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第22話 リバースエンジニアリング

「おかえりなさいませ、カガミ様。」

 

 大使館に戻ると玄関でユーキが出迎えてくれた。


 アリシアは執務室、ローザは自室にそれぞれ籠っているのだろうか?周りに誰もいない。


 ちょうどいい。二人きりになったら聞きたかったことがあったんだ。


「ユーキさん!少しお話していいですか?」


「はい、もちろんですよ。何でしょうか?」


 ユーキは、いつも目を細め口元に微笑を貼りつけた、柔和系ポーカーフェイス。


 出会ってから一週間になるけど、この表情を崩したところを見たことがない。


「この間も少しお伺いしましたけど、ユーキさんってどちらの出身なんですか?ほら、僕と髪の色も肌の色も同じじゃないですか。もしかして故郷が同じなのかなって思って……。」


 無邪気な様子を装いながら、ユーキの表情をうかがうと、眉を寄せ、少し困ったような表情になった。


「私がどこで生まれたのか……すみません。わからないのです。私は記憶を失って森で彷徨っているところをブランシェ様に拾われたので……。それ以前のことを覚えていません。」


「えっ?僕も一緒です!僕も森で迷っているところをアリシア様に拾われたんです!」


 僕は以前の記憶は残っているけど、それ以外の点は見た目も含めて共通点が多い。

 もしかしてユーキも同じような状況で転生してきた?


「もしかして……鞍馬峠で足を滑らせて…?」


 僕がそう伝えると、ユーキは急にスンッとなり、「クラマトウゲ…すみません私には何のことかさっぱり…」とだけ言ってまたいつもの不動の微笑みに戻った。


 何となく気まずくなった気がする。

 やっぱり触れて欲しくない話題なのだろうか?


「……そういえば、カガミ様にお願いされていたもの、ご準備ができております。魔鉱石の染料と魔布でよろしかったですよね。」


「はいっ!ありがとうございます!」


 魔道具の技術をサザランド公国に持ち帰ること、それが王国滞在時の僕のミッションでもある。

 まずはジャンヌに見せてもらった冷気を出す敷物を再現してみようと、材料の手配をユーキにお願いしていたのだ。


「しかし…魔道具の作成は難しいですよ。ランプとか着火用の道具とか簡単なものはうちの商会でも作っていますが、ほとんどの技術は魔道具ギルドが門外不出にしていて、うちの商会でも技術導入できていないんです。」

ユーキが申し訳なさそうな顔になった。


「わかってます。ちょっと試してみたい方法があるんです。できたらユーキさんも見てくださいね。」

 お辞儀をしながら魔鉱石の染料と魔布を受け取り、はやる気持ちを抑えながら自室に向かった。



「できた…。」


 僕の記憶の中にある紋様は複雑だったし、初めて見る魔鉱石の染料の扱いにも苦労した。


 それでも失敗しながら何度かトライすると、ようやく記憶の中にある紋様を完璧に再現できた。

 ちゃんと冷気も出てる。


「ユーキさ~ん!」


 夜を徹した作業でハイになっていた僕は、自室から勢いよく飛び出し、それから玄関脇に立っていたユーキに向かって大きな声で呼びかけた。


「おはようございます。カガミ様。」


 ユーキはいつも通りの冷静な口調で、貼り付けたような柔和な微笑みをしている。


「見~てく~ださ~い!触ってく~ださ~い!すごいですよ!」


 ユーキは、ハイテンションの僕に少し当惑しながらも、差し出された敷物を手に取った瞬間、表情が一変した。


「こ、これは…。冷たい。冷気が出ている…。完璧な魔道具になっています。いったいどうやったんですか?」


「フフンッ…宮廷で見せてもらった魔道具の紋様をそっくりそのまま書き写したんですよ。同じ魔鉱石の染料を使って、同じ魔布を使えば同じ効果が出るんじゃないかと予想してたんですけど、やっぱりそのとおりでしたね!やった!僕は天才だ~!」


 得意げにはしゃぎ続ける僕を尻目に、ユーキは目を見開きながら僕が作った魔道具をまじまじと見つめている。


「書き写す……。しかし魔道具の紋様は空気に触れるとすぐに消えてしまう。封印を開いて複雑な紋様を書き写す時間なんてないはずです。いったいどうやって?」


「ああ、それはね!僕の特殊能力があるから。パッと見れば映像として覚えられるから、紋様を見たのもほんの一瞬だけ。あとは記憶を頼りに書き起こせばいいのさ!」


「なんとそんなことが…!」


 驚き、悄然としているユーキの周りをスキップしながら跳ね回っていると、急にクラっとめまいがしてへたりこんでしまった。


「カガミ様!大丈夫ですか?」


「平気、夜通し部屋で作業してたからかな~。」


 僕の言葉にユーキが厳しい顔になった。


「ダメです!魔鉱石の染料は揮発しやすく、吸い込むと体に害があります!部屋で一晩中、魔鉱石の染料を扱うなんて自殺行為です…。」


「ああ、そうか…。じゃあこれからは外でやるよ…。」


 相変わらずハッピーなハイテンションが続いていたので、ヘラヘラ笑いながら応えていると、急にユーキが表情を改めた。


「もしよろしければ、商会で安全に作業できる場所を提供いたします。魔鉱石の染料も、魔布も準備します。紋様の見本となる魔道具も用意します。ブランシェ様を説得して、商会で費用をすべて負担します。カガミ様はそちらで研究を進められてはいかがでしょうか?」


「ああ、うん。OKだよ~。サンキュ!」


 そう答えた後、僕は意識が遠のき、気づけばベッドに寝かされていた。しかもさらに翌日の朝になっている。


 魔鉱石のガスを吸い込んでぶっ飛んで倒れたのか……。

 

 急に羞恥心が湧いてきた。あんな恥ずかしい姿をユーキに見せてしまった…。


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