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第12話 十一月の政変(1)

翌朝早く。まだ払暁の頃。

僕はお城の前に立つ門番と対峙していた。ガリア、そしてその部下の32名の騎士とともに。


「我らは公王女にして、治安大臣であるアリシア・サザランド殿下の騎士団である!アリシア様の命により逆賊を捕らえに来た。すぐに門を開けよ!」


門番はまだ年端もいかない若者がたった一人。それが30名を超える武装兵に囲まれ明らかに恐怖におびえている。それでも職務を果たそうと必死で震える声を出した。


「そ、そんなお話は聞いておりません……。」


「これがアリシア様の命令書である!さっさと門を開けよ!」


門番の若者は、ガリアからアリシアの署名がある書面を示されると、責任を逃れる口実ができたと思ったのか、ろくに中身を確認もせず門を開けた。


開いた門から、ガリアとその手下たちが一気に城内になだれこむ!


「逆賊は、宰相のピット閣下である。逃げられぬよう裏口も固めよ!」


さすが歴戦をくぐった元騎士団長のガリア、そしてその部下たちである。あっという間に城を制圧し、まだ寝間着姿の宰相を捕らえ縄に掛けることに成功した。


その間、アリシアは泰然と自室に控え、そしてガリアが連行した宰相の姿を認めると、満足そうに微笑み、すぐに公王の間へ連れて行くよう命じた。



公王の間には、シルビア、秘書長官、衛兵長も集められた。他の使用人たちも部屋の外から中をうかがっている。

僕も廊下に控え、中の様子を窺う。


「い、いったい何事であるか?アリシア!おぬし、クーデターをしたのか!そんなことをすればどうなるかわかっておるのか!?」


公王は病でやせ細っていたが、腐っても鯛。

さすがの貫録である。病床に体を起こしながら威厳のある態度でアリシアに対し怒りを露わにした。


「公王様、クーデターではございません。治安大臣として宰相の謀反を鎮圧したのでございます。」


アリシアはベッドの前で跪きながら、よく通る声で堂々と弁解をしている。アリシアの顔は見えないが、その背中は自信にあふれているように見える。


「わ、儂は謀反などしておりませぬ!まったくのでっち上げです!」

縛られ、ガリアの配下に押さえつけられ、床に座らされている宰相が女性のような甲高い声をあげた。


「黙れ!調べはついておる!カガミ!前へ出よ!あの手紙を持て!」


「ハッ!」


僕は周囲の使用人たちから驚愕の視線を受けながら、公王の部屋へと足を踏み入れ、懐から取り出した紙をアリシアへ渡す。


「読み上げさせていただく。『親愛なる帝国の大宰相閣下。此度は過分なる進物をいただき、誠に感謝している…』」


「それがどうしたのじゃ!それはただの贈答品へのお礼状じゃ!」


宰相はアリシアの声をかき消すように、また甲高い声をあげた。ガリアが宰相を縛っている縄を引き、強引に黙らせる。


「まだ続きがある。『かねてからの督促いただいておりました件、お時間をいただいており申し訳ございません。いよいよシルビアを次の公王に指名させる手はずは整いました。あとは公王に薨去していただくだけでございます。そちらも予定通り進んでおり、シルビアを次の公王に指名したらすぐに実行に移します。春を迎えるころにはシルビアの即位式を執り行えるでしょう。帝国の忠実なる下僕 ピット』、このとおり宰相ピットは公王様を亡き者にして、シルビアを公王に就ける工作をしておりました。帝国の指示で……。」


宰相は「なんだと!」とつぶやき、跳ねるように飛び上がりアリシアに駆け寄ろうとしたが、ガリアに縄を引かれて倒れ、床に這いつくばった。


「これがピットの部屋から見つかりました。公王様もお読みください。確かにピットの筆跡です。」


「むう、たしかにピットの筆跡に見える。」


「で、でたらめじゃ!そんな手紙など書くはずがない!そんなものが儂の部屋にあるはずなどない!」


アリシアは這いつくばりながら叫ぶ宰相をゆっくりと振り返ると、ニヤリと笑った。


「現に貴様の部屋で見つかったのであろう?あの時、たかが子どもが抽斗を開けたくらいで、『首をはねよ』と、しつこくわらわに迫って、大げさに騒ぐから怪しいと思ったのじゃ。兵を入れて部屋を調べたらこの手紙が出て来たというわけじゃ。」


廊下の使用人の間から「たしかに」「あんな小さな子の首をはねろなんておかしいと思ったのよ」といった囁きが聞こえてくる。


「ちがう!ちがう!儂は帝国にそんな手紙など書いていない…。そんな謀り事など考えたこともない!」


「往生際の悪い奴じゃ…。ガリア!あの手紙も出せ!」


「ハッ!」


ガリアはアリシアに手紙の束を差し出した。ざっと10通くらいはあるだろうか。


「これは密貿易団を取り締まった際に押収した荷物から出て来た手紙じゃ。どれもピットから帝国の役人に宛てたもののようじゃのう。なになに…?」


アリシアが読み上げた手紙の内容は、宰相が公国の状況について事細かに帝国へ報告する内容だった。税収の状況から奥向きの話まで詳細に記載されている。


「おぬしが帝国のスパイであることは間違いないようじゃのう。」


あの手紙は、アリシアがガリアに命じた警護料を払わない隊商を襲って押収した荷物から見つかったものだ。よく考えれば、帝国から派遣されている宰相が帝国へ報告書を送るのは当たり前のこと。だから宰相を失脚させる証拠にはならないと思っていた。


だが、さすがアリシア。あえて謀反が書かれた手紙の後に読むことで、いかにも宰相が帝国と内通していたスパイであるかのように印象づけることに成功している。


「よくわかった…。それでどうするつもりだ?」


公王は、渡された手紙を読み、「ふぅっ」とため息をつき、ベッドに身を横たえた。あまりの急展開に疲れ切ってしまったようだ。


「たしか、ピット自身が申しておったな、スパイは古来より首をはねるのが常道であると…。」


その言葉に、公王は跳ね起きた。


「いかん!いかんぞ!ピットは帝国から派遣されておるのじゃ!その首をはねたら帝国への敵対行為になってしまう。なんとか穏便に済ませるわけにはいかんか‥‥」最後は哀願するような口調になった。


「ふむ、公王様がおっしゃるとおり。では、一等減じると、追放…ということになりますが、これも帝国の印象はよくないでしょう。いったいどうしたものか…。」


アリシアの言葉に、ベッドの上の公王は眉をハの字に下げて苦り切った顔をしている。


向かい合うアリシアは対照的に不気味な笑顔を浮かべていた。


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