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第3話 山賊のアジト

「見えてきたぞ!あれが山賊どものアジトだ!」


アリシアが指さす先には切り立った崖があり、その崖下から崖上に向けて細く急な斜面が見える。

そして崖上の少し開けた場所には尖らせた丸太で作られた塀が並んでいた。塀の真ん中に閉じられた門があり、棒を持った門番が立っている。


塀の中には物見櫓が立てられ、その上で屈強そうな男があたりを警戒している。よく見ると崖下には深い空堀が掘ってある。


これは山賊のアジトなんて生易しいものではない。砦、いや山城と言っても過言ではない。

どうやら予想よりもかなり大規模な山賊団らしい。


僕たちの姿が見つかったら、あの閉じられた門が開き、中から凶暴な顔した山賊たちが飛び出て来て、襲い掛かかってくるかもしれない。

そう思うとブルっと身震いがして足がすくんでしまった。


「おっ?震えてるのか?男のくせに情けない奴だな。」


アリシアは小ばかにするような顔をしながらフフンッと鼻で笑った。ただアリシアの後ろに立っているローザだって、さっきから青い顔をしてガタガタ震えている。


「あの、今さらなんですが、何で山賊団のところに?しかも女性二人で?」

僕の当然の疑問に、アリシアはニヤリと笑い返してきた。


「大したことじゃない!ちょっと山賊の親玉に、隊商を襲わないよう注意しに行くだけだ!」


「はっ?」

耳を疑い、それから目を見開いて絶句してしまった。


女性二人で山賊のアジトに乗り込んで、そんなこと言ったら一瞬で殺されるか、陵虐されて山賊団の慰みものされてしまう。

この世界のことはまだよくわからないけど、それぐらい簡単に予想がつく。仮にも一国の公王女殿下が、護衛も連れずにそんな無謀な真似を?


そんな私の驚愕に気づかないのか、アリシアは得意げな顔で語り続ける。


「宰相の奴がチクチクと嫌味を言ってきてな。国内で山賊が跋扈して隊商を襲っているのは治安大臣でもあるわらわの責任だとさ。なに言ってんだか。隊商ったって密貿易団じゃないか。犯罪者が犯罪者を襲って何が悪いのか!」


「そ、そうですよ。それならアリシア様も、わざわざ山賊の頭目に会わなくても…。そんな無謀なことは止めて帰りましょう。せめて護衛を連れて出直しましょう。」

ローザの声は震えている。彼女もアリシアが何をするつもりなのか知らされていなかったのだろうか?


「馬鹿を言うな!宰相や衛兵長に、わらわが山賊を説き伏せると約束して飛び出してきたのだ。今さらおめおめと城へ帰れるか!行くぞ!」


力強い一声とともに、アリシアが歩みを進める。

ローザは素直に従っているけど、胸の前で手を組み、何かブツブツ言いながら祈っている。念仏でも唱えているのだろうか?

その背中を見ながら一歩、二歩と後ずさる。このままバックレてしまおう。そう思った瞬間だった。


「ちょっと待て!どこへ行く?」


気づいたらアリシアが横に立って僕の腕を掴んでいる。

えっ?さっきまで前を歩いていたのに。どうやったらこんなに素早く動けるの?


いや、そんなことはどうでもいい。なんとか誤魔化してこの場から逃げ出さないと…。


「あ、あ~っ、え~っと、ママから夕ご飯には帰りなさいって言われてたんで帰りま~す。」

かわいこぶりながら見上げると、アリシアが氷のような冷酷な目で見下ろしていた。

眼光の鋭さに恐怖で足がすくむ。


「さっき、仲間からはぐれたっていったよな!落伍して捨てられたんじゃなかったか?」


「あっ、えっと、その……。」


「道に迷っているところを拾ってやったんだ。その分役に立て。弾除けぐらいにはなってもらうぞ!」

アリシアは僕の肩をがっしり掴むと前に突き出した。


自然と僕が先頭になって、アリシア、ローザの順で一列になって山賊のアジトへ向かうことになった。

このポジって、矢とか弾とかが飛んで来たら一番にやられるじゃん!

慌ててアリシアの手を振りほどこうとしたけど、万力のような怪力で握りしめられとても振りほどけない。観念して、せめて盾になるようにと背負ったリュックを体の前に回す。気休めぐらいしかならないけど…。


「とまれ~っ!お前ら、何者だ!」


ちょうど崖下から砦に向かう細い坂に差し掛かろうとするところだった。


砦の門の前に長い棒を持って立っていた、いかつい風貌の男が崖上から誰何してきた。


短いズボンから突き出した脛や、服の間から垣間見える胸はゴリラのように毛深い。いや、もう本物のゴリラにしか見えない。


恐怖のあまり坂の下で一歩も動けなくなった。できればこのまま一目散に逃げ出したい。

だけど、僕の肩をがっちりとホールドしたアリシアの手がそれを許してくれない。


「サザランド公国の公王の使者である!貴様らの頭目に会いに来た!」


耳がキーンとなるくらいの胴間声だった。門番だけでなく、物見櫓の上の見張りもこちらに気づき、砦の中に何か声を掛けている。


「な、なに?公王の使者?親分に会いたいだと~?」

門番のゴリラは少し戸惑った様子を見せたが、負けじと大声で怒鳴り返してくる。


「そうだ!ガリアをここへ呼べ!わざわざ、わらわが会いに来てやったぞ!」


「う、うそをつけ!公王の使者が女一人と、子ども二人なわけないだろう!さっさと立ち去れ!」


ゴリラは手に持った棒を横にし、こちらを威嚇するように身構えた。


子ども二人?そうか。アリシアが乗馬服を着て男装しているから、あいつらには子どもに見えてるのか。

子どもだからと見逃がしてくれそうだし、まあいいか。


しかし、安堵し立ち去ろうとした僕の心中に反して、アリシアは僕の背中をどんどんと押して坂を登らせる。それに抗えずに足を前に進めると、ついには崖の上、門番のゴリラの眼前まで連れて来られてしまった!


「何をしている!立ち去れと言っただろ、ガキめ!」

ゴリラが手に持った棒を突き出してきた。


アリシアは鼻先に突き付けられた棒を掴むと、フンッと気合一閃し、気づけば棒の向こう側のゴリラが宙に舞い、それから背中から地べたに落ちた。


「この無礼者!控えよ!わらわはサザランド公国の公王女にして、治安担当大臣のアリシア・サザランドである!さっさとガリアを呼んで参れ!」

アリシアはハンチング帽子を脱ぎ、金色の少しウェーブのかかった長い髪がふわりと舞う。


ゴリラは現実を掴み切れていないのだろう。仰向けに倒れながら間抜けな顔をして口をパクパクさせている。


その時、木でできた門がギギッと音を立てて開き始めた。

その向こうから、ボディービルダーのような重厚な筋肉の鎧をまとった銀髪の男が姿を見せた。

年のころは40代半ばくらいだろうか。着ている服は土で薄汚れていたが、口髭を蓄えた顔は清潔感があり、大企業の社長と言っても通りそうなくらい気品がある。

左右に髭面のいかにもむさくるしい男がいなければ、山賊と言われても到底信じられないだろう。


左右の男たちはライフル銃を持っている。ライフルの先の銃剣がキラリと光った。

棒ならともかく、あんなのを向けられたらひと突きでお陀仏だ。

いよいよ命運は尽きたかと思いギュッと目を閉じた。


「アリシア様、このような山中までご足労いただき恐悦至極に存じます。」


再び目を開くと、その銀髪の男はひざまずき頭を垂れていた。左右の男もそれに倣って膝をついている。


「ガリア、久しいな。大儀である。」

振り返ると、今度はアリシアが銀髪の男を見下ろしている姿が目に入った。その顔には威厳があったが、どこか懐かしい友を慈しむような柔らかさが感じられた。


思わずローザと目を見合わせると、ローザの瞳にも驚きの色が見えた。

ただそれは一瞬のことで、すぐに目を閉じて諦観したかのように首を振った。

またアリシア様に一杯食わされた…そんなことを思っているのだろうか?


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