローザからも怪訝そうな視線を向けられている。こうなるとごまかせないか…。


「いや、それっぽっちで、ガリアさんが山賊やめて32人もいる手下を養っていけるのかなって疑問で。きっと、すぐに食いつぶしちゃって一時しのぎにもならない、焼け石に水。まったく現実が見えてないなって……。」


「はっ?」

「ぐっ?」


ローザとガリアが目を見開き、絶句している。まさかその事実に気づかなかった?

いや、さすがにそんなことはないだろう。

遠慮ない子どもが、貴人に対して言いにくいことをズケズケと言い出したことに当惑しているといったところだろうか?


「ほ、ほ~うっ…言うではないか…?」


アリシアが頬を引き攣らせながら眉をぴくぴくと痙攣させている。

明らかに怒っている。もしかしたら、貴人だから批判されるのに慣れていないのかもしれない。


「す、すみません…。」


「よ、よいのじゃ…、それでどうしたらよい?」


「えっ?」


「わらわの案を否定したのじゃ。おまえはもっといい案を持っているのであろう。申してみよ!」


ずっと片方の眉がピクピクと動いている。目も完全に据わって物凄い顔で僕を睨みつけている。これは地雷を踏んでプライドを傷つけてしまったか…。


「さっさと申せ!くだらない案だったら承知せぬぞ!!」

怒鳴りつけられて観念した。

こうなったら何でもいいから言うしかない。


「あの…山賊をやめさせるのであれば、他に収入を得る方法を用意した方がいいと思うんです。」


「それぐらい、わらわもわかっておるわ!!その方法が見つからないから、こうして寸志を渡しておるのじゃ!わらわに甲斐性がないからこれっぽっちだがな!それともなにか?おぬしには腹案があるのか?」


「はい…えっと…。」


「理想論だったら誰でも言える!批判するなら具体的な案を出してみよ!子どもだからと言って容赦はせぬぞ。」


「う~ん…。」


厳しい視線が僕を捉えて離さない。

この人、頭に血が昇って、このまま僕を徹底的に追い込むつもりだ。大人げない…。

でも、いったいどうしよう。


いたたまれなくなって、思わず視線を小屋の外に移すと、櫓の上で周囲を警戒する男の姿が見えた。その瞬間、脳裏に閃くものを感じた。


「そうだ!思いつきました!みなさんでビジネスをしましょう!」


力強く口に出すと、さっきまで意地悪な顔でネチネチと追い込んできていたアリシアが、一瞬虚を衝かれた表情を見せた。


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