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第18話 宮廷での出会い

 ローデシア王国の首都パリス、その中央にある壮大な王宮に僕は圧倒された。


 まず門からして違う。


 幅は10メートル、高さも5メートルはあろかという巨大な門が衛兵4人がかりで開かれ、それを馬車に乗ったままくぐり、儀仗兵の先導で宮廷まで案内された。

でも敷地が広大過ぎるのか一向に到着しない。


 ようやく馬車が止まり、王妃様と王子様がいらっしゃるという宮廷の中に足を踏み入れると、今度はいきなり天国に来てしまったのかと錯覚した。


 荘厳で広大な玄関ホールには、まばゆい黄金色の光を放つシャンデリアが吊り下げられ、壁一面に描かれたバロック調の絵を照らしている。

 足元に敷かれた絨毯も足が沈み込みそうになるくらい柔らかい。


 帝国の宮廷も豪華だと思ったけど、ここはさらに凄い。

 まして貧乏国であるサザランド公国のお城とは比べ物にならない。

 月とすっぽん?いや太陽とワラジムシくらい違う。


 思わず呆然としてしまった僕に「……おいっ、何を驚いている?行くぞ!」と促すアリシア。


 しかし、言葉こそ強気だが、その表情と震える声から、彼女も完全に気圧されている様子が伝わってくる。


 そのまま、アリシアは一人特命全権大使としての信任状奉呈式が行われる鏡の間へ案内された。


 王妃様とアリシアが謁見している間、僕とローザは従者用の控えの間で待つように言いつけられている。


 それでも案内された控えの間は、従者用とは思えないくらい豪華だった。


 公国のお城で一番格式の高い公王の間と比べても圧倒的大差だ。


 床に敷き詰められた絨毯は羽毛布団のようにふかふか。

 与えられた椅子も柔らかくて体が沈み込みそう。

 しかも調度品はすべて、真鍮ではなく本物の金で装飾されて眩い光を放っている。


 そして壁には一面に精密な絵が描かれていた。

 神と天使が描かれているから天国がモチーフだろうか?


 部屋の中央にはテーブルクロスが掛けられた長大なテーブルが置かれ、その上に湯気を立てたお湯やスコーン、クッキーなどが並べられている。


 信任状捧呈式が終わった後、アリシアと王妃様が隣のティールームに移って、お茶を楽しみながら親しく語らう予定と聞いている。


 これらはそこで提供されるお茶とお菓子なのだろう。


 しかし、おいしそうなお菓子だな。控えの間の僕達にも少しくらいおこぼれがあるんだろうか……と思いながら眺めていると、ある違和感に気づいた。


 目の前の銀のポットからは温かそうな湯気が立ち上っている。

 ここに置かれてからだいぶ経つはずなのに冷めた様子がない。

 しかもそのすぐ隣の銀器にはアイスクリームが盛られているが、こちらはキンと冷えたまま、まったく溶ける気配がない。


 同じテーブルの上に置かれているのに、お湯は温かいまま、アイスは冷たいまま……いったい、どうなってるんだ?


 思わず立ち上がり、テーブルに近づく。


「こらっ!おチビちゃん!つまみ食いはダメよ!どこから入ったの?」


 突然の声に振り返ると、そこには18、9歳くらい、細身の可愛らしい女の子が腰を手に当てて頬を膨らませていた。

 薄いブロンドの髪とミルクのような白い肌。まるで壁の絵から飛び出した天使かと見まがうくらいの美貌。でも、今は眉を吊り上げて怖い顔をしている。


「ごめんなさい。僕はサザランド公国の公王太子アリシア・サザランドの秘書官でカガミと申します。」

僕が名乗ると、彼女は「あっ」とつぶやき、口に手を当てた。


「失礼いたしましたら、お客様だったのね。わたしはクロード男爵家の娘ジャンヌ。王妃様付きの女官をしているの。」


 ジャンヌはスカートを軽く持ち上げて、腰を少し落とした。王国の正式な挨拶だ。僕もあわててお辞儀をする。


「それで、小さなお客様。どうされました?軽食が必要なら別にお持ちしますわ。」


「そうじゃないんです。テーブルの上のお湯は温かそうなのに、アイスが溶けないのが不思議でつい……。」


「ああ、それはね…」と言いながら、ジャンヌはポットの下の赤い敷物を手に取り、僕に差し出した。普通の布でできた敷物みたいだけど…。


「熱い!」敷物に触れた指先に、思わず叫び出すほどの熱さを感じた。


「フフッ、じゃあこっちを触ってごらんなさい。」


 今度はアイスが盛られた銀器の下の青い敷物を差し出してきた。

 おそるおそる手を伸ばし、指先で触れると今度は氷のように冷たかった。


「いったいどういうことですか?」


「フフッ…知らないのね。これは魔道具よ。中に魔鉱石の染料で書かれた魔法の紋様が封印されていてそこに不思議な力が宿ってるの。その力で、こっちの赤い敷物はずっと温かい熱を出して、こっちの青い敷物は氷のような冷気を出してるの。」


「へえ~っ!初めて見た!すごい!」


「他にも、ずっと煌々と光り続けるランプとか、風を吹き出し続ける箱とか、あとわたしは見たことはないけど、お城の宝物庫には空を飛ぶ絨毯なんてものもあるらしいわよ。王国ではそんなの5歳の子でも知ってるんだから!」

 なぜかフフンッと得意げな表情のジャンヌ。


「すごいすごい!いったい、どういう仕組みで不思議な力が宿るんですか?どんな紋様を書いたら、どんな力が出るとか法則性はあるんですか?僕も作れるようになりますか?」


 これは革命的だ!ぜひ自分のものにしたい!

 興奮して矢継ぎ早に質問すると、ジャンヌが少し引いて目を逸らした。


「そ、それはとても難しいのよ。魔道具ごとに専門のマイスターがいて、それぞれ門外不出の秘伝の技を代々受け継いでいて……。正直、わたしも魔道具を使うことはできるけど、どういう仕組みで動いているのかさっぱりわからなくて……。」


「じゃあ……その紋様を少し見せてもらえないですか?」


「うっ……。」


 ジャンヌはためらっていたけど、僕が上目遣いでかわいこぶりながらお願いすると、青い敷物をひっくり返し、裏面の布のボタンを外して中を見せてくれた。


 青い紋様…というかQRコードみたいに見える。

 しかも少し刺激臭がする。これは魔鉱石の匂いなのかな…?


 もっと見ようと顔を近づけたところで、ジャンヌが紋様を布で覆い元のようにボタンをかけた。


「紋様は空気に触れるとすぐに消えてしまうの。だから、これでおしまい!勉強になったかな?」


 その時、ティールームの方からベルが鳴る音がした。


「あらっ、いけない!予定よりも早くお茶の時間になりそうだわ!じゃあ、わたしは準備があるから。」


 急ぎながらも、優雅な足取りでティールームへ向かうジャンヌの白い背中を見送りながら、僕は魔道具という新しい技術から受けた衝撃と興奮による胸の動悸がしばらくおさまらなかった。


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