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第11話 樹海の奥へ

宰相の部屋で捕らえられた僕は、そのまま宰相と衛兵にアリシアの部屋へと連れて来られた。


部屋に入るなり衛兵から首根っこを押さえられ、無理やり床石に額をこすり付けさせられる。


「アリシア殿下!スパイを捕らえましたぞ!我らが城にスパイが紛れ込んでおりました!」


頭上から宰相の喜色を帯びた声が降ってくる。表情は見えないけど、その声色は鬼の首を取ったかのようだ。


頭を押さえつけられたままで、アリシアの様子は見えない。ただ、ハッと鼻で笑うような声が聞こえただけだ。


「とんだ不届き者がいたものじゃな!しかしスパイというのは大げさであろう。まだほんの子どもではないか。」


「いいえ!こいつは、宰相執務室で棚や抽斗を漁って国家機密を探っておりました。スパイに間違いありません。治安大臣としてこのスパイに厳正な処罰を下していただきたい。」


「どのような罰じゃ?」


「古来よりスパイは打ち首と決まっております。」


なるほど、宰相は本当に僕の首を取ろうとしているらしい。

これは万事休すか?


なんとかアリシアが助けてくれないだろうか……一縷の望みを託して、アリシアの次の言葉を待った。


「やはりスパイは大げさであろう。おおかた腹が減って菓子でも隠していないか探していたのではないか?せいぜいコソ泥として罰するのが妥当であろう。」


「なんと手ぬるい!この賊を泥棒として鞭打ち程度で済ませるおつもりか!おおっ、そういえばたしかこの子はアリシア様の侍女のローザ様の推薦で雇われたのでしたな。そうすると、アリシア様の配下ということになる。さすがアリシア様、お身内にはご慈悲深くいらっしゃる。」宰相の嫌味っぽい声が部屋に響いた。


皮肉を言う宰相が憎らしくて腹が立つけど、アリシアのおかげで鞭打ちで済むかもしれない。鞭で打たれるのは嫌だけど、なんとか命だけは助かったか…。


ほっとしたのもつかの間。次のアリシアの言葉に耳を疑った。


「馬鹿者!コソ泥とはいえ、城内で盗みをしようとしたのじゃ!鞭打ちなどの手ぬるい罰で済ませるつもりはないわ!」


「ではどうされるおつもりで?」


「そやつは森で拾ったのだ。だから夜に樹海の奥深くへ捨ててこい。」

僕の頭を押さえつけていた衛兵が小声で「えっ?」と漏らしたのが耳に入った。


「もう冬が近い。闇夜に樹海の奥深くへ捨てれば、きっと出て来られず土に還るであろう。いや、その前に樹海に巣食うモンスターが骨も残さず食ってくれるであろうな。そうすれば、わざわざ衛兵の剣を血の脂で錆びさせなくても済むではないか。」


「えっ、いやっ…しかし…、それは…。」

さっきまで僕を罰しろと息巻いていた宰相が急に口ごもり始めた。


おそらく、宰相としては、たかだか抽斗を開けたり、棚に手を掛けたくらいで、本気で子どもの姿をした僕を打ち首にするつもりなどなかったのだろう。


きっと、アリシアの監督不行届をちくちくといじめ、頭を下げさせるために、わざわざここに来て無理難題を言っていたに違いない。

それが妙な風向きになって戸惑っているようだ。


「おい衛兵!わらわは樹海の奥へ捨ててこいと命じたのだぞ。治安大臣として命じたのじゃ!さっさと連れて行かぬか!言っておくが、ちゃんと戻って来れないくらい奥に捨てて来るのじゃぞ!」


衛兵の力が緩んだので顔を上げると、アリシアはシッシといった感じで手を振っていた。

一瞬だけ目が合ったが、その表情はひどく冷たかった。

なぜか、かつて短い間だけ結婚していた元妻が、離婚直前の時期に見せた冷ややかな表情を思い出した。



「じゃあ、このあたりで縄をほどくから、どこへでも行くといいよ。来世では悪いことしなくても暮らせる国に生まれるといいな…。」


僕を樹海の前まで連れてきた衛兵は、よく見ると優しそうな顔をしたおじいさんだった。

小さな子どもを樹海の奥深くに捨てることに罪悪感を感じたのか、アリシアの指示に反して樹海の入口で縄をほどくと、励ましにもならない言葉を残して立ち去った。


時刻は深夜。月明かりしかなく足元もよく見えない。遠くに狼らしき遠吠えが聞こえる。


「行ったか……。」


衛兵が完全に去ったのを確認すると、僕は樹海に入らず、その脇の見知った道へと足を向けた。


この道は、ガリアたちが住んでいる山の砦につながっている。

アリシアから命じられたガリアへの使いの際に何度も往復してきた。

だから、この道は目をつぶっても歩けるくらい熟知している。


しばらく歩くと道の脇に木のうろがある。


ここにはペンとインク壺、上質紙、マッチ、ランプ、それから画板を隠しておいた。いずれもガリアに調達を頼んだものだ。


僕は木の根の上に腰掛け、マッチでランプに火をつけると、画板の紐を首にかけ、ランプの明りを頼りに紙に文字を書き始めた。時折、頭の中にある映像と照らし合わせながら慎重に文字を書き込む。


いよいよ一世一代の大勝負の始まりだと思うと、ブルっと震えが来た。


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