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第14話 政変の始末記

「カガミ、よくやった!よくぞ、わらわの考えを十分に察し、計画通り動いてくれたな!」


城内を完全に制圧し、シルビアと宰相を軟禁することに成功したアリシアは、自分の執務机の前の肘掛椅子にふんぞり返り、満足そうな顔をしている。


しかし、僕の心の中は不信の思いでいっぱいだ。思わずジトッとした視線を送ると、アリシアがたじろいだ。


「な、なんじゃ?その顔は?」


「宰相にこの部屋に連れて来られた時、明らかに僕を切り捨てようとしてましたよね……。樹海の奥へ捨てて来させて、僕を亡き者にして陰謀の証拠を消そうとして……。」


「な、何を言っておるか!あれは貴様の命を助けて、ガリアの所へ送り、わらわの命令書を持って行けるようにする口実じゃ!」


「たまたま衛兵がいい人で、樹海に入る前に解放してくれたからよかったものの、本当に樹海の奥まで連れていかれたら、僕も助かってませんでしたよ!」


「ま、まあよいではないか。無事に戻って来られたわけだしのう……。これもすべて宰相を油断させるためのわらわの作戦のうちじゃ。」

アリシアは目を逸らして、口元にごまかすような笑みを浮かべている。


こういった表情は現世でさんざん見たことがある。上司や同僚が責任をごまかし、言い逃れようとする時の表情だ。

ただ、成功した今となってはアリシアを責めても仕方のないこと。僕はため息を一つついた。


「それにしても、カガミ、おぬしやるのう!証拠が残らぬよう一度だけ見せたわらわの命令書を、あのガリアの目をごまかせるくらいに完璧に復元するとはのう…。できると聞いた時は半信半疑じゃったが、まさか本当にやり遂げるとは…。」


「はい、記憶力には自信がありますので…。」

今回の作戦の肝は、いかにして麾下の騎士団であるガリアに命令書を届けるかであった。


もし僕が道中で捕まって命令書が見つかれば、それこそアリシアが謀反の罪で打ち首にされてしまう。しかし、命令書がなければガリアは動かない。


そこで考えた策が命令書を僕の頭の中に記憶し、必要な時に僕の手でそれを完全に再現して、ガリアに渡す方法だった。


現世では、ファクシミリとか電子メールがあれば足りるだろと言われて何の評価もされなかった僕の特技の一つだが、まさかこんなところで役に立つとは……。


「それにしても、不思議なのは密書じゃ。あの小心な宰相が公王様を亡き者にしてシルビアを王位に就けるなどという大胆な手紙を書いていたとはいまだに信じられぬ。ガリアが密貿易団を捕まえて押収した手紙も、どれも大したことのない事実報告だけじゃったしのう…。不思議じゃなあ……。」


「はあ、そうですね……。」


何かを察したかのようなアリシアの咎めるような視線に、今度は僕が目を逸らす。

実はあの手紙も僕が偽造した。宰相の部屋で書き損じの手紙を見つけ筆跡を完全に記憶してそれを再現したのだ。勝手に謀叛の内容を付け加えて。


帝国から派遣されている宰相が、帝国に事実報告をしていることは当たり前。公然の秘密と言っても過言ではない。

だから帝国に事実報告をしている手紙をいくら見つけても謀反の証拠にはならない。

他に謀反の決定的な証拠を掴まなければ宰相を断罪することはできない。


最初は、偽造までするつもりはなかった。少しでも証拠になる手紙が見つけられればいいと思って、ダメモトで宰相の部屋を探しただけだ。


だけど、宰相の部屋で捕まり、僕を打ち首にしろとしつこく言い続ける宰相が憎らしく、しかも親切な衛兵がいなければ樹海の奥で朽ち果てていたところまで追い込まれたことで我慢ならなくなり、勢い余って宰相の謀反の手紙まで偽造して、ガリアが城に押し入った時に、こっそり宰相の部屋の抽斗に入れて、僕が見つけ出したかのように装ったのだ。


ただ、この事実は口が裂けても言えない。僕が墓場まで持って行く秘密。もしバレてしまえば、この場で打ち首でも文句は言えない。


「まあよい。あれは宰相が書いた手紙ということにしておこうか。これでお互いに貸し借り無しでよいな!」

ニヤリと笑いかけるアリシアに、僕は黙って深くうなずいた。


「さて、カガミよ。貴様の力はよくわかった。貴様を使用人から、わらわの秘書官に取り立てることにする。これからもわらわをよく輔弼せよ!」


アリシアから声を掛けられた瞬間、胸に熱いものがこみあげた。

やった昇進だ!人生初の昇進だ!


これまで苦労してきたけど、やっと評価してくれる上司にめぐり会えた。これからこの人のために頑張ろう!


「ありがとうございます!これからも粉骨砕身頑張ります。」


「うむ…。励めよ。」アリシアも僕の態度に満足そうにうなずいている。


「それで…、僕の給料はどうなりますか?」


「うん?」アリシアがキョトンとした顔で首をかしげている。


「今は使用人だから無給ですけど、秘書官になるんですからそれなりに報酬がもらえるんですよね!」

執務机に身を乗り出しアリシアに迫ると、彼女は表情を崩さぬまま睨み返してきた。


「何を言っている。わらわに仕えられるだけでもありがたいと思え。責任ある仕事を任せてやること、それが貴様への報酬じゃ!」


え~っ!!給料ゼロってこと?報酬は責任?そんなのただのブラック企業のやりがい搾取じゃん。


いや、さすがにブラック企業でも給料は出るからそれ以下だ。

絶望して腰から崩れ落ちた。


「この国がもっと富み栄えて、独立国としての体面を整えた暁には、貴様を叙爵し、領土を封じてやる。せいぜい励め!もう下がってよいぞ!」

アリシアがシッシと手を振るのを見ながら僕は部屋を後にした。


こうして貧乏国に転生して、パワハラ公王女様の腹心として、ブラックな環境でやりがい搾取される僕の異世界ライフが始まった……。


第一章完結。第二章は3月5日木曜日から投稿します。

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